出会い 四
光がぐらぐら揺れている。いや、街灯が根っこから揺れている。俺たちから十メートルほど離れた街灯が、キイキイと音を立て回転しながらゆっくり揺れているのだ。まるで街灯が意思を持ったように、どんどん振り幅が大きくなってゆく。遠心力がかかって、嫌な風が頬をかすめる。隣で梅が息をのむ音が聞こえた。
汗が身体中から噴き出る。老人のさっき言った言葉が、俺の頭の中でぐるぐると回っていた。
「直に次がくるって……まさか」
「まさかじゃよ」
老人は間髪入れずにそう言うと、右手の掌を街灯に向けた。
急に街灯が動きを止めた。くるりと回り、その黒い鉄の塊を後方にのけ反らせると、なんと俺たち目掛けて一気に倒れ込んできた。
「危ない!」梅が叫んだ。
街灯が眩しい閃光に包まれた。老人が巨大男を消したものと同じ光だ。次の瞬間、甲高い悲鳴が響き渡る。細長い鉄がぐにゃぐにゃと変形し、光の中からギョロついた目が現れた。巨大男と同じ瞳だ。苦しそうに唸っている。
「おのれ……サイダーの住人……だったか」
地響きのような声で確かにそう言い、そして巨大男と同様に跡形もなく消えてしまった。
辺りはまたもや張り詰めた静寂に包まれた。
「いつの世も、どこにおっても、危険はつきまとうものじゃな」
老人はかざしていた右手を降ろすとぽつりと言った。まるで落ち着いている。
「梅はこの先、あやつらから身を隠さねばならなくなる。だが、この世界ではあまりに無防備すぎる。あやつらがいない場所なぞないに等しい。この世界の生き物をやつらは獲物として特に好むからの。だが、いてもあやつらが気付かぬところなら存在する」
「いても、気付かないところ……?」
震えた声で梅が言った。
老人はこっくり頷くと、側にあったベンチに近づいた。俺が見かけた時、老人が寝ていたベンチだ。小洒落たデザインで、背もたれがついている。
「この世界で特殊な能力を持つ者は稀じゃろう。逆に言えば、能力を持つ者は目立ちやすい。見つかりやすいのだ。無防備といったのはそう言う意味じゃ。そう考えると、梅が気付かれぬ場所とは一体どこか。自ずと見当がついてくるはずじゃ。この世界でいうならば、そうじゃな、木を隠すなら森の中へとでもいうかの」
さっきから老人は「この世界」と言う。まるで、「自分はここの生き物ではない」とでも言うように。
「この世界でそこを知るものは極めて少ない。全ての生物が感情を持ち、意思を持ち、言葉を持った世界。わしは君たちをそこへ案内することが出来る」
わしはそこの番人のような者じゃ、と老人は付け足した。