出会い 三
老人の後ろにつくと、老人がゆっくり歩きながら口を開いた。
「まず、あやつは梅の能力に反応して現れたのじゃ。動物と喋ったじゃろう。やつらは獲物を探す目だけは肥えておるからな」
「あの、やつらって、他に何人も?」
「腐るほどおるぞ。姿を変えて、この世にたくさん紛れとる。この周辺にいる輩はもう梅の存在に気付いておるはずじゃ。直に次がくる」
急がなくてはのう、と老人はのんびりと言った。
「君らが出会ったやつはまだ経験の浅い若造だった。常識のあるやつはまず不注意に元の姿で現れたりしない。おおかた君らを驚かせようとしたのじゃろう」
老人の話にさすがの梅もどんどん青ざめていくのが分かった。あんなおぞましいやつに命を狙われるなんて、ましてや生まれつきの治しようのない能力がために獲物にされるなんて、俺なら考えたくもない。
公園に着いた。淡い街灯がぽつんと立って、すっかり暗くなった辺りを僅かに照らしている。
「あやつらは悪魔の一種じゃ」
老人は真剣な顔つきでとうとう非現実的な言葉を口にした。疑いの心が再び俺の中で渦を巻きはじめた。
「嘘だ。悪魔なんているはずがない」
「いるのじゃよ紫くん。君たちが知ろうとしないだけで」
「もちろん知ってる、でもそれは本やテレビの中の話だ。現実には存在しない」
「君はその目で見たじゃないか」
老人のしわしわした人差し指が俺に向けられる。もっともだ。だけど俺はどうしても信じられなかった。
「じゃあ仮にもし悪魔だとしたら……こいつはどうなる? たくさんいるんだろ。今日みたいに何も出来ず喰われるのを待ってろっていうのか」
こんなに他人のことを気にかけていることが自分で不思議だった。なんとなく、今この女を放っておくのは気が引けた。どうしても、車に轢かれそうになった梅の姿に父と母が重なって見えて仕方がない。以前のように何も出来ないまま人が殺されることが嫌なのかも知れない。
なかなか老人の口が開かないので、もどかしくて空を見上げた。晴れた夜空に点々と星が輝いている。それに混じってせいの高い街灯の光が月のようにぼんやり浮かんでいるみたいだ。少し見つめていると、俺はその光が何かがおかしいことに気付いた。
「なにあれ……」