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リトボと山の中腹の最終バス

作者: けい
掲載日:2026/02/05

ものかくの好きで「小説家になろう」登録だけはしてたんです。

いづれは連載物書いてみたいんですけど、短編投稿してみます。

なんか起きると楽しいな。

「はい、というわけで今日も来てくれてありがとう! もう暖簾のれん下げてますからねー。はい、カウントダウンいきまーす!」


画面の向こうのリスナーたちに手を振りながら、俺は深呼吸した。


「5、4、3、2……」


よし、完璧だ。今日は「アイテム禁止バツ」縛りで配信したし、余計なリアクションを取る必要もない。スマートな閉店。これが大人の配信スタイルってもんだ。


「さぁ、配信終了のポチ、押しますよー! おやすみー!」


人差し指が「終了」ボタンまであと数センチに迫った、その瞬間だった。


『ドカーン!!』


画面がピンク色に染まり、ファンファーレが鳴り響く。

コメント欄に表示される無慈悲なシステムログ。


匿名さんがリトルボックスで応援しました!


「はあああああああああ!?」


俺の指が空中でフリーズした。まるで時が止まったかのように。


「ちょ、ちょ待て! 待て待て待て! 今日のタイトル見た!? 『アイテムばつ』って書いてあるじゃん! しかも今、暖簾下げてシャッター半分閉まってんのよ! 片足もう店の外に出てんのよ!」


コメント欄が爆速で流れる。

『ナイスボックスwww』

『延長確定演出キタコレ』

『バス? 知らねえなwww』


「笑い事じゃねえええ! あのね、これ1000ptでしょ? リトボって開封まで何分かかると思ってんの!? 開封待ちしなきゃいけないじゃん! 俺、今日このあと最終バスなの! 田舎の最終バスなめんなよ! 逃したら次の便は『明日の朝6時』だぞ! 野宿確定演出だわ!」


俺は必死に説明した。

「いいかみんな、リスニング・トゥ・ミー! 俺は今からこのリトボのカウントダウン(3分間)と、バス停までのダッシュ(通常4分)を天秤にかけなきゃいけないの! 計算して!? どう考えてもマイナス1分なのよ!」


『走ればいける』

『奇跡を見せてくれ』

『野宿配信もアリ』


「アリじゃねえよ! ここ山の中腹だぞ! イノシシ出るわ!」


だが、投げられたリトボを無視して切るなんて、ライバーのプライドが許さない。俺は覚悟を決めた。


「わかった……わかったよ!! やってやるよ!!」


俺はスマホを片手に持ち、靴を履きながら叫んだ。


「これより『リトボ開封待ち・ミッションインポッシブル』を開始する! このままバス停まで走るからな! 画面揺れるけど酔うなよ! お前ら全員、俺の最後を見届けろぉぉ!!」


俺はアパートのドアを蹴破る勢いで飛び出した。

夜の住宅街を、スマホに向かって叫びながら疾走する不審者。それが今の俺だ。


「ハァッ、ハァッ! 残り2分! バス停まであと500メートル! 誰だリトボ投げたやつ! 感謝するけど今は憎い! 愛と憎しみのハーフ&ハーフだバカ野郎!」


『頑張れwww』

『足音うるさいww』

『通報されるぞ』


「通報されたらパトカーでバス停まで送ってもらうわ!!」


心臓が破裂しそうだ。遠くの通りに、バスのヘッドライトが見える。

そして、手元の画面ではリトボのカウントダウンが『10』を切った。


「バスが来た! リトボも来る! どっちが先だ!?」


プシュー……(バスのドアが開く音)

パッカーン!(リトボが開く音)


「っしゃああああ! 開いたぁぁぁ! コイン回収しろお前らぁぁぁ!」


俺はバスのステップに片足をかけながら、運転手さんにスマホ画面を見せつけた。


「乗ります! 乗りますけど、あと5秒だけ『お疲れ様でした』って言わせてください!!」


運転手さんは真顔で言った。

「お客さん、発車しますよ」


「うおおおお! みんなありがとう! リトボナイス! 愛してる! じゃあね! ポチッ!!」


プツン。


配信終了ボタンを押した瞬間、俺は力尽きて整理券発行機に抱きついた。

車内に響く「整理券をお取りください」のアナウンスが、今日の配信のエンディングテーマだった。


バスの窓から見えた夜空の月は、投げられたリトボみたいに輝いていた気がする。

……ただ一つ問題があるとすれば、勢い余って「反対方向」のバスに乗ってしまったことだけだ。


俺の長い夜は、まだ終わらない。

短編読んでいただいた方いたら感謝です。ありがとうございます。

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