リトボと山の中腹の最終バス
ものかくの好きで「小説家になろう」登録だけはしてたんです。
いづれは連載物書いてみたいんですけど、短編投稿してみます。
なんか起きると楽しいな。
「はい、というわけで今日も来てくれてありがとう! もう暖簾下げてますからねー。はい、カウントダウンいきまーす!」
画面の向こうのリスナーたちに手を振りながら、俺は深呼吸した。
「5、4、3、2……」
よし、完璧だ。今日は「アイテム禁止」縛りで配信したし、余計なリアクションを取る必要もない。スマートな閉店。これが大人の配信スタイルってもんだ。
「さぁ、配信終了のポチ、押しますよー! おやすみー!」
人差し指が「終了」ボタンまであと数センチに迫った、その瞬間だった。
『ドカーン!!』
画面がピンク色に染まり、ファンファーレが鳴り響く。
コメント欄に表示される無慈悲なシステムログ。
匿名さんがリトルボックスで応援しました!
「はあああああああああ!?」
俺の指が空中でフリーズした。まるで時が止まったかのように。
「ちょ、ちょ待て! 待て待て待て! 今日のタイトル見た!? 『アイテムばつ』って書いてあるじゃん! しかも今、暖簾下げてシャッター半分閉まってんのよ! 片足もう店の外に出てんのよ!」
コメント欄が爆速で流れる。
『ナイスボックスwww』
『延長確定演出キタコレ』
『バス? 知らねえなwww』
「笑い事じゃねえええ! あのね、これ1000ptでしょ? リトボって開封まで何分かかると思ってんの!? 開封待ちしなきゃいけないじゃん! 俺、今日このあと最終バスなの! 田舎の最終バスなめんなよ! 逃したら次の便は『明日の朝6時』だぞ! 野宿確定演出だわ!」
俺は必死に説明した。
「いいかみんな、リスニング・トゥ・ミー! 俺は今からこのリトボのカウントダウン(3分間)と、バス停までのダッシュ(通常4分)を天秤にかけなきゃいけないの! 計算して!? どう考えてもマイナス1分なのよ!」
『走ればいける』
『奇跡を見せてくれ』
『野宿配信もアリ』
「アリじゃねえよ! ここ山の中腹だぞ! イノシシ出るわ!」
だが、投げられたリトボを無視して切るなんて、ライバーのプライドが許さない。俺は覚悟を決めた。
「わかった……わかったよ!! やってやるよ!!」
俺はスマホを片手に持ち、靴を履きながら叫んだ。
「これより『リトボ開封待ち・ミッションインポッシブル』を開始する! このままバス停まで走るからな! 画面揺れるけど酔うなよ! お前ら全員、俺の最後を見届けろぉぉ!!」
俺はアパートのドアを蹴破る勢いで飛び出した。
夜の住宅街を、スマホに向かって叫びながら疾走する不審者。それが今の俺だ。
「ハァッ、ハァッ! 残り2分! バス停まであと500メートル! 誰だリトボ投げたやつ! 感謝するけど今は憎い! 愛と憎しみのハーフ&ハーフだバカ野郎!」
『頑張れwww』
『足音うるさいww』
『通報されるぞ』
「通報されたらパトカーでバス停まで送ってもらうわ!!」
心臓が破裂しそうだ。遠くの通りに、バスのヘッドライトが見える。
そして、手元の画面ではリトボのカウントダウンが『10』を切った。
「バスが来た! リトボも来る! どっちが先だ!?」
プシュー……(バスのドアが開く音)
パッカーン!(リトボが開く音)
「っしゃああああ! 開いたぁぁぁ! コイン回収しろお前らぁぁぁ!」
俺はバスのステップに片足をかけながら、運転手さんにスマホ画面を見せつけた。
「乗ります! 乗りますけど、あと5秒だけ『お疲れ様でした』って言わせてください!!」
運転手さんは真顔で言った。
「お客さん、発車しますよ」
「うおおおお! みんなありがとう! リトボナイス! 愛してる! じゃあね! ポチッ!!」
プツン。
配信終了ボタンを押した瞬間、俺は力尽きて整理券発行機に抱きついた。
車内に響く「整理券をお取りください」のアナウンスが、今日の配信のエンディングテーマだった。
バスの窓から見えた夜空の月は、投げられたリトボみたいに輝いていた気がする。
……ただ一つ問題があるとすれば、勢い余って「反対方向」のバスに乗ってしまったことだけだ。
俺の長い夜は、まだ終わらない。
短編読んでいただいた方いたら感謝です。ありがとうございます。




