表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
叛逆のレギオン  作者: 02
20/20

第19話 龍の目覚め

 


 それは――かつて数多の生物に畏れられた存在だった。


 人間がまだ都市を築くよりも前、王国も文明も影も形もなかった太古の時代。

 その世界の頂点に立っていたのは、人でも魔でもなく――龍であった。


 中でも「古龍」と呼ばれる存在は数が少なく、しかしその力は桁外れだった。

 一体の咆哮で山が裂け、翼の一振りで嵐が生まれる。

 その圧倒的な存在感ゆえに、すべての人類種族、そして魔物でさえも彼らを「覇王」と呼び、恐れ伏した。


 だがある時を境に、古龍は姿を消していった。

 その理由を知る者はいない。大地が彼らを拒んだのか、神々が力を奪ったのか――真相は闇に閉ざされている。

 ただ残された記録は、「古龍は滅びの運命を免れぬ」と断じていた。


 今や人々は古龍を神話の産物と考える。

 存在しているかも分からない、失われた時代の影。

 だが――その影が、いま現実となろうとしていた。


 龍の復活を可能にすると言われる禁忌の遺物。

 伝承によれば、ある天才魔導師が生涯をかけて作り出したとされる。

 膨大な魔力と緻密な術式が封じ込められ、さらに使用者の生命力を糧とすることで、失われた古龍を呼び戻す。


 しかし――実際に使用された例は一度もない。

 伝承の域を出ず、眉唾物とすら言われた。

 だが危険性だけは明らかであり、ゆえに王国は聖遺物として厳重に保管していた。


 ……はずだった。


 何者かの手によって奪われ、そして――使われてしまった。


 ヴァルトの崩れ落ちた身体の傍らで、粉々になった龍涙の欠片がなお赤黒い光を放ち続けていた。

 それは大地の底から吹き上がるような魔力の奔流となり、広間全体を呑み込んでいく。


 石壁が軋み、床が裂け、天井から砂や岩片が降り注ぐ。

 空気は鉄臭く、熱を帯びて灼けるようだ。息を吸えば肺が焼ける。


 囚われの人々は、そのあまりの圧力に悲鳴を上げ――やがて一人、また一人と気を失っていった。

 危害が加えられたわけではない。だが、理屈を越えた存在の気配に心が折れ、意識が闇に沈んだのだ。


 セリスは剣を構え、渦の中心を見据える。

「……まさか、本当に」

 声が震えたのは、恐怖か、確信か。


 黒い渦はさらに膨張し、やがて一つの形を結び始める。

 巨大な影。背を覆う甲殻のような鱗、地を踏み割るほどの脚、空を覆う翼。


 大地を震わせる咆哮が広間を貫いた。

「――――グォオオオオオオオオッ!!!」


 耳を塞いでも意味がない。

 骨まで震わせる咆哮に、空間そのものが軋みを上げる。

 天井の石材が崩れ、砂塵が視界を覆う。


 姿を現したのは、灰色の巨躯を持つ竜。

 その鱗は一枚ごとに刃のような光沢を放ち、翼は広げるだけで広間を埋め尽くす。

 双眸は血のように赤く、燃えるような憎悪を宿していた。


 セリスは剣を握る手に力を込める。

「……古龍エンシェントドラゴン。本当に……!」


 かつて覇王と呼ばれた存在。

 人類が最も畏れた災厄が、いま現実に蘇ったのだ。


 一歩。

 それだけで床が揺れ、石柱が崩れ落ちた。

 翼を揺らせば暴風が生まれ、天井の瓦礫が次々と吹き飛んでいく。


 そして、喉奥で生まれた赤い光。

「……来る!」

 セリスは咄嗟に飛び退いた。


 次の瞬間、紅蓮の灼熱が吐き出され、広間を丸ごと飲み込んだ。

 石床は熔け、牢の鉄格子すら赤く焼け落ちる。

 轟音と熱波に押され、壁際の人々は耐えきれず意識を失っていった。


 セリスは歯を食いしばり、全身に力を込める。

(止めなければ……この街も、人々も――!)


 だが、その心の奥に小さな違和感も芽生えていた。

 ――目の前の古龍は確かに恐ろしい。だが、どこか“足りない”。

 全盛の覇王であれば、この程度の威圧で済むはずがない。


(……不完全。だが、今の私にとって十分すぎる脅威だ)


 古龍は再び咆哮した。

「――――グオオオオオオオッ!!!」


 その声はただの音ではない。

 世界そのものを圧する呪詛のごとき響きだった。


 灰色の鱗が赤い光を反射し、広間は血に染まったかのように赤黒く照らされた。

 その光景はまるで、地獄そのもの。


 セリスは剣を構え直し、赤い瞳を真っ向から睨み返した。

「……負けるわけにはいかない」


 竜の巨影が一歩を踏み出す。

 広間を覆う絶望が、いよいよ現実の死へと変わろうとしていた。


読んでくださりありがとうございます。


感想をいただけると励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ