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叛逆のレギオン  作者: 02
12/20

第11話 白き影との邂逅

 

 倉庫の前。

 銀白の髪を揺らし、蒼い瞳を宿す女が姿を現した。


 セリス・アルヴェイン。


 その気配に、イグナスが警戒を強める。だが女の瞳には敵意はなく、ただ静かに状況を見極める冷ややかさがあった。


「……ここで仕掛けるのは得策ではありません」

 セリスが先に口を開いた。声は柔らかだが、決して揺るがない響きを持っていた。


「今夜は動きを読むに留めましょう。あなた方という“想定外”が現れた以上、結社の側も警戒しているはずです」


 ゼオンは短く目を細めた。

 Sランクの彼女が自ら退く判断をしたのは意外だったが、理に適っていた。


(……俺が判断するまでもなかったな)


 夜風に衣が揺れ、三人はそれぞれ倉庫を後にした。


 ⸻


 翌朝の宿にて


 食堂には香ばしい匂いが立ち込めていた。

 こんがりと焼かれた白パン、ハーブを効かせた豆のスープ、そして半熟に仕上げられた卵焼き。

 ゼオンは熱々のパンをスープに浸し、口に運んだ。

 パンの香草の風味と、スープの滋味が広がり、思わず口の端が緩む。


「ふむ……なかなかだな」


 そんな折、背後から声がした。

「ご一緒してもよろしいでしょうか?」


 振り返ると、セリス・アルヴェインが立っていた。

 夜の緊張感に包まれた姿とは違い、朝の光を浴びる彼女は清冽な印象すら与える。


 ゼオンが無言で顎を引くと、セリスは向かいの席に腰を下ろした。


 ⸻


 協力の要請


「昨夜は偶然でしたが……やはり、同じものを追っているようですね」

 セリスが切り出した。


 ゼオンはスープを口に運びながら答える。

「偶然だろう。俺はただ依頼を果たしていただけだ」


「灰鉄――裏路地の金物屋をご存じですね」

 セリスの蒼い瞳が静かに射抜く。


 ゼオンは少し眉を上げる。

「……“灰鉄の店”。表向きは釘や工具を売る雑貨屋だが、裏で魔導触媒や禁制の素材を流している連中だ」


「そう。彼らは結社の拠点に資材を流しています」

 セリスは頷き、言葉を重ねた。

「私はこの街に、その調査のために来ました。……あなたの嗅覚と観察眼は、放っておくには惜しい」


 ゼオンは鼻で笑った。

「冗談だろう。俺はEランクの新米だぞ。わざわざSランクが声をかける相手じゃない」


「ランクなど形式にすぎません」

 セリスの声は穏やかだが、芯が強い。

「危険を察知し、証拠を掴み、的確に引く判断を下せる者。私にとっては、それだけで十分な協力者です」


 ゼオンはスプーンを置き、しばし黙考した。

 セリスの言葉には打算や高圧さはなかった。ただ真摯な眼差し。

(……面倒事は嫌いだ。だが、このまま放置すれば俺の“自由”も脅かされるか)


 やがて、低く返す。

「……俺の目的は自由だ。それを妨げるものは排除する。それだけだ」


 セリスは小さく笑みを浮かべた。

「それなら、私たちの目的はきっと重なりますね」





 その頃、森の奥では別の動きが蠢いていた。


 黒い外套を纏った影たち。

 結社の術者たちが、次なる駒を操ろうとしていた。


 ゼオンの「自由」を脅かす存在――

 その端緒は、すでに森の闇で芽吹きつつあった。

読んでくださりありがとうございます。


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