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叛逆のレギオン  作者: 02
11/20

第10話 黒き影を追う者

 翌朝。

 ゼオンは西方街道の外れ、昨夜ワイバーンが墜ちた地点に立っていた。

 土は抉れ、炙られた木々からはまだ焦げ臭さが漂っている。風が灰を舞い上げ、ひらひらと漂わせた。


(偶然にしては出来すぎだ。街道を狙ったかのように飛来して……しかも動きが不自然だった)


 足元の灰を払うと、円を描く煤の跡が現れた。点々と白い粉が撒かれている。

 ゼオンはそれを指で摘み、冷たい感触に眉を寄せる。


(魔法触媒の粉……飛竜を呼び寄せる簡易陣か)


 さらに視線を巡らせると、森の奥へ浅い轍が続いていた。何かを引きずった痕跡だ。


「……出ろ。匂いを追え」


 影から二体の黒毛のウルフが現れた。地を嗅ぎながら森の奥へ進む。

 ゼオンはその後を追い、枝の折れ方や崩れた土の痕跡を拾いながら進んだ。


 やがて崖の裂け目に黒い穴が口を開けていた。縁には泥と靴跡。奥からはかすかな灯りの気配がある。


「……確かめるか」


 ゼオンが影に命じると、そこから人影が現れた。


「説明くらいしろよ、主殿」

 現れたのは魔法剣士イグナスだった。剣の柄を叩き、肩を鳴らす。


「前を任せる。罠に気をつけろ」

「おいおい、俺は突っ込むのが仕事だろ」

「自覚があるなら扱いやすい」

「……そこは否定しろ!」


 軽口を交わしながら、二人は洞窟に入った。


 冷たい金属の匂いが鼻を突いた。

 円形の部屋。床には擦られた魔法陣、中央には黒い石台。爪痕と鱗片――ワイバーンを繋ぎ止めた痕跡だ。


(やはりここで呼び出していたか。飛竜は試し……狙いはもっと上位の竜だ)


 その時、横穴から黒ローブの男が二人飛び出した。短杖を構え、痩せた犬のような召喚体を呼び出す。


「侵入者を排除しろ!」


 イグナスが前に出る。剣に炎を纏い、一歩。

 低い踏み込みで骨犬を斬り裂き、そのまま杖を弾き飛ばした。

「やっぱり斬るのが一番だな!」


 もう一人の魔術師が闇弾を放つ。ゼオンは影を弾き、ハイオークを呼び出す。棍棒が振り下ろされ、魔術師を沈めた。


 逃げた者もいたが、ゼオンは首を振る。

「末端だ。追っても意味はない。ここは情報を拾う」


 石台の隙間から羊皮紙を抜き取る。


「分かるか?」


「見覚えあるな……そうだ、“灰鉄の店”。確か街の裏通りにある店だな」


「上を狩るなら、こういう糸を掴むしかない」


 昼下がりのエリュシオン。

 表通りの賑わいから裏路地に入ると、人影はまばらになる。

 ゼオンは古びた金物屋の地下に、不自然に揺れる魔導灯を見つけた。


 通風口から覗くと、中では粉袋を詰める男たちと、帳面に印を押す女。

 女の指には古い紋章の指輪が光っていた。


(術者の一人……か)


 女が粉袋を抱えて倉庫へ向かうのを、二人は尾行した。


 倉庫の前。

 イグナスがぼそりと呟く。

「……ここが本命か」


 ゼオンは影の気配を確かめながら答えなかった。

 夜風が吹き抜け、埃が舞う。


 その時、背後から規律の整った足音が近づく。

 振り返ると――


 銀白の髪を風に揺らし、蒼い瞳を宿した女性が現れた。


 セリス・アルヴェイン。


 その姿を見た瞬間、ゼオンの胸の奥に微かなざわめきが走った。

 ただ者ではない。直感がそう告げていた。

読んでくださりありがとうございます。


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