血の雪、老人のテント
煙が静かに立ちのぼる。空は深い群青に染まり、世界は静けさに包まれていた。
村外れの屋敷で、レンは身を固くし、荒く息をしていた。恐怖が喉を締めつける。
――その時。
どこからともなく、囁くような声が響く。
それは人の声ではなかった。
影の中から。
ドアの下、壁の裏、木の隙間――
毒のように、じわじわと染み込む声が囁く。
「奴は知っている」
「奴は俺たちを追ってきた」
「皆殺しにしろ。残りは焼き尽くせ」
レンは飛び出した。
兄を探し、村へと駆ける。
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シーン:九条の部屋
レンがドアを蹴り開ける。
九条(17)は床に倒れている。全身血まみれで、片腕は力なく垂れ下がり、かすかに呼吸していた。
その上に、影の悪魔が覆いかぶさっている。
牙が胸に突き立てられる瞬間――
「やめろぉおおおおッ!」
レンが叫び、斧を振りかざして突進する。
渾身の一撃が悪魔の頭を叩き割る。黒煙が吹き出し、影が崩れ落ちる。
レンは九条を抱きかかえ、その場を後にする。
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シーン:森の小道 ― 数時間後
雪が降り続く中、レンは九条を背負って歩いていた。
九条の唇から血が滴り落ち、レンの足元に赤い染みを残す。
レンの足は震え、息は白く荒くなる。
それでも、彼は止まらなかった。
数時間が過ぎた頃――
闇の中に、わずかな光が見える。
テントが一つ。
その前に、老人が姿を現す。
老人:
「やっと来たか。九条とレン……君たちを、待っていた。」
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テント内
レンは混乱の中で膝をつく。
レン:
「なぜ……僕たちの名前を……?」
老人:
「時間がない。兄さんが危ない。中に入れ。」
中は暖かく、火がはぜる音と、やかんの音だけが響いていた。
老人は九条を手早く包帯で巻き、そっと寝かせる。
レンはその場で力尽きるように倒れる。
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数時間後 ― テントの中
レンは毛布の中で目を覚ます。服は乾いていた。
目の前に、湯気を立てるボウルが置かれている。
老人は鍋をかき混ぜながら言う。
老人:
「食え。冷める前にな。」
近くで九条が目を開けていた。弱々しくも、生きている。
レン:
「……ありがとう。」
沈黙の中で、二人は食事を始める。
やがて、レンが口を開く。
レン:
「……俺たちが来るって、なぜ分かった? あんたは……何者だ?」
老人(静かに):
「……全てを失った者だ。妻と、二人の娘。叫びながら、引き裂かれ、俺の目の前で死んだ。」
火を見つめながら、老人は続ける。
老人:
「影の悪魔は、飢えのために人を殺すのではない。存在を消すために、殺すんだ。誰からも、忘れ去られるまで。」
レンは唇を噛みしめ、拳を握る。
九条は咳き込みながらも、声を絞り出す。
九条:
「……なぜ、僕たちが狙われた……?」
老人:
「君たちが、生きているからだ。奴らはそれを憎む。」
木々の間を、闇が忍び寄る。
遠くから、また囁きが聞こえる。
「彼は……覚えている。」
「彼は……生きている。」
雪が、黒に染まりはじめる――




