2.どちらかは起きていよう
まぶしい。朝が来た。メロンパンの時間だ。
私のこだわりはそのまま食べるのではなく、トースターで焼くこと。
トースターがあるときはだいたいそうしている。なぜならカリカリになるからだ。
焼いている間にコーヒーを淹れる。砂糖を忘れずに。
チーン!
焼けた。
「いただきます。」
サクッ。すばらしい焼き加減だ。今日は良い日になるだろう。
ドタドタドタドタ!!!!
ガチャっ!
「おはよーっス!!!! 依頼来たっすよ!」
「おはよう、カロン君。今日も元気だね。」
「うス! カオルさんは相変わらず読書っスね。なに読んでるんスか?」
「今日は”馬鹿と天才は紙一重な訳がない”っていう本だね。」
「なんスかそれ。あ、依頼っスよ依頼。ダリンからですね。」
「ふむ。ダリンか。遠いね。」
ダリン。ここから700キロぐらい離れたところに位置する国で、割と栄えている国だ。何か有名なものはあったかな。たしかバナナが有名だったような気がする。暑い国だ。
今は隣国のタンキという国と戦っている。劣勢のようだ。
「受けるっスか?」
「うん、報酬はそうだな、5億ビーでいいか。」
「じゃあ、返事送っとくっス。」
「ありがとう。じゃあそれが終わったら出発しようか。」
ちなみにここはタカラトラーリにある宿だ。
私たちは仕事柄様々なところに行くので家を持たない。行った土地に泊まるのがライフスタイルだ。
「お代は6000ビーです。」
「ビーパイで」
ビーパイッ!!
私のデジプレートから出た野太い声がフロントに響く。
ちなみにデジプレートとはそちらの世界で言うスマートフォンのようなものかな。
「ありがとうございました。」
「ありがとうございましたっス。」
「はい、お気を付けて。」
ダリンまでは列車に乗って10時間ぐらいだ。長い。
最寄りはタカラトラーリ西口駅だ。歩いて3分。近くて助かる。
「さあ、とりあえず駅まで行こうか。」
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「着いたっスね。」
人はあまりいない。まあ平日のお昼前だからかな。切符を券売機で買って10時50分発の列車に乗る。
ダリン駅までは一本でいける。
景色が次第に変わっていく。
街から田んぼ、また街かと思ったらまた田んぼ。
そうやって繰り返す景色をよそに私は寝てしまった。
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着いたのはタンキ駅だった。
どうやらカロン君も寝てしまったらしい。
いったん降りてまた戻るか。
「すいません、カオルさん、、、。」
「いや、カオル君は悪くないよ。私も寝てたしね。とりあえず引き返そうか。」
そう思って反対側のホームに移動しようとしたその時だった。
私の目に飛び込んできたもの。それはこの世のどんな言葉よりも文字よりも強烈だった。
改札のその向こうにある屋台ののぼりに書かれているその5文字。
そう、
”メロンパン”
「カロン君、少し散策していこう。」
「了解っス。」
もうすぐ地図から消えるこの国に触れてしまったことを、後悔するのはまだ先のこと。
読んでいただきありがとうございます。
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