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学校の七不思議 5

 薩摩晴日(さつまはるひ)の朝は早い。

 「健全なる魂は健全なる精神と健全なる身体に宿る」を掲げる薩摩は朝6時前後に起床し、前の日の夜に炊いてあった白米を納豆と味噌汁、気分によって目玉焼きやハムベーコンと併せて食べる。

 薩摩家で培った規則正しい生活を、一人暮らしの今でもできるだけ維持しようと心がけていた。


「うーー、やるかぁー」


 とは言っても、まだ二十歳(はたち)。周りの友人は自由気ままで朝なのか夜なのかわからないような生活を送っていて、その影響を受けることも少なくない。化粧だけ落としてそのまま寝てしまうこともあるし、忙しい日々が続く時は部屋は散らかったままだ。

 今日もそんな日である。

 昨夜、学校の調査の仕事を請けて同僚の鬼切と共にA地区の小学校へ行ってきたが今までこなしてきた怪異現象の調査とは違い「ホンモノ」の怪異との戦闘が起きた。今思えばよく2人とも無事に家まで帰れたと思う。教頭の江頭が途中で現れていたらきっと帰れていなかったと思う。

 薩摩はシャワーを浴びて下着姿のまま髪を乾かす。両親にぎりぎり許してもらえた茶色の髪も地毛の割合が増え始めているため染め直す時期だ。

 その後、簡単に化粧を済ませて着替える。洗濯物が溜まっているがやる気は起きない。


「あ、おにぎりくんからだ。」


 歯磨きをしながらメッセージを開くと、今日の集合時間と場所が書いてあった。ガチガチの事務連絡に思わず笑みがこぼれる。

 素早い入力で「りょーかい!」と返信し、オマケにスタンプをひとつつけてあげた。

 昨日からほったらかしだった鞄には法典と、や簡単な救急セットを入れてみた。上京する時に法典と共に両親から渡されたよくわからない赤い宝石が散りばめられた指輪を着けてみた。


「よし、行こう」


 玄関の鍵を閉め、鞄の内側のポケットに入れファスナーを閉める。築四年家賃5万円の1LDKは一人暮らしには快適すぎる。親に頼らず生きていくためにはなんとか江頭を倒すしかない。

 外はまだ7時にも関わらず蝉が元気よく鳴き、日差しが強い。二重に塗った日焼け止めが効果を発揮してくれることを祈って鬼切との集合場所に向けて歩き出す。


「おはよう」


「おはよー!」


 鬼切は相変わらず白いTシャツにスラックスのようなスタイルにスニーカーだった。気持ち昨日より動きやすそうな服装だ。

 薩摩も昨日のTシャツにショートパンツとは違い、スウェット生地のセットアップにスニーカーだ。


「昨日の怪我は大丈夫? だいぶ痛そうだったけど」


「意外と大丈夫。昼間のうちにもう一度学校内を調査しようと思うんだけどどうかな」


「賛成〜。ただ色々とアイテムを準備したほうがいいかもね、おにぎりくんは防具とか」


 昨日のことを考えれば剣道用の防具を揃えるくらいしてもいいかもしれない。

 鬼切は近くで売っているであろう店を検索してみる。武道具屋が何軒かヒットしたが、遠いし最低価格が数万円からだ。


「高い...」


「空手とかの防具はちょっと安そうよ。」

 

 調べてみると安いものだと2万円程度で揃う。

 しかも剣道の防具と違い服の中に着込めそうだ。


「ちょっとこれ、買ってくるよ。薩摩さんは何か買いに行く?」


 そう言われて薩摩は考えを巡らせた。

 自分に必要なもの、それがあることで依頼を達成する確率を上げられるもの。


「爆弾とかナイフとか買おうかな」


「あぶな! 刃物はともかく、爆弾は無理でしょ!」


 鬼切のツッコミを軽く受け流しながら刃物はどうだろうかと検討してみる。仕事のためとはいえ、警察に職務質問された際に怪異を祓うためなんて通用するはずもなく、銃刀法違反になってしまう。

 素人が武器を持っても大して役には立たない。


「私はいいかな、勉強でもしとく」


 薩摩の閻魔律は閻魔大王の代理として現世に現れた怪異を裁くものだ。

 特に、自身と契約を結んでいる執行者の能力を把握することは重要で相手に合わせて召喚する執行者を適切に選択する必要がある。

 昨日の蔵葉のように、あっという間に倒されてしまってはなす術がない。処刑者・蔵葉は地獄では名を聞くだけで罪人が温情を求めて自首するほどの猛者だ。

 鬼切は自転車に跨ると武道具品店に向けて走り出し、薩摩はA地区の小学校に隣接した図書館に向けて歩いた。



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