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学校の七不思議 4

「おにぎりくんッ!!」


 人体模型にマウントポジションで殴打される鬼切を呼ぶが意識が飛んでいることは一目瞭然だった。

 というより、これ以上殴られると命に関わる。


「冥法第一条『境界侵犯』及び第十二条『暴行及び傷害』の罪により、現世退去を命ずる! 執行者『処刑者・蔵葉(くらは)』!」


 法典が光り、薩摩の前に巨大な包丁のような刀を両手に一振りずつ携えた剣士が現れた。渦巻きにいくつもの目がついた仮面を被り黒い装束を纏う蔵葉は人体模型に対し刀を雑に振り下ろした。


「はんぶん、ちょうだい」


 人体模型は片手で蔵葉の刀を止めると簡単に奪い取る。そしてその刀で蔵葉を真っ二つに叩き切った。


「あっ!!」


 蔵葉の半身を掴んだ人体模型の口角が鋭角に吊り上がり、満面の笑みになった。

 そして顎が外れるくらいに口を開けると吸い込むように蔵葉を喰らった。


「はんぶん、はんぶん」


 蔵葉のもう半身は消滅し、人体模型は一回り大きくなったように薩摩には見えた。


「こうなったらやるしか!」


 薩摩の『閻魔律』は、ひとつの対象に対し罪状を突きつけ刑を執行するものだが、万が一執行者が失敗した場合でも刑の執行自体は行われたこととなり追加で執行することはできない。

 それ故に相手の力量を見極め、最適な執行者を召喚することが求められるが、薩摩が契約している執行者はまだ少なかった。

 薩摩は法典を鞄に入れ、鞄を下ろして肩を回す。

 右足を引き、拳を構える。精神鍛錬用の護身術だが、なんとか隙を見つけて鬼切を救うほかなかった。


「はんぶん、はんぶん」


 ゆっくり歩み寄る人体模型。

 薩摩は走って距離を詰めて後方へ回り、背中に組み付くと首に腕を回し裸締めに移る。

 模型といえど所詮人体、首を極めれば苦しむはずと見積もり仕掛けたが、木のような質感はやはり模型だった。

 簡単に手を後ろに回され薩摩は肩を掴まれた。


「ううう!!」


 薩摩は必死に首を絞めながらしがみつき、引き剥がされないように耐えた。だが徐々に人体模型に引きずり下ろされそうになる。

 腕に力が入らなくなり、いよいよ引き剥がされそうになったとき、人体模型の動きが止まった。

 薩摩は人体模型の手を振り解き、背中から離れて距離をとる。すると背中のちょうど胸のあたりから刀の切先が現れた。


「ごめん、薩摩さん。気失ってた。」


「おにぎりくん!」


 鬼切は心臓に突き立てた刀を抜くと人体模型は力無くその場に崩れた。

 足元がおぼつかない鬼切を薩摩が支え、椅子に座らせる。薩摩は鬼切の殴られた顔を確認したが、思っていたより傷が少ない。


「すごいね、あれだけ殴られてもこれだけの傷で済むなんて」


「この刀を使って怪異と戦うとき多少身体が強くなるんだ。ただどういうきっかけとタイミングで強くなるのかまるでわからないんだけどね。」


「なんか不便だね。」


 音楽室の入口を警戒しながら2人は少しの間休む。

 人体模型が音楽室にいた理由は不明だが、七不思議でいう音楽室の肖像画と理科室の人体模型をクリアしたのなら結果的に良かったのかもしれない。

 ふと鬼切が壁を見ると、壁の一部だけ壁紙の色が違っていた。それは1箇所だけじゃなく等間隔で数ヶ所ある。


「薩摩さん、この壁の色が違うところって、たぶんベートーベンとかの肖像画があるところだよね。」


「言われてみればたしかに。そういえばないね!」


 肖像画があった場所はぽっかりと空いていた。

 

「蔵葉が食べられたようにベートーベンたちも食べられたのかな」


 召喚した執行者はこちらの世界でどうなろうとも本体に影響はない。基本的には力の一部を幻影のような形で召喚しているに過ぎないからだ。


「でも人体模型の七不思議で『食べる』って話聞いたことない。なんか変だ。」


「まあ吸血鬼もいないしね。アイツがなにかしたのかも」


 薩摩は立ち上がり鬼切へ手を差し出す。


「そろそろ行こっか」


「うん」


 鬼切は薩摩の手を取り立ち上がる。

 薩摩は力強く鬼切の手を握り引っ張るように歩いていく。鬼切は回復したとはいえその足取りは重い。

 刀をもっと上手く扱わないと本当に危険なことになる。鬼切の頭の中にはこの夜を生き延びれるか、不安が渦巻いていた。

 

「おにぎりくん、やっぱり結界を壊してここから出よう!」


「江頭は?」


「不意打ちで逃げる! 人体模型であんななのに吸血鬼に勝てっこないから!」


 結界は学校を覆うように張られている。

 つまり学校の周囲に結界の基礎となる何かがあるはずでそれを破壊して脱出するという案だ。

 

「薩摩さん、心当たりがある。二宮金次郎像だ、俺が江頭なら二宮金次郎の七不思議に結界の基礎を守らせる。」

 

「じゃあ二宮金次郎だけ頑張って倒そう!」


 2人は階段を駆け下り、玄関を飛び出してグラウンドに出る。そして校門まで続くアスファルトを超えて学校を囲む林の中に入る。

 鬼切が調べた二宮金次郎は夜も変わらず同じ場所で佇んでいる。


「結界の基礎は札とか石とか。怪しいものがないか調べよう。」


 2人が金次郎像の周りを調べていると不意に鬼切は誰かに肩を叩かれた。

 振り向くとそこには、この学校の制服を着た少年が立っていた。その少年は金次郎像の背中を指差した。


「あ、薩摩さん! 金次郎の背中に宝石のようなものがある!」


「それだよ! 鬼切くんとって刀で切って!」


 鬼切は金次郎像の背中に背負った薪の中から宝石を取ると刀を突き刺した。

 結界が解かれたのか、辺りから車の音や生活音が聞こえるようになった。

 力が抜けた鬼切は金次郎像にもたれかかるように座り込み、宝石の位置を教えてくれた少年にお礼を言おうと辺りを見渡すが、少年はどこにもいなかった。


「鬼切くん、帰ろっか」


 鬼切と薩摩は学校の敷地外に出て、夢子は電話をかける。電話の向こうの夢子は興味津々に2人の話を聞いていた。


「へぇー、面白そうなことになってるね。じゃあ明日も引き続き頑張って〜」


 それだけ言うと夢子は一方的に電話を切った。

 2人は何かしらの支援に期待していたがその期待は虚しく、見つけたタクシーに乗り込んでそれぞれ帰路に着いた。

 鬼切が家に着くと、携帯電話に薩摩からメッセージが届いていた。


「今日はありがとね! 明日も頑張ろうね!」


 それだけの簡単なメッセージだったが鬼切は明日も頑張ろうと心に決めて布団に入った。



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