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経済の話

“103万円の壁”問題から ~マスコミの情報規制と勘違いと経済政策

 1.大手マスコミは情報を規制している

 

 2016年の話です。世界報道自由度ランキングで、日本が72位になったという事が大きく話題になっていました。これは韓国よりも低いレベルで、先進国の中では最低クラスです。

 この当時、このランキングを信じていない人達が多くいたのを覚えています。ちょっと軽く触れておくと、特別会計とか人権擁護法案とか2008年度の財政破綻危機とか、本来ならばもっと大きく報道すべきなのに報道していなニュースは数多くあり、マスコミが情報規制を行っているだろう証拠はたくさんありました。それでも日本の報道自由度ランキングが低い事実を信じない人達が多くいたのです。

 『民主主義の死に方 スティーブン・レビツキー、ダニエル・ジブラット 新潮社』という書籍では、情報規制されている国では、国民が情報規制されている事実を信じないといったような記述があります(それは、つまりは、それだけ巧みに国が国民を騙せているという話でもあります)が、当に日本はその状態にあったと言えるでしょう。

 が、2024年現在はそのような状態から既に抜け出せているのかもしれません。何故なら、兵庫県知事選挙において、大手マスコミが大バッシングしていた斎藤知事が見事に再選を果たしたからです。

 一応断っておくと、僕は斎藤知事にまつわる様々な情報のうちどれが正しいのかを知りません。ネットで拡散されていた情報と、盛んにマスコミが報道していた情報、より正確だったのがどちらなのかは分からないのです。

 が、それでも、これは歓迎すべき“事件”であると判断しています。

 一つにはこれまで政治経済に無関心だと言われていた若い世代が積極的に投票活動を行ったという点があり、もう一つはこれが大手マスコミの報道を疑うという意識を日本人が持ってくれた事の証左になるからです。

 斎藤知事にまつわる情報の真偽は分かりませんが、それでも大手マスコミが偏向報道を行っているのは明らかな事実であり、政治家や官僚といった既得権益団体にとって不都合な情報を隠しているのもまた明らかな事実でしょう。まずはそれを認識してもらわなくては、衰退をし続けている日本社会の現状は変えられません。

 

 2.“103万円の壁”問題 ~実は日本は緩やかに国家破産している

 

 マスコミの情報規制がよく分かる事例を一つ出しましょう。

 “103万円の壁”問題というものがあります。これは「給与収入が年103万円を超えると、バイト代やパート代などに所得税が課税されてしまう所為で、働き控えが起こってしまうこと」を言います。

 これが原因となって、実質的に労働力が少なくなってしまっていますし、もちろん、国民の収入も減ってしまっています。

 この問題を解決する為に、所得税を課税し始める金額を、103万円から引き上げようという議論が、2024年の衆議院選挙後に国民民主党の主張を切っ掛けに始まりました。

 これに財務省は「税収が減る」と反対をしているのですが、「具体的にどういった問題があるのか?」という反論に対しては満足な返答ができていない状況です。

 もちろん、「財政状態が悪化する」という趣旨の事は述べているのですが、それに対して「どれだけ借金をしても国政は滞りなく行われているではないか」などと言う人がいて、上手く説得できていないのです。

 

 さて。

 政治家や官僚達は、不都合な情報を隠していると述べましたが、この時点で既にそれが分かります。実は政治家や官僚は財政状態の悪化によって「具体的に発生している問題」を隠しているのですね。と言っても、よく考えれば分かる話なので、正確には隠しているには当たらないかもしれませんが、分かり易く国民に伝えていないという意味では同じでしょう。

 現在、円安が続いていて、その影響で輸入品の価格が上昇しています。その原因ですが、“金利が上げられない”事であると言われています。日本円の金利が低いので、円の魅力が低くなってしまい、売られてしまっているというのですね。そして、何故“金利が上げられない”のかと言えば、それは国の借金が膨大過ぎるからなのです。

 現在、国が借金する為に発行する国債は、かなりの割合を日銀が保有しています。時折、これをして「国の借金が消えた」と主張している人がいますが勘違いです。日銀が金融機関から国債を買い上げると、それは各金融機関の日銀当座預金に振り込まれるのですが、日銀当座預金は一種の国の借金と見做せるのです。

 つまり、国債から日銀当座預金に借金の形が変わっているだけで、何ら国の借金は減ってはいないのです。

 そして、日銀当座預金ですが、金利を上げると直にその影響を受けます。日銀が金融機関に対して支払わなければならない金利が上がってしまうのですね(一応、断っておくと、国債という形でも金利上昇は国の借金にとって悪影響があります)。

 まとめると、「現在の円安は国の膨大な借金が原因で発生している」となります。因みに、これは実質的な債務不履行でもあります。仮に円の価値が半分になったとしたら、借金は半分になっているのと同じです。借金を半分踏み倒してしまっているのですね。借金を返していないのだから、債務不履行です。もちろん、現段階ではまだ国家破産という言葉から想像できるようなドラスティックなものではありません。コントロールできていますからね。ちょっと変な言い方ですが、現在は緩やかに国家破産が起こっているような状態なのです。そして、この状態は悪化し続けています。もしコントロールできなくなれば、本当に悲惨な事態になってしまいます。

 これを国が明言できない理由は簡単に分かると思います。

 「国は今、現在進行形で緩やかに国家破産し続けています」

 などと述べたら、恐らく一部では確実にパニックが起こるでしょう(その他、更に円安が進むといった悪影響も考えられます)。その為、

 「103万円の壁を引き上げると、起こる問題を具体的に述べろ」

 と問われても、答えられないのではないかと思われます。本来ならば「緩やかに国家破産し続けている状態が更に悪化する」と答えたいのかもしれませんが。

 ――がしかし、ならば、財政状態を良くする為に、103万円の壁を維持するべきなのかと言えばそれも違います。

 何故なら、国は不都合な事実をまだ隠しているからです。

 

 3.節税は可能 膨大な予算規模を持つ特別会計、払い過ぎの高齢者年金

 

 特別会計というものをご存知でしょうか? 小泉政権の時に大きく話題になったのですが、一般会計とは別にある、国会の承認を得ずに使える国の会計の事を言います。国会の承認を得なくて良いのだから、官僚が自由に使えてしまいます。もうこの時点で不正をやっていそうな雰囲気がプンプン漂って来ますが、この特別会計は規模が物凄く大きいのです。なんと、一般会計の数倍という規模だと言われています。

 103万円の壁に関連して、ニュース番組などで日本の財政状態に触れる機会も多いのですが、何故かこの特別会計は話題に出しません。

 「マスコミが情報規制を行っている」

 と先に述べましたが、この点を観ても明らかでしょう。一応断っておきますが、小泉政権の時は普通に報道されていたのです。なのに現在は触れられすらしないのです。どう考えても異常でしょう。

 恐らくは、この特別会計で税金の無駄遣いを減らせれば、比較的楽に103万円の壁を引き上げても、財源は確保できるのではないかと思われます。

 因みに、今現在の情報だけでも、極めて当たり前な財源の確保手段は提示できます。

 現在、年収が1000万円を超える高齢者にも年金を支払っているのですが、これを全額カットし、それ以外の高額所得高齢者へ支払っている年金も年収に応じて減らせば良いのです。

 高齢者はただでさえ消費意欲が低い上に、限界消費性向と言って、収入が増えれば増える程、消費に当てる割合は下がる事が知られています。だから、カットしても経済に与える影響は少ないと考えられるのです。

 これは容易に理解できると思うのですが、例えば年収が1000万円ある人は、既に欲しい物を買っている確率が高いです。だから更にお金を貰っても消費は増えません。ですが、年収100万円しかない人は、お金を貰ったら何か欲しい物を買うのではないでしょうか?

 つまり、高額所得高齢者へお金を支払うよりも、低所得若年者へお金を回す方が経済に好影響を与えるのですね。

 更に、これは当たり前の話ですが、発展していく社会は次代を担う若い世代へ投資をするものです。しかも、現在は少子高齢化社会で、労働力不足が徐々に深刻化しています。103万円の壁を引き上げれば、実質的に労働力が増えるのですから、高額所得高齢者へ年金を支払うよりも、社会全体にとって大きなメリットがあるのは火を見るよりも明らかでしょう。

 因みに、安倍政権下では、年収1000万円以上の高齢者への年金支給額が減額されました。この理屈を理解していたのではないかと思われます。

 

 4.国は日本の経済成長を望んでいない?

 

 経済成長にとって最重要なのは資源です。資源がなければ、どう足掻いても経済は成り立ちません。そして、現代で最も重要な資源は労働資源です。

 ……という事は、労働力(資源)を増やせる103万円の壁の引き上げは、経済成長の原動力になり得る可能性を秘めているのです。

 

 ――さて。

 嘘か本当かは知りませんが、このような事を主張している人が世の中にはいます。

 

 「財務省は増税をすれば評価が上がり、減税を認めると評価を下げるシステムになっていて、経済成長による税収増は評価ポイントには含まれていない。その為、日本社会を経済成長させる気がない」

 

 驚くべき内容ですが、官僚達に“103万円の壁の引き上げを利用して経済成長させる”という発想が見当たらない点を考えると、ある程度は事実なのではないかと思えて来てしまいます。

 ただ、個人的には流石に誇張があるのではないかと考えていますが。いえ、財務省単体で観れば、或いは事実なのかもしれませんが、政府全体では違うように思うのです。

 

 日本政府の態度を観ていると、それほど積極的に経済成長を目指しているようには思えません(例外はあります)。しかし、それは“既得権益を犠牲にするつもりはない”からであって、経済成長ができるのであればしたいと思っているのではないでしょうか?

 ただ、それは、実質的に「経済成長を望んでいない」のとニアリーイコールではあるのですが。

 何故なら、“既得権益を護る為の規制”が、経済成長を阻む要因になってしまうのは、世界の経済史を観れば明らかだからです。

 『「経済成長」の起源 マーク・コヤマ、ジャレド・ルービン 草思社』という本で、その様々な実例が紹介されてあります。社会の経済が衰退・停滞する原因が、既得権益層が自らの利益を護る為に行う規制であるケースが多いのですね。全てを書くと長くなってしまい過ぎるので一例だけ紹介すると、16世紀のスペインは、南アメリカから膨大な富を手に入れましたが、それにより王権が強まって逆に衰退しました。力を持った王族が国民を抑制してしまったのですね。

 では、どうして経済活動が規制されると経済に悪影響を与えてしまうのでしょうか?

 それを考える為に、経済成長のプロセスを説明します。

 

 5.経済成長のプロセス

 

 まず経済成長とは、簡単に言えば、生産量が増える事です。ですから、当然、“生産性の向上”が必要になって来ます。ただし、それだけでは足りません。何故なら、一つの生産物には必ず需要の限界があるからです。その為、新しい“生産物の誕生”も必要になって来るのです。

 シンプルなモデルで説明しましょう。

 米農家があったとします。ここに“生産性の向上”が起こって、今までよりも少ない人数で今までと同じ量のお米を生産できるようになったとします。

 その時、社会がお米の需要を満たしていなかったのならば、お米の生産量を増やしてお終いですが、既にお米の需要を満たしていた場合は、生産する意味がありませんから労働力が余ってしまいます。

 つまりは失業者の発生ですね。

 放置すれば、もちろん社会問題ですが、これは同時に“労働力(資源)が余っている”という事でもあります。

 ですから、その余った労働力を用いて新たな生産物を生産するようにしたのなら、経済は成長します。ここでは仮に野菜を生産するようになったとしましょうか。当然、野菜が増えた分だけGDPは増えています。

 野菜の取引が増えるのですから、通貨需要が増えた分だけ通貨を増刷し供給しなくてはなりません。これは“成長通貨”と呼ばれています。

 早い話が、経済成長さえ起こせるのなら、通貨の発行が可能なのですね。

 時折、「国は幾らでも通貨の発行が可能なのだから、増税などする必要はない」などと主張している人がいますが、それは勘違いです。飽くまで、経済成長とセットでなければ、通貨は発行できないのです(強引に通貨を発行すれば、通貨価値は下落します)。

 

 6.規制は経済成長のプロセスを妨害してしまう

 

 さて。

 経済成長の為には、“生産性の向上”と“新生産物の誕生”が必要だと述べました。ところが規制はこれらを阻害してしまうのです。

 例えば、オンライン授業やオンライン診療、ライドシェアリングなどを導入すれば生産性が上がります。しかし、オンライン授業は予算を減らされることを恐れた文部科学省が反対し、オンライン診療はシステムを導入できない病院への配慮から進まず、ライドシェアリングはタクシー業界を護る為に本格的な導入が未だに見送られています(一部、解禁が始まっていますが、まだまだ足りません)。その所為で、これら業界では人手不足がより深刻化しています。もちろん、導入が進んでいない技術は他にもたくさんあります。AIの活用だって、教育や医療では有望ですし、その他、多重派遣や中間業者は、実質的に生産性を下げる規制と言ってしまって良いと思います。

 だからこそ、規制改革・緩和が求められているのです。

 一応断っておくと、これは経済に詳しい人達にとっては常識です。何しろ、1980年代から既に世界中で規制改革・緩和が必要だと叫ばれており、多くの先進諸国では1990年代には既にかなり達成されているのですから。そしてその効果は、先進諸国が経済成長に成功し続けて来た現実が証明しています。

 ところが、日本では規制改革・緩和はほとんど進んできませんでした。

 もちろん、進めようとしている人達はたくさんいたのです。政治家にも官僚にも。代表例を挙げるのなら、安倍政権の経済政策、アベノミクスの三本の矢のうちの一つが規制改革・緩和でした。

 しかし、それらは潰されて来てしまったのです。

 そして、その規制改革・緩和が潰されて来た日本は「失われた30年」などという言葉が示している通り、あまり経済成長に成功していません。

 

 7.規制改革・緩和の重要性はマスコミによって情報規制されている

 

 冒頭で述べた通り、日本では情報がマスコミによって規制されています。ですからマスコミが流す情報を疑う意識が強くなっている点は喜ばしい事実だと思います。

 がしかし、より重要な“規制改革・緩和”については、あまり認識されていないのではないでしょうか?

 とあるテレビ番組を見ていた時、アベノミクスの政策について解説していたのですが、何故か“構造改革”と表現されてありました。アベノミクスでは、明確に“規制改革・緩和”という表現を使っていたにもかかわらず。

 また、ユーチューブで、ある経済系の動画で“規制改革・緩和”という表現を濁し、「成長戦略」などという曖昧な言葉を投稿主が使っているのを見かけた事があります。

 どう考えても不自然でしょう。

 

 どうか皆さん、大手マスコミに騙されないようにしてください。

 既得権益を失うのを政治家や官僚達が恐れりあまり、強く抵抗するようなら、このように説得すれば良いのです。

 

 「規制改革・緩和を行えば、新たな産業が育ち、そこには莫大な利益が生まれる。既得権益の一部は失う事になるが、代わりに新しい権益を得られるようになるではないか」

 

 例えば、日本が輸入している化石エネルギーの規模は、20兆~30兆円にも達します。これはそれだけの富が日本から流出している事を意味します。

 ところが、再生可能エネルギーが普及すれば、この富の流出が減り、その分、莫大な規模の富が日本国内に生まれる事になります。

 当然ながら、得られる利権も莫大なものになるでしょう。

 もちろん、日本国民にとってもこれは大きな利益になります。既得権益団体は、保守的になるあまり、このチャンスを逃してしまっているのです。

 日本国民が声を上げれば、きっと彼らの考えを改められます。

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