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BF6.ウィンディの才能

 旧友のソルフも、娘のローナでさえ、ゼッドの死を覚悟した。

 しかし、男の振るったナイフを、思わぬ人物が受け止めていたのだ。工場ならばどこにでも転がっていそうな鉄のパイプで、打ち合った際に赤い火花を散らしながら、サバイバルナイフを受け止める人物。

 助手席にいた別の男でもなく、工場の作業員でもない。若干十五歳の少年が、ゼッドと男の間に入っていた。誰しもが驚きを隠せぬ表情で、漆黒とパールホワイトに彩られた少年を見つめる。

「……ほぉ。あのタイミングで、良く追いついてこられたな」

 男も意外と言わんばかりにウィンディの動きを褒める。

「自分でも、信じられない、ぐらいです……。なぜ、こんなことを?」

 謙遜でもなければ嘘でもない。本人でさえ、咄嗟に体が動いたかと思えば、鉄パイプを握って二人の間に入っていた。

 突然のことで、お世辞にも綺麗な体勢とは言えない形で受け止めているため、ウィンディは歯を食い縛りながら震える声で男に問う。

 男は、呆れるような、そして哀れむような、もしくは怒りにも似た表情を浮かべる。細めた目、真一文字に結んだ口、何を訴えようとしているのかウィンディに察することはできない。

「少年、世界には君の知らないことがたくさんある。それは、もう、神にも計り知れぬ数だ。それを知った時、果たして絶望が襲うか、希望が訪れるか、知ろうとした者にも分からんのだよ。けれど、我々はそれを知らねばならぬ。今は知る時ではないにしろ、いずれは知らねばならない」

「すみません、貴方の言っている意味が、僕には分かりません。けど、貴方の遣っていることが、貴方の知らなければならないことのためなら、断固として認めませんッ」

「そうか。それは残念だ。大人しくしていれば、殺すこともなかったのだが……止む終えん。世界の真理を知らぬまま、短き人生に終止符を打つことに悔いを残すな。『真理の破壊者に、天誅を』!」

 それを合図に、余った手で二本目のナイフを引き抜き、ウィンディの腹部を穿つ。かに思えたナイフを、受け止めていたナイフを滑らせるように流し、手が空いた鉄パイプで叩き落す。

「くッ……」

 手甲に守られているとは言え、力いっぱい手を叩かれた男は苦悶を浮かべる。そんな僅かな隙を、ウィンディは見逃さなかった。鉄パイプを横薙ぎに振るい、今度は装甲に守られた横腹に叩き込む。男はそれを危うくも腕で防御し、横っ飛びに打撃の威力を抑えようとする。

 しかし、ウィンディは半ば男の行動を予測していた。横に飛ぶかどうかは除いて、確実に鉄パイプを受け止めてくると思っていたのだ。

 だからこそ、男の腕を殴るより早く鉄パイクから手を離してがら空きになった腹部へ攻撃を打ち込むことができる。踏み込みも、助走もなにもない、ただ足の筋肉をバネにしただけの蹴りを。

「がッ、はッ……」

 普通ならば相手をよろめかせるぐらいが限界の蹴りだが、男は大袈裟にも思える苦悶の声を漏らした。距離からしてベクトルもモーメント力も乗っていない一撃。そのダメージは思いのほか大きく、何かが折れる嫌な音を響かせながら男は錐揉んで宙を舞う。

 その膂力を生み出したのが、これで二度目となるP.D.Sの性能なのだと、ウィンディには理解できた。一度目は無意識に、ゼッドと男の間に割って入ったあの俊足。二度目は、先刻(さっき)の蹴りだ。

 二度目もほとんど無意識ではあったものの、ウィンディは練習もなしに二度の使用に成功したのだ。伝説の男でさえ扱えなかった代物を、若干十五の少年が使った。果たしてこれは、偶然か必然か。

「…………」

 倒れた男を仲間が連れ去っていくのを眺め、ウィンディは力なく膝を折る。

「大丈夫かッ? 怪我は、どこも痛くないか?」

 ソルフが傍に駆けつけてきた。

 どこも痛みはない。ナイフで切られてもいない。ただ、体が熱く、心臓が早鐘を打つ。ローナを助けた時と同じ現象が、ウィンディの体を苛む。

「助かった、ボーズ……。しかし、いったいなんのつもりだったんだ、奴らは?」

「分からん。だが、良いことじゃないってのは、俺のとぼけた頭でも分かる。動きは素人だが、殺すことに躊躇いはなかった」

 その日の出来事は、しばらく彼らに大きな疑問を残した。理由を知るのは、もう少し後のことになる。

 ウィンディは自分やゼッドが無事だと言うことに安堵し、ソルフに肩を借りながら立ち上がる。先刻の激しい疲労感も無かったかのように消えていた。

「ところで、お前はボーズに軍用戦闘術(マーシャル・アーツ)を教えたのか?」

 男との戦いを思い出して、ゼッドがソルフに聞いた。無論、そんな記憶のないソルフは否定する。

「いや、俺は一度もウィンに手ほどきしたことはない。そもそも、アレは正規の戦闘術じゃなくて、素人の喧嘩みたいなもんだ。動き……は人間離れしてたが」

 ソルフの言うとおり、ウィンディは何かに倣って動いたわけではない。我武者羅に、直感が告げるまま体を動かしただけだ。

「まあ、形さえ様になれば接近戦に置いて優位に立てるのは確かだ。手馴れたS.A.Mを叩きのめしただけじゃなく、この悪魔の機能を使いこなせたんだから、な。ほんとに、衛生科だったことが悔やまれる」

 ソルフには隠し切れていなかったのか、ウィンディがP.D.Sを使って異常をきたしていないことを指摘される。

「マジかよ……。確か、一年間は転科ありだったよな?」

 ソルフの言葉に、ゼッドが信じられんとばかりに誰ともなく問う。

 もちろん、どこかの移動型学園都市でもあるまいに、ソルフが突っ込みを入れる。

「あるわけないだろ。残念ながら、一度決めた学科を変えることは出来ない。それより、どう収拾をつけるつもりだ? もう警備隊まで来てやがるぞ」

 整備士か誰かが通報したらしく、保安委員が数人ほどやってきていた。僅か数分――ウィンディの体感で二分か三分ほどの間だから、保安委員も今日は暇らしい。警備隊の都合云々はさておき、当事者の三人はどうしたものかと顔を見合わせる。

「通報がありまして、ナイフを持った男がいきなり押し入ってきたと。お怪我はありませんか?」

「あ、あぁ、大したことじゃない。押し入って来たっていうのも語弊と言うか、客とちょっと争っちまっただけだ。珍しいことじゃないだろ? 怪我人も居ないし、身の程知らずの馬鹿は逃げちまったからよ」

 保安委員に回りくどい説明をしながら、ゼッドが背中に隠した手で何かを追い払うような仕草をする。何をしたいのか考えていると、ローナが肩を叩いてくる。

「裏口に案内しますから、付いてきてください。あれ、私がお母さんに怒られてる時、『誤魔化して置くから逃げろ』って言うサインなんです」

 ローナのボソボソという耳打ちに、ウィンディとソルフは促されるままに裏口へ向かう。別に疚しい――男に怪我を負わせたのはノーカウントにしたい――ことはしていないが、とりあえず面倒事にならぬよう配慮してくれたのだろう。

 こうして、色々と問題はあったものの、セイプ親子は無事に『レッド・カウ』から逃げ出して帰路に着く。

「はぁ、貸しが一つ増えちまった……。昔から、あいつには借りを作ってばかりだからなぁ。どれもつまらないことで、だけど」

 などとバギーを運転しながら愚痴を零すソルフ。

 ちなみに、その後日、再び『レッド・カウ』に訪れたのは言うまでもない。さすがに五百万ダールの代物を無料(タダ)で持っていくわけにも行かないし、色々と細かい調整があったからだ。P.D.Sを搭載したウィンディのS.Aについては、ゼッドが目の前で見た現実とソルフの言葉、そしてS.Aのメモリに残されたデータから分析した上で本人が使いこなせる可能性に賭けてそのまま買い取ることになった。


~なぜそれ羊狼ラジオコーナー~

「っと言うわけで、飽き足らずに続いているラジオコーナーのお時間です。今回は割と更新が早くできたヒスイです」

「ゲストのウィンディです。二度目になりますが、よろしくお願いします」

「今回は、読者の皆さんが少しでも『羊の鎧を着た狼の戦場』の登場人物に親近感を持ってもらえるように、脳内再生用の声優をちょっと説明していこうかな、と思っております」

「わぁ~、パチパチパチパチ。拍手喝采でお送りしますのは、一番手、ソルフ=セイプの声優です」

「もうラジオコーナーには出てこないであろう彼が一番手です」

「え、もう出てこないの? まぁ、次回はようやくローナちゃん以外の学校内の登場人物が出てきますから、仕方ないですね。で、お父さんの声は誰なんですか?」

「それはなぁ、某錬金術師アニメの親馬鹿中佐をしてらっしゃる、藤原啓治さんです。あまり作中では露骨じゃないけど、結構、ソルフって親馬鹿なんですよねぇ」

「あぁ、なんとなくそんなとこありますね」

「で、次はウィン君ですが、こっちは某エレメンタルバトルアクションから彼がメインヒロインでいいじゃない、の森永理科さんです」

「え……。彼、なのにメインヒロイン? ちなみに、ヒスイさんはノーマル性癖な人ですよね?」

「正直、あの露骨なパン○ラはいらない。頼り無さそうで、それでいて実は強い。どこかウィン君と似たところがあるでしょ?」

「そ、それじゃあ、次回は質問が無ければエルセント親子の声優でも答えていきましょうか(あれ? なんか誤魔化されたような……)」

「あぁ、ちなみに、俺の性癖はドSだ。登場人物諸君、覚悟しておきたまえ」

「えぇ~ッ!」

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