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BF5.羊の鎧

 ウィンディの問いに、その場が数秒ほど静まり返った。ローナは自身ありげに笑みを浮かべ、ゼッドはソルフの顔色を窺うように視線を泳がせる。ソルフに至っては、見惚れるというわけでもなくウィンディを凝視する。

 当初は鈍い鋼色の装甲しかなかったものの、今では様々な合金を作成することが可能になり、ましてやファッションのように塗装をすることができる。ウィンディの身に着けたS.Aは、黒いアンダースーツには少し浮いたパールホワイトの装甲に包まれ、本人さえ、ハイカラなんて死語が出てきそうになったほどだ。似合っていないのか、と不安を抱く。

「これが限界だ」

 そう口を開いたのは、ソルフに対して妥協を求めるゼッドだ。そして、ウィンディもゼッドの言う意味を理解する。およその説明はローナに聞いていたため、ソルフが何を凝視しているのか検討が付く。

「た、確かに、ウィンが扱い易い程度に軽量化してくれとは言った。装甲に関しても出来る限りという条件だ……。しかし、これは薄過ぎるんじゃないか?」

 ソルフが疑問を差し挟むのも無理はない。ゼッドやローナも、技術者としてソルフの注文を可能な限りで実現したに違いない。それでも尚、ウィンディに宛がわれたS.A(ソルジャー・アーマー)はソルフの予想を遥かに下回っていたのだった。

 ウィンディが装着するS.Aは、昼間、家でソルフが装着していたS.Aに比べて各部の装甲が省かれている。通常は、装甲が全身を包み込むようになっている。けれどウィンディのそれは、二の腕と太腿(ふともも)の装甲を省き、胴体部でさえ鎧と言うよりも胸当てに近い。軽量化を図ったにせよ、その程度の装甲ではお粗末と言うしかなかった。

「テメェのガキは良くも悪くも十五歳の平均的な体格だ。それでいて、衛生兵志望じゃどう考えても通常のS.Aは扱えねぇ。だから、ローナの勘に賭けることにしたんだ」

「賭け? 実用性を求めるお前にしては、珍しい言葉が出てくるじゃねぇか。それで、その賭けってのがこの装甲なのか?」

「あぁ、賭け事は大ッ嫌いだよ。けどよ、ローナがやるって聞かないんだわ、アレを使うって。決めたら遣り通す、って性格は母親に似たらしい」

「ま、まさか、アレを組み込んだのかッ?」

「そのまさか、だ。膂力移相装置、パワ――」

「――名づけてパワー・ダイブ・システムッ! ウィンディ君の実力に賭けてみました」

 どうやらローナはこのシステムがお気に入りらしく、ゼッドの台詞を横から掻っ攫ってゆく。S.Aを着付けているときも聞いたので、ウィンディにしてみれば説明を聞くのは二度目になる。

「いったい、いつから名前を呼び合う仲になったんだ?」

「昼に私を助けてくれたのがウィンディ君だって知って、もしかしたら、と思ったんです。P.D.Sパワー・ダイブ・システムというのは、その名の通り機力を一点に集中させることで従来のS.Aでは不可能である爆発的な機動力を実現する装置です。例えば、足に集中すると未着用状態を超える跳躍力を生み出します。腕ならば、パンチ力を増すなどの使い方ができます」

 父親の疑問など聞く耳を持たず、ローナが嬉々として説明してゆく。

「現在、普及しているS.Aには未だに搭載されていませんが、もしこれで大きな成果を出せたなら、将来的にP.D.Sは全てのS.Aに搭載されるでしょう。私としては、このシステムを開発した人物を大いに尊敬したいですね」

「とんでもないことを……。ゼッド、お前ならこいつの危険性が誰よりも分かっているだろ? なのに、何故、娘を止めなかったんだ?」

「……分かっているさ。こいつを、ローナに教えちまったことを悔やんじまうぐらいには、な」

 ローナの説明などそっち除けで、ソルフとゼッドが口々に言い合う。どうも、以前からP.D.Sの知識があるらしく、二人は頭を抱えてしまう。

「お父さん、そんなに問題のあるシステムなの? まだ一度も使ってないから、どんなものか良く分からないんだけど」

「悪いことは言わん、そいつを早く脱げ。まだ少し時間があるから、もう一度作りなおしてくれるか? まだウィンも成長期だ、装甲を増やしてもどうにかなるだろ」

「そうだな……。十五のガキが将来を諦めるより、堅実に行ったほうが良い」

 ウィンディの疑問に返ってきたのは、そんな二人のやぶさかではない会話だった。いったいどんな機能なのか、ウィンディに理解の及ぶところではない。

「セイプさんも、お父さんも何を悩んでいるの?」

 ローナも理解していないらしく、二人に問いかける。

「当然だ。そいつはなぁ、伝説でさえ扱えなかった最悪の代物だ。こんなものを思いついちまうなんて、悪魔の囁きでしかなかった」

「伝説に成れなかった天才か。いや、天災って言うべきか……」

『……?』

 やはり、二人の会話の意味が読み取れない。それを見かねた二人が、深く息を吐いてその真実を口にする。

「単刀直入に言えば、そいつを開発したのは俺だ」

「そして、俺にさえ扱えなかったとんでもない化け物だった」

 ゼッドとソルフが、驚くべき事実を告白した。それを言葉として理解するまでに、ウィンディとローナは数秒の時間を要する。

『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ――ッ』

 理解した瞬間に、口から出た言葉は驚愕の悲鳴だけ。

 ゼッドが言うには、彼が軍事育成学校を卒業する前に思いついたシステムを軍部に売り込もうとしたらしい。そして、それの実験体第一号に選ばれたのが、のちに生きた伝説と呼ばれることになるソルフだった。その驚異的な機力は、人間という種には扱うことのできない膂力を生み出し、ソルフでさえ体の靭帯を痛めかけるほどのものだ。

 唖然とする子供を差し置いて、P.D.S開発の経緯などを説明してゆく親達。聞けば聞くほど、自分の装着しているものが恐ろしい代物だと分かってくる。こんなものを薦めてくれたローナを恨みたくなる。

「……むぅ。ウィンディ君なら使いこなせると思ったのになぁ。昼間、私を助けてくれた時の運動速度から、確実にP.D.Sの機力に順応できる計算データが取れたんだけど」

 恨めしく睨まれているのに気づいたローナが、残念そうにアヒル口を作る。

「馬鹿言っちゃいけねぇ。そいつはデータの間違えか、ボーズが出した火事場の馬鹿力って奴だ。まあ、その馬鹿力を日常的に出せるなら可能性はあるが、な。さて、作り直すにしても一ヶ月しかない。急ぐぞ」

 ローナのぼやきを否定して、ウィンディにS.Aを脱ぐよう催促するゼッド。

 そんな折、この小さな機械工屋を訪ねる客があった。街中である以上、商業用の機械を修理に持ってくる人は少なからず居るだろう。しかし、二人の客が小型トラックに乗せてきたのは商業用の機械ではない。

「すまない、こいつらを修理してもらえないか?」

 小型トラックから降りてきた助手席の一人が、二台に乗った数機のS.Aを指して問う。素人のウィンディが見ただけでも分かるほど、使い込まれた旧世代のS.Aだ。

「これ、全部かい? いったい、いつまでに? ベアリングは油を差すだけでも十分だが、装甲のヒビが入ってるところは取替えねぇとな。あちゃぁ、どんな無茶をしたか知らんが、脚部サスペンションが完全に磨耗してやがる」

「一ヶ月以内にやって欲しい」

 二台にS.Aを点検しているゼッドに、男が期限を伝える。

「今日から、一月?」

「…………」

 男の首肯。

 ゼッドが苦虫を噛み潰したような顔をする。

「悪いが、先客の方が立て込んでてな。一ヶ月は手が空かないんだわ。来月からじゃ、駄目か?」

 ウィンディとソルフを方を向き直り、ゼッドが申し訳無さそうに断りを入れようとする。そこへ、運転席にいたもう一人の男が下りてくる。そちらは、荷台のものよりは新しい一世代前のS.Aを着込んだ男だ。男はゼッドに歩み寄り、情感の篭らぬ表情で口を開く。

「無理を言って申し訳ないが、今すぐ――」

 男は言い終わるよりも早く、手が腰に回して何かを握りこむ。

 ウィンディは、横に居たソルフが僅かに動くのを感じる。

 軍人を退役してから五年、まだ伝説の男は勘を鈍らせていない。

 しかし、ゼッドまでの距離は二十メートル弱。客の男が、ナイフを引き抜いてゼッドに切りかかるのを止めることはできない。

「ゼッ――」

 ソルフが口にした、続かぬ旧友の名。

 誰もが諦観したコンマ数秒の出来事。

 そして、場内に散る赤。


~なぜそれ羊狼ラジオコーナー~

「さて、今日もやってまいりましたラジオコーナーの時間です。DJこと作者にヒスイです」

「こんにちは、ゲストのソルフ=セイプだ」

「質問を始めていきたいところですが、やっぱりなにもないという状況です。てへッ」

「てへッ、じゃないでしょうが……。いや、こんなところで色々とネタバレされても困るわけだけどさぁ。やっぱり、SFってジャンルの所為か読者に倦厭されるんだよ」

「SFが悪いわけじゃない! 作者が悪いんだ!」

「認めちゃってるよ、この人……。それはさて置き、今日の話題はこちら」

「どうも、自分の小説の登場人物にアニメ等の声優を当てるのがブームになっているらしく、少しそれについて考えてみようかと思っています」

「まあ、読者が個人で声を当てるより、良く知っている声優を当てたほうがな馴染み易くなるって寸法だな。で、決まっているのか?」

「ある程度は決まってる。レギュラーキャラと脇役キャラも少々、ってところかな」

「ほぉ、そいつは気になる。俺は誰になってるんだ? 志保さん? それとも浪川さん? あぁ、ここは大穴で若本さんだ!」

「ことごとくハズレ。まあ、詳しくは今後のラジオコーナーで明かしていきたいと思っている。第一、まだキャラ全体の三割ぐらいしか登場してないんだ」

「はい? 俺とゼッド、ウィンにローナちゃん、現状じゃ名前と姿が出てるキャラって四人だろ? 三割ってことは、全体で十五人も居れば良いってレベルじゃないか」

「いや、十分だろ……。数話しか登場しないキャラを入れれば、二十ぐらいは超えてくるからさぁ。主要キャラ以外は、とりあえず読者にお任せで声優当てるつもり」

「マジか。まッ、次の機会を楽しみに待とう」

「それでは、予告しかできなかったけど次回もお楽しみに~」

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