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SP2.羊の鎧は誰がために(後編)

 偶然にしてはでき過ぎた、僥倖とも言える出会い。変な勘違いをされたものの、ウィンディを案内する。まずは、カーテンで仕切っただけの更衣室でアンダースーツに着替えてもらう。

「それでは、これに着替えてください。S.Aを装着する際、肌を守るのと同時に外力からの衝撃を緩和させるアンダースーツです。今なら、S.Aと一緒にお買い上げでタダですよ」

 浮かれすぎた所為か、自分でもよく分からないことを言ってしまう。

「えっと、何処まで脱ぐんですか? 下着も?」

「はい、アンダースーツ以外は全部脱いじゃってください。どうかしましたか? 着方が分からないとか?」

「……いえ、そうではなくて。エルセントさんの目の前で、着替えなくちゃいけませんか?」

「あッ……すみません、私は別の準備をしてきますね」

 そそくさと更衣室を出て行く。

 ウィンディが着替えている間に、私は昼間の運動データとゼッドから預かったソルフのデータを比較する。業務用の『オブジェクス』が赤や青、緑といった色とりどりの曲線を描く。

『脚力データ Date.S:Date.W 110:141』

『膂力データ Date.S:Date.W 60:62』

「ビンゴッ! やっぱり、私の目に狂いはなかったわ」

 比較したデータが、ことごとくウィンディの優位性を示す。

 着替え終えたウィンディが更衣室を出たところで、私は『P.D.Sパワー・ダイブ・システム』の説明を兼ねながらシステムのデータリングを行う。羊の毛皮は、今まさに鎧へと変貌した。

「では、装甲を付ける間にこちらの説明書を読んでおいてください。直ぐに終わりますけど、ね」

 ウィンディに言うのと同時に、休憩室からこちらを見据えるゼッドにピースサインを送る。ソルフに分からない程度に、苦い顔をしたのが見て取れた。

 とりあえず、装甲を突貫工事で取り付け大よその形を整える。後は、実際にウィンディが装着して動けるかどうか、だ。

「着心地は悪くないですね。なんだか、ちゃんと着てるっていう感じですか……? でも、そのぉ……おかしくありませんよね?」

 S.Aを装着したウィンディを見て、私は思わず言葉を失ってしまう。

「…………」

 似合わなかったわけではない。いや、強いていうならばその逆だろう。

 もしかしたら、私の偏見的な目で見てしまっている可能性もあるが、パールホワイトの鎧は靡く白毛を彷彿させ、灰色の髪は鬣にさえ見える。弱々しかった羊はそこには居らず、凛々しい一頭の狼がキャットウォークの上で私を見据える。

「だ、大丈夫です、ちゃんと似合ってますよ……。さぁ、立って動いてみてくださ――危ないッ」

 どうにか言葉を紡ぎ、場を繕うように運動能力のテストに入る。が、慣れないS.Aの操作にウィンディが立ち上がり際によろける。それを支えようと半歩進み出たところで、私まで足を滑らせて仰向けに倒れてしまった

 私はウィンディに押し倒されたような形で倒れ込む。

 運が良いというのか、悪いと言うのか、ゼッドやソルフは控え室で話し込み、従業員達も遅めの昼食に出払っていた。

『…………』

 私達はただ、何が起こったのか理解できないといった様子で見詰め合う。

 もう少しで顔がくっついてしまいそうな距離で、ウィンディが優しい輝きを持った鳶色の瞳を申し訳なさそうに細める。ほんの少しだけ顔を下げるだけなのに、と訴える。

 私は固唾を呑んだ。

 そんなことを望んでしまう自分に卑しささえ覚えるが、それは決して罪ではない。今まで、機械を弄ることだけた唯一の楽しみだった私が、青春の一時を望んで罰せられるだろうか――否。

 けれど、呪縛は僅か数秒で解かれてしまう。

「す、すみませんッ。怪我とか、してませんかエルセントさん……?」

「あッ、えッ……と、大丈夫ですッ! 私ったら、またドジっちゃいました、てへッ……」

 私は我に返り、慌てて誤魔化す。

 数秒だけの魔法に悔恨さえ残したが、そこがウィンディらしいと言えばらしい。

 ただ、思うことがある。

 望む通りにならなくても、少しぐらいのわがままは許されるのではないか。だからウィンディに提案してみる。

「セイプく……いえ、ウィンディ君――って呼んで良いですか? 私のことも、ローナって呼んでください」

 ウィンディは、その提案に狼狽しながら思案を見せる。

「友達なんですから、名前で呼んで欲しいんです。お父さんやソルフさん、従業員の皆さんは名前で呼んでくれるんですけど、やっぱり友達にも名前で――駄目ですか?」

 ここまで来て引き下がりたくはない。

 強引と思いつつも、戸惑うウィンディに一押しを入れる。するとウィンディは小さく溜息を吐いて、

「分かりました、ローナちゃん」

 私の名前を呼んでくれた。

 一話に纏めると、自分で規定している量より多くなるため、前後編でわけました。

 なのに、なんだかS.Aの説明も恋愛事情も中途半端に……。だから書きたくなかったんだッ(おいおい)。

 さて、今度はユニーク五千人突破企画かなぁ。たぶん、五万PV突破までは次の企画もないだろうし、そこまで行ったら僥倖だ。

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