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BF3.レッド・カウと再会

 ウィンディとソルフを乗せたジープが到着したのは、住宅街から少し離れた工業地帯の小さな機工屋だった。赤い牛のシルエットに『レッド・カウ』と銘打たれた白とも灰色ともつかぬ看板の、古びた機工屋。

 機工屋とは、主に機械の修理や小型のものを販売する店を言う。

 専門店にでも行くのかと思ってたウィンディは、『レッド・カウ』なる機工屋を見て小首を傾げる。正直、こんなところにS.Aが売っているとは思えないぐらい、古びた店だ。

「たのもぉー。店主はいるか?」

 洗濯機や冷蔵庫と言った電化製品の修理中と思しき修理士に、ソルフが声を掛ける。

 店の中に入った瞬間に鼻腔を突く、グリスやらといった工業用油の匂いにウィンディは思わず顔をしかめる。小さな町工場に清潔感と言ったものが無いのは分かり切っていたが、部品や配線がところどころに散乱している。

 もしかしたら、S.Aの前にソルフ自身の買い物に来たのではないか。店内を見渡しながら、ウィンディは己の疑問に答えを見出そうとする。

「おう、俺ならここだ。というか、聞かなくとも分かるだろうが」

 考え事をしている間に、店主と名乗る男がヌッと修理士たちの中から現れた。

 一目見て、ウィンディは感情を隠すことも出来ず丸く剥いた目で店主を見てしまう。何せ、二メートルはあろうツナギを着た巨体がしわがれた声を発し、どこからとも無く姿を現すのだから。最初に目が行かなかったこと自体、不思議でならない恰幅の良い男だった。

 頭髪こそ綺麗に剃ってスキンヘッドにしているものの、鎖骨まで伸ばした逞しい黒い髭が老齢ではないことを教えてくれている。ソルフと同じぐらいだろう。

「あぁ? 熊に用はないぜ。まさか、しばらく来ない内に店主は熊に食われちまったのか? とりあえず、熊は森に帰れ」

 驚くことに、頭二つ分は小さいであろう細身のソルフは、言うとおり熊のような男に悪態を吐く。それを聞いて、元から強面だった男の顔がサングラスの下で更に険しくなる。

 ウィンディは言い知れぬ危機感を覚え、ゆっくりとソルフと男から離れた。修理士たちも同じ考えなのか、客のソルフを見ていた視線を機材に向け、修理に集中してしまう。

「悪いが、ここには熊の店主しかいないんだわ。用事が無いならテメェが帰れ。冷やかしは御免だぜ」

 二人の間にどんな確執があるのか、ウィンディの知らぬところでソルフと男が睨み合う。一触即発の空気に、ウィンディは愚か誰も止めに入れる者もいない。

 そして、二人が同時に動いた。

「ガッハハハハハ、久しぶりに会ってみればその口か?」

「相変わらずのお前だけには言われたくねぇよ。ゼッド」

 お互いが出した手の平に、互いが拳をぶつけ合う。

 ゼッドと呼ばれた店主は豪快に笑い、ソルフはおどけるような笑みを浮かべる。

 それを見ていた周りの皆は、呆然と二人のやり取りを眺める。

「頼んであった奴は出来てるか?」

「おう、当たり目ぇだ。一ヶ月以上も前に頼まれて、S.Aの一つ作れねぇ程腕は落ちちゃいないぜ」

 心配した自分が馬鹿みたいだと、ウィンディは杞憂に呆れる。

 どうやら二人は昔からの知り合いらしく、ゼッドの腕を見込んでS.Aを一ヶ月も前から用意していたらしい。強引に説得したのも、既に根回しが済んでいたからなのだろう。

「おい、ローナ。あれの出番だ。ボーズが、ウィンディとかいうソルフのガキか。あん? 思いの他、ヒョロい体だな。こんな細いのが、S.Aを使って大丈夫なのか?」

 ウィンディに気づいたゼッドが、品定めしてから批評を口にする。

 ウィンディにしてみれば、少し失礼な評価だと思う。確かに、軍隊を引退してからも衰えないソルフの筋肉に比べれば、ウィンディは痩躯と言った方が分かりやすい肉付きをしている。

 一昔前より軽量化されたとは言え、最新型のS.Aさえ四十キロはある。その重量を油圧式シリンダーや簡易骨格だけで支えるにも限度があり、常に十キロ前後の鎧を着て走り回らなくてはならない。そこに銃火器などを加えれば、十五キロぐらいが通常の装備の重量だろう。

「だからお前に頼んだんだろ? 強度を出来る限り落とさず、軽量化してくれ、って」

「まぁ、そりゃなぁ……。おい、ローナ。何をしてるんだ?」

 小さな町工場で働くゼッドは、そんなところに似つかわしくない腕前がある。少なくとも、ソルフの口ぶりからはそう読み取れた。

 そのゼッドが呼ぶローナという人物は、二度ほど呼んでも姿を現さない。と思っていると、少しの間を置いて駆け足の音が聞こえてきた。

「聞こえてるよぉ。こっちだって忙しいんだから、何度も呼ばなくたって分かってます」

 急かされたのが気に入らないらしく、ローナという人物は文句を垂れながら遣ってきた。

 ロングヘアーの黒い髪に、円らな漆黒の双眸。それに、ウィンディは見覚えがあった。忘れたくとも忘れられない、昼前の事件の時に助けた少女だ。

『あッ』

 ウィンディと少女――ローナが同時に声を上げる。

 どうやら、ローナもウィンディのことを覚えていてくれた。それだけなのに、何故か嬉しく思ってしまう。

「なんだ、二人とも知り合いなのか? そう言えば、お前の娘さん――ローナちゃんもウィンと同じ学校に入学したんだっけ?」

「言われてみれば、その通りだ。いやぁ、世界ってのは狭いもんだねぇ。もう、二人ともお友達だったとはって気――」

 ソルフとゼッドが関心している中、事件は起こった。

 ローナがウィンディに気を取られていると、足元に転がっていた機械の部品に躓いてしまったのだ。

「――を付けろっていつも言ってるのによぉ……」

 ゼッドの呆れた声。

 昼前の暴走と言い、この躓きっぷりと言い、相当ドジな性格をしているようだ。

 床が油で滑るため、ローナは腹這いになりながらウィンディの足元まで滑ってくる。頭を上げたローナに幸い怪我はなく、髪の毛を整えるなど慌てて態を正す。

「ハハッ。またやっちゃいました」

 今度は昼前とは違い、意識を向ける二輪車が無い所為か恥ずかしげにはにかんだ。

「大丈夫で……ッ」

 苦笑を浮かべながらも手を貸そうとウィンディが手を差し伸べたところで、不意に見えたそれから目を背ける。

 ローナは座り込んだ状態で、父親と同じ灰色のツナギを着ている。ただ、問題はファスナーが思いのほか下がっていたために、年齢よりも豊満な二つの丘が隙間から覗いていたのである。

 無論、ウィンディの態度に気づいたローナも、ファスナーが下がっていることに気づいて顔を紅潮させる。

「……み、見ました?」

「えっと、その……見たと言えば、見ました。見てないと言えば、見てません」

 ローナの問いに、曖昧な答えしか返すことが出来ないウィンディ。

 言わずもがな、その様子を見ていたソルフとゼッドは、顔を見合わせて神妙な表情をしている。

「ウィンも、年頃なんだよな。許してやってくれ」

「あまり納得は行かんが、テメェのガキなら仕方ねぇ。ローナが選んだのなら、涙を呑んで譲ってやる」

『それじゃ、お父さん達は旧友を温めてくるから、後は若い二人で頑張ってくれ』

 二人の見事に重なった同じ台詞。

「え、あの、いや……そんなんじゃなくてッ」

「ただ彼には助けて貰っただけで、って聞いてないよぉ……」

 弁解しようにも、ウィンディとローナの言葉は歩き去って行く二人の耳には届いていなかった。周囲の修理士たちも、本気半分、からかい半分にエールを送って仕事に戻って行く。

 既にウィンディとローナの声は届いていないと分かり、二人は説得を諦めて本題に戻る。

「とりあえず、こちらに、えっと……」

「ウィンディ=セルプです。初めまして、というのもおかしいけど、よろしくお願いします」

 まだ自己紹介さえ澄んでいないというのに、ソルフやゼッドの考えることは勘違いも甚だしい。いや、分かっていて自分達をからかったという可能性もある。

 ついつい、忘れようとしていたことを思い出して憤慨していると、フッとローナの目が異様に輝いているのに気付く。

「?」

「や、やっぱり、あの人が伝説のS.A.Mマスターのソルフ=セイプさんだったんですね! す、凄いですッ。生きた伝説に出会えただけじゃなくて、その息子さんにも出会えるなんて、私、感動で気絶しちゃいそうですッ!」

 唐突に捲くし立てるローナに、ウィンディは戸惑うばかりで何も答えることができない。果たして、普段の生活からそれほどまでに父が有名なのかなど予想できようか。それに、ウィンディは養子であり、ソルフの本当の子供ではないので誇るにも誇れなかった。

 今度、機会があれば直接ソルフに聞いてみようと、ウィンディは思考の片隅に仕舞っておく。


~なぜそれ羊狼ようろうラジオコーナー~

「はい、皆さん初めまして、作者の翠色じゃないヒスイです。単純にヒスイと呼んでいただいて構いませんよ」

「こんにちは、主人公のウィンディです」

「挨拶も終わったところで申し訳ないけど、このコーナーってする意味あるの?」

「貴方が言い出したのに、いきなりなんですか……。僕だって、どんなことをするのか分からないんですから」

「そう、簡単に言っちゃうと、読者の皆様から寄せられた感想、疑問などについて作中では語られない部分を答えていこうというコーナーだ」

「作中って、世界観の設定は小出しにしていかないと読者が疲れるから、って各話で少しずつ暴露していこうとしていたんじゃ?」

「そうだ。しかし、中には物語り以外の視点から寄せられる質問もある。っということで、字数の制限もあるから急いでやろう。初めは、誰からも質問されてないけど『サブタイトルごとのBFって何の略?』です」

「質問されてないのに答えるんだ……で、何の略称なんですか?」

「BFは、『戦場(バトルフィールド、BatteleField)』の略称なのだよ。でも、君達が戦場に出るのはまだまだ先の話。今は学校生活で精進しなさい!」

「は、はい! (どうして説教されなくちゃいけないんだろ……)」

『それでは、ご感想、ご質問、何でもどしどし送ってください。郵便番号は――略』

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