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BF14.オスカルの苦悩

 ちょうど一年前、オスカル=ゴードンはクラス分け試験に挑んだ。他人よりも一歩ズレたところにいることを自覚しながらも、どうにか人付き合いを試みた結果、ほぼ最後の数人に迫ったところでチームの枠に入ることができた。

「まあ、よろしく頼むわ」

 気のない挨拶を交わしながら、もう十数分で始まる試験に向けて準備を始める。

『…………』

 チームメイト三人から返される無言の返答。

 瞳に映るのは不安と疑念。緊張も少しはあるようだが、やはりオスカル自身が受け入れられていないのだろう。なにせ、彼らと顔を合わせたのは、チームへの加入の時と今日で二度目である。もちろん、小学生や中学生からの友人だったわけでもない。

 合同の授業では顔を合わせたこともあるが、彼らはオスカルのことを何も知らない。オスカルも彼らのことを知らない。知っているのは、名前と学科ぐらいのものか。

「安心しろ。足は引っ張らないように気をつけるからよ」

「足を引っ張らない、とは言っても……」

 オスカルの言葉に、チームメイトの少年が表情を曇らせる。

 言葉を濁しはしたものの、彼の言いたいことは分かっていた。お世辞にも、オスカルは戦武科に所属する生徒にしては実力が低い。喧嘩、という形ならば充分に遣っていけるのだが、正規の戦闘となれば話は別だ。運動能力が低いというわけではないにしろ、武術や銃火器の扱いに関するスキルは良くも悪くも下の上。他の学科の生徒と試合をして、五分五分といった成績だろうか。

 しかし、一回戦目の相手が戦武科の生徒で固めてきた上位チームであっても、オスカルには勝つ見込みがあった。確かに正面から渡り合えば勝てないだろうが、相手チームのメンバーついては情報を収集してある。

「誰も正面から殴り合おうなんて考えてないさ。どこのフィールドで遣るかのもよるが、作戦は考えてある。戦争っていうのは、腕っ節だけじゃないってことさ」

 そろそろ始まろうかというところで、オスカルは話を切り上げる。

 それから十分ほどして、アナウンスがオスカル達のチームを呼ぶ。彼らに宛がわれた戦場(バトルフィールド)は『丘陵地帯』。

 永遠に、土と緑の丘陵が広がる戦場で、そこらかしこに盛り上がった丘が見える。立ち位置によっては戦場全体を眺めることができるし、身を隠すこともできる。

「なるほど、ここなら待ち伏せが一番良いな。近接戦闘に持ち込むとこちらが不利だから、丘の上から銃撃しよう。丁度この位置からなら相手の場所も見えるし、思った通りの地形になってるからな」

 オスカル達のスタート地点は、『U』の字に高い目の丘が広がる地形だ。

 作戦は簡単。相手チームが血気盛んな猪突猛進タイプが多いため、『U』字の真中に誘い込んで、後は丘の上から撃ちまくれば良い。

「俺が気を惹きつけておくから、三人はメインボックスや足を狙ってK.Oか動きを封じてくれ。二人は左右から、もう一人は丘を迂回して背後からだ。ほら、相談している間に奴さん達が来たぜ」

 作戦会議を終えて、丘の上から相手の動向を探る。

 まだ相手はこちらに気付いておらず、周囲に目配らせしながら真っ直ぐに歩いてきた。そこへ丘から駆け下りたオスカルが姿を現したので、文字通り猪の如くこちらへ向かって走ってくる。

「おいおい、予想通り過ぎて怖いぐらいだぞ。挟み撃ちを狙って丘を回り込まれたらどうしようかと思ったが……さぁて、今日は仲の良い悲鳴(ハミング)を聞かせてくれよ」

 口角を吊り上げ、独り言を呟きながらオスカルは背を向けて逃げる。相手のチームは、こちらが一人しか居ないことを疑問にも思わず、周囲を確認することさえ怠って追いかけてきた。

 だが、そこでオスカルでも予想外のことが起きた。相手の動きはまったく予想のままだったが、何故か丘の上から味方の三人が降りてきてしまったのだ。

「お、おい! これはどういうことだッ?」

 狼狽したオスカルの問いに、リーダーの少年が悪びれもせず答える。

「伏兵なんて、名門の名が廃る。正面からぶつかって勝つことが、誇りある勝利というものだ!」

「こんな卑怯な戦い方で、後から卑怯者呼ばわりはされたくありませんからね」

「戦武科以外の人間が、戦闘に向かないなんて思い上がりを吹き飛ばしてやろうじゃねぇか!」

 リーダーに続いて、他の二人も口々に言葉を連ねる。

 その瞬間、オスカルは思った。

 こいつらは馬鹿か、と。

 無論、一回戦目は四人とも行動不能もしくは降参を申し出て、大敗したのはいうまでもない。ただ、問題はそれからだった。オスカルの言った通りにしていても負けていたかも知れないし、彼らの畑の肥やしにもならないプライドのことを忘れていたのは自身のミスだ。しかし、その日を機にオスカルへの視線は大きく変わる。

 試験での大敗を一方的にオスカルの責任にして、掴み所の無い男から無能な男へと格下げされたのである。その上、チームのメンバーの親までオスカルを責め立て、最終的には休学という逃げ道を走らなければならなくなった。

「――と、まあ、そんなことがあったわけだ」

 飄々とそんな昔話を語り終えたオスカルが、面白くなかっただろ、と肩を竦めてみせる。壮絶、というにはコクも旨みもない話だが、なぜ自分がここにいるのかという理由は理解してもらえただろう。

『…………』

 それほど重い話をしたとは思っていないが、一同は神妙な表情で黙りこくる。

 ウィンディは申し訳無さそうに目を伏せ、ローナはハンカチを噛み締めて涙ぐんでいる。フィルティアにおいては、ただ納得した、といった風にオスカルを見据えている。

「おいおい、気にするなよ。ウィンディも、ローナちゃんも、人間ってのは生きてりゃいろんなことがあるもんさ。一度ぐらいの失敗でめげてちゃ男が廃るってもんだ」

 こんなときに話すことではなかったと、オスカルは必死に場の空気を取り成す。

 どんな作戦を考えても、いつも成功しているわけではない。失敗続きのこともあったし、成功を喜び合ったこともある。それを逐一、哀れんだり褒められたりしても困るのだ。いつかは、笑い話として胸に仕舞えるようにならなければいけない。

 それがオスカルのポリシーだった。

「だが、こうして誰かを信じるのもこれが最後かもな……」

 けれど、同じ失敗を繰り返すことは自分が自分を許せない。だから、そうポツリと言葉を漏らす。

「何か言いました? さっき、誰かの声が聞こえたみたいですけど」

 隣を歩くウィンディに聞かれたのか、周囲を見渡して問いかけてくる。

 いや、聞かれたわけでな無さそうだ。

「追いついたみたいだな、奴さんに。さて、今日こそ素敵な悲鳴(ハミング)を聞かせてもらおうかね」

 敵チームの後姿を捉え、策略家の自分が鎌首をもたげる。声を潜めながらも、全員に伝わるよう的確に指示を出して行くオスカル。

 こうして、彼らの初陣が始まろうとしていた。

 更新が遅くなって申し訳ありません。

 たいした理由はありませんが、ちょっと週末にキャンプへ行っていただけです。もちろん、楽しかったですよぉ(笑)。

 しかし、まあ、三日間小学生のお守をするのは疲れる……。

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