BF0.狼の子供
一応、全年齢対象で書いていますが、作者のポリシーとして『描写は克明に』があります。中には残酷な描写や性的な描写が含まれることがありますので、読む読まないは読者のご判断にお任せします。
BF0.狼の子供
今から数年ほど前、この世界で戦争が起こった。
いや、起こっている、と言い換えよう。
世界を二分するように、東と西の主立った軍事国が手を組み、互いの領土を奪い始めたのだ。
両連合の戦力は互角。拮抗した力は一進一退の戦いを数年続け、今では世界の中心を二分して睨み合うに留まる。人々はその中心線を、揶揄するか畏怖するか、どちらかの意味を持って偽る者の壁(Falser Wall)と呼ぶ。
国民には拮抗状態と伝えながらも、中心線に面する各地で小競り合いや占領戦が繰り広げられているが故に、どこからか事実を知る者が流した呼称である。
――きっと、現在もまだ消えぬ戦火は、この時にもどこかで燃え滾っているのだろう。
そんなことを思いながら、彼は白銀の大地を踏みつけて立ち止まる。灰色の雲が降らせる白い細粒を見上げると、海の底にも似たブルーアイに映ってマリンスノーとなる。
頭部から項にかけてヘルメットとも呼べそうな防具を付け、背中に長方形のタンクと体面に胸当て、手甲と具足。タンクと頭部や四肢の防具との隙間からは、ちらほらと配線が見えている。
様々な防具に身を包んだ彼は、まるで機械の戦士とも言うような格好だ。
彼の名前はソルフ=セイプ(Solf=Sheip)。東方軍事連合第一機甲師団『ヴァルケロス(Varkeros)』の師団長を務める。
まだ三十路か四十台と言った風貌以外、体格や肉付きは鎧に隠されて判断が付かない。
「寒みぃ……。どうして、俺達がこんなことをしなくちゃならんのだ。おい、立ち止まってると凍え死んじまうぞ」
立ち止まったソルフの後ろから、抑揚のない怒りを吐き捨てる師団の仲間。
少佐の階級を持つソルフに対して聞く口とは思えない言葉遣いだが、彼自身が畏まった口調を嫌っているためだった。
確かに、仲間達が文句を垂れるのも分かる。
なにせ、防具の下には黒いアンダースーツ以外に防寒具と呼べるものは着ていないのだ。
機械の防具から発散される熱があるとは言えど、長々と寒空の下に居ては凍え死んでしまうだろう。
「もう少しだ。あと少し歩けば、敵の詰め所に着く」
頭の中に入った地図を思い浮かべ、現在地と照らし合わせる。
彼らの任務は、最も防衛の薄い北端の降雪地帯から敵国へ進軍することだった。その前の偵察として、ソルフ率いる少数精鋭がファルサー・ウォールの境に建てられた敵の防衛拠点に向かう途中だ。
敵兵の巡回と遭遇した際の処置として、防寒具ではなく戦闘機具を身に着けてきたのは、致し方ないことである。
「しっかし、まぁ、師団長のアンタまで来ることは無かったんじゃないか?」
追いついてきた仲間の一人が、怪訝そうに言う。
「しゃあねぇさ。ウチの師団長殿は、人任せにしてヌクヌクと篭ってられる性質じゃないからな」
別の仲間が、揶揄しているのかソルフの師団長らしからぬところを突いてくる。
馬鹿にされたとは思わないものの、苦笑を浮かべるだけで部下の軽口には叱咤もなにもない。
言われて何も言い返せないのは、仲間の言うことが逐一、的を射っているからだ。
ソルフ自身も、自分が師団長としての器ではないことや、度の過ぎたお人好しだということは重々理解していた。しかし、上層部に任命された以上は使命を全うする。
そうした責任感の強さも含め、ソルフは多くの戦友から篤い信頼を置いているのではなかろうか。
「さて、凍えてしまう前に先へ進もう。本当に凍死なんてしたら、笑い事じゃ――」
思わず忘れかけてしまった任務のことを思い出し、再び歩を進めようとした矢先だった。
「おい、ちょっと待ってくれッ」
仲間が、一団から離れて木陰のところからソルフたちを呼び止める。
「――どうした? 敵のトラップでも見つけたか?」
仲間の妙な焦り具合にソルフは木陰まで駆ける。
「いや……トラップの方が何ぼかマシだろ」
今一要領を得ない返答に、木陰と積もった雪に隠れたそれを自分の目で確認する。
たぶん、その場の誰もがそれに目を丸くしていただろう。
白毛を赤く染めて横たわる狼と、狼に抱かれるようにして雪に埋もれる人の子供。
設定上の単語等出てきますが、後々ちゃんと説明していきますので焦らずのお読みください。
連載のつもりだったのに間違えて短編で投稿してしまったため、削除して書き直しました。