恋愛アプリ
全て、フィクションです。
朝起きると、自分以外の家族が外出中である事に気付く。
────とても、刺激的な朝だ。
家族ニ内緒ノ、NSFW恋愛出会イ系スマホあぷりハ、今日モ最高ダゼッ。
サア、身モ心モ金モ捧ゲル覚悟デ、ぷれい再開ダッ!
ヒャッハァー!!
それから5時間ほど、陽気にエンジョイしていると、いつもと違う見慣れない広告が表示される。
『ねえねえ今、アプリをインストールするとね、コンビニでドリンク1本貰えるクーポンをゲット出来るよ!……ねえったらっ!』
────ん?
『ん?……じゃなくてぇ!』
と、コチラの独り言に敏感に反応する画面の女性が、繰り返し良心をエグッてくるので、仕方なくアプリをインストールしてみたが、アプリを見つけにくい場所へ勝手に保存され、苦労して発掘する羽目になる。
しかも発見時には、対象期間が”5分間のみ”という事実を知り、すでに期限が切れていた事に愕然とした。
仕方なく、仏の心で溜飲を胃液に溶かして自身を落ち着かせ、アプリのアンインストールを行おうとすると、
『一度でもアプリを実行しないと、アンインストール出来ない仕様です。』
と、警告メッセージが出た。
仕方なく、アプリを瞬間プレイし、即削除しようと試みると、
『このアプリを最後までクリアしないと、アンインストール出来ません。』
と、再び警告が出て、アプリで遊ぶ以外の全ての方法が封じられる。
その後、色々抗いつつ10分ほど悪戦苦闘した結果、結局は自分が暇だと気付いて、諦めてアプリで遊ぶ。
『貴方の理想パートナー様の情報をプロンプト化して入力してください。画像生成によるキャラクタークリエイトを行います。』
どうやら、これも恋愛系統のアプリらしいのだが、その入力プロンプトが英語限定で、苦労しながら好みのパートナーのイメージを入力する。
────この時、"身長170m"という誤入力に自分は気づいていない。
苦労して作成した画像からは、違和感が一切感じられず、その圧倒的なリアルな出来映えは、心と股間を情熱的に満足させた。
『ゲームをクリアして、貴方のパートナー様と豊かなイチャイチャを、お楽しみください。ゲーム中の"お金"の使い方が攻略の鍵です。』
────ゲームの雰囲気的に、エロゲの要素は一切感じられない……。
ゲームをスタートさせると、突然イベントが発生し、
『貴方のパートナー様が誘拐されましたので、身代金を払って救出して下さい。
尚、貴方のリアル銀行口座から、プレイ補償金50万円の引き出しを確認……人質のパートナー様の懐に装備されました(※規定時間内のゲームクリアで返金されます)。』
え?(50万円の引き出し確認通知が、スマホに届く。)
メッセージは続けて、
『身代金は、貴方のリアル銀行口座からの100万円です。課金して、直ちに人質を救出しますか?』
と、要求してきた。
勿論、コノまま課金すれば、即ゲームクリアになるらしいが、それは否定する。
『では、クークルMapアプリを開いて、指定した場所まで来てください。ソコで次の指示を与えます。
なお、人質中のパートナー様への応援課金で、恋愛ゲージが増えます(※身代金には含まれません)。
その恋愛ゲージが一定分蓄積する毎に、さまざまな特典が得られます(※現在、蓄積ボーナス10倍キャンペーン実施中)。』
確認した内容は、生唾、各種体毛束、パートナーの使用済み着用衣類(各証明動画付き)等……。
試しに、恋愛ゲージ量を貯めるべく一定額課金してみると、暫くして、フォークリフトを積んだ大きなトラックが自宅前に止まり、生唾1樽をリアル自宅の玄関前に置いていった。
────自分は、ソレを入浴剤として使おうと決断し、苦労して浴室へ運び込む。
ソシテ風呂を沸かし、プレイ中のスマホ片手に風呂に入った。
中華料理の餡掛けのようなトロ味掛かる湯船は、ねっとりとして保温効果倍増で、副産物として生まれる生々しい芳香は湯気にバフ付けし、心身共に闇落ちを誘う。
────尚、追加課金オプションで、タバコ・カレー・胃液など数百種類のフレーバーが付加できるらしい。
『……スマホに送られてくる情報を元に、このアプリと連動した"クークルmap"をスマホ上で開き、map内を移動して犯人を追い掛け、逮捕してください。』
は~い♪
『貴方の勇気有る決断に、期待します。……では、画面の指定場所に移動して下さい。』
早速、指定場所に移動すると、怪しい男が路地裏から出て来て、
『俺から紙袋のアバターを受け取り、オマエのリアル銀行と紐付けたら、100万円をコノ紙袋に入れろ。』
と、指示してきた。
────強制イベントらしく、指示に従わざるを得ない。
『紙袋に金を入れたら、オマエも紙袋に入って指示を待て。』
入金後、仕方なく紙袋に入ると、
『勇気チャレーンジッ!!!』
という、大音量のメッセージがスマホに突然届き、スマホを湯船に落としそうになる。
『勇気ゲージを50%上げる事が出来る、ボーナスなターイムッ!
説明しよう。
勇気ゲージとは、弊社からの問に対して、貴方の選択の影響を受けて上昇します。
選択に迷っても、あとから課金で解決できますので、安心して挑戦して下さいね。
この勇気ゲージを最大まで蓄積させると、おっと……ココでは口には出せない……ムフフフフ。
さあ、下記の問題を解いてねっ!!
問題(制限時間10秒)
1+1=? の正しい答えはどれ?
A、答えは2 (ユーザーの1%が選択しています)
B、答えは3 (ユーザーの99%が選択しています)
さあ、正しいのは?(とある宗教団体の入信問題より)
※ただし、家族=人質状態とする。』
少し考えて、あくまでもゲームだからと、Aを選択する。すると、
『おお……なんと勇気の有る方でしょう!……勇気ゲージを上げましょう!
さて……今、貴方の身代金の支払いが確認されました。
人質だったパートナー様が、解放されます。
それでは、紙袋から出て下さい。』
と、新たな指示がスマホに送られてくる。
紙袋から出ると、クークルmap画面内の自宅の前に移動していた。
その画面を見て気になり、風呂を出てソノまま玄関を出ると、外の様子を慎重に伺う。
すると、自宅の前に見覚えのある紙袋が置いてあり、袋の外側に、
────50万円在中
と、メモが貼られていた。
いそいそと紙袋をリアル自室に持ち帰り、慎重に紙袋を開けた時、カチカチと機械音がして、時限爆弾が起動する。
慎重かつ面倒臭そうに、ミカンの皮を剥くように紙袋を破って広げると、時限爆弾に貼られていた紙の上部に、手書きで、
『残り時間5分の勇気チャレンジを、お楽しみ下さい。』
と書かれていて、その下に長々と印刷された文章で、
『爆弾には、お馴染みの赤・青の配線が見えていて、どちらか片方を切れば、時限タイマーが止まるかもしれません。
因みに、過去のユーザーの選択は、
A、切るのは→赤 (ユーザーの58%が選択しています)
B、切るのは→青 (ユーザーの41%が選択しています)
C、その他 (ユーザーの1%が選択しています)
と、なっています(とある宗教団体調べ)
選択を誤れば、爆発します(弊社は、決して手抜きは致しません)。』
と、記述されていた。
爆弾の裏には、同梱されていた50万円分のプリペイドカードを入れる投入口が見える。
(……。)
────結局、残り時間5秒まで考え、課金で解除させた。
すると、時限爆弾の中から、
『爆弾ノ解除成功、オメデトウ……ゴザイマス……。』
と、声が聞こえてきた。
解除に成功した事を確認できて、ホッと胸を撫で下ろす。
同時に、後方のリアル自室のドアが突然開き、クークルmapで紙袋を渡してきた男が、室内に土足で入って来た。
男は、ズボンのポケットから大きなハンカチを取り出し、素早い動きでコチラの口と鼻を乱暴に塞いでくる。
────薬品の匂いを感じた瞬間、意識が飛んだ。
……気が付くと、自分は鉄の椅子に座らされていて、手足をロープで拘束されていた。
目の前には、アプリ運営の責任者と思われるフテブデブしい油髪の中年がソファで寛いでいた。
「貴方の選んだパートナー様と一緒に、貴方の一挙手一投足を、貴方のスマホのインカメラで観察していましたが……ゲームクリア、おめでとう御座います。
貴方がプレイされました、弊社の”(結婚相談)ゲームアプリ“では、パートナー様の好印象レベル次第で、常にアプリ攻略の難易度が変化しまして、希に絶対にクリア出来ない難易度にも到達します。
今回は、貴方のパートナー様が、こちらの段取りを無視してまで、
『会いたいっ!!』
という、非常に好印象を持たれまして……アプリ内容の大半を省略した強引な展開になりました事……大変失礼致しました。
それでも、貴方は見事ゲームをクリアされましたので、パートナー様との強制婚姻関係に関する権利を獲得されました。
尚、パートナー様の容姿に関しまして、画像生成機能の全てがフェイクでして、入力されたプロンプトに似た相手を、弊社登録の会員の中から御紹介させて頂いた旨、御了承下さい。
────婚姻届は、既に提出済みです。
尚、1ヶ月以内の離婚が確認されました時点で、違約金500万円の支払いが発生します。
後で、契約書の確認をお願いします。
ああ……先程の貴方の選択により、勇気ゲージは0に戻りました。
命が無駄にならず、良かったですね……ヒヒヒ。」
その後、帰宅の為に、自分は拘束されたまま複数の大男に担がれて、椅子から大きな段ボール箱の中に移される。
そのとき、コチラの様子を見ていた油髪に、爆弾の赤・青コードの答えを聞くと、
「……金を払わない奴に、1/2の確率もの救済猶予を与えてやる程、私は優しくないですよ……ああ、そうそう……約束でしたアプリのアンインストールは、一切の痕跡を残さずに実行されましたので、ご安心下さい。」
と、口元だけ変化させて笑い、段ボールの箱を強く一蹴りして去って行く。
そして、大男達に段ボールの蓋を閉じられ、丁寧に梱包されてリアル自宅に配送された。
体感で10分ほど揺られて、ようやく箱の揺れが収まると安心し、四苦八苦しつつ段ボール箱から脱出する。
────ソコは既に、リアル自室内であった。
そして、隣には更に大きな直方体の段ボール箱が置かれていた。
恐る恐る段ボール箱を開封してみると、段ボール箱スペースいっぱいに、大きな1人用ロッカーが詰め込まれていた。
────ロッカーの鍵は、掛かっていない。
生唾を一度飲み込んで、ロッカーのドアをギイイイイイと慎重に開けると、中には初対面のパートナーが強引に押し込められていて、思わず腰を抜かす。
しばし自身を落ち着かせ、もう一度中を覗くと、押し込められた肉塊の一部が動いて、目が現れた。
コチラを見つけて目を細め、喜んだように思えた。
この日を境に、外出中の家族が行方不明である。