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楽園を見た

作者: 雉白書屋

「……して、お前か。見たと見たと騒いでいる者は」


「へえへえへえ! あっしでございます! あっしは確かに見たのでございます!

あれはあっしがちょいと、周囲を警戒中の仲間たちから離れ、川辺を歩いている時のことでした。

美味しそうな魚がゆらゆらとへへへへ、誘うように体を揺らしていて、あっしは思わず、じゅるりと舌なめずり、そしてぴょんと飛びついたのでございます。しかしもしかし、思いのほか深く、流れも急であっしはゴボゴボと、ええ泳ぎは得意でございやんしたが、あららお恥ずかし、流されちまったのでございます。

んで! ででございますよでででので! 目が覚めるとそこは、まあ、なんと美しい花畑。普段は花なんて、ぺっぺのぺ! 花よりも食える実が好きなあっしが美しいだなんて思うんだから、それはもうええ、これ以上ないものでやっした……。

ふわっーと、これまた優しい風があっしの脇やら股の間やらを吹き抜けるとねぇ、これがまた気持ち良くて、花もゆらゆら揺れるんですよ。それでね、いい香りが漂ってきてね、鼻を前に突き出して辿って見りゃ果実も果実、たーくさん木についているんですよ! それがまた美味しくて美味しくて、あっしのほっぺたもだらだら、だらしなく垂れさがっちまって、まぁ歩けばペチペチとぶつかり合って、あ、それはいい音頭で、はぁー歌も歌いたくなるんでございやすよなんてへへへへ、まあそれはちょいと言いすぎですかね。すいやせん。でもほっぺたが垂れさがらなくとも歌いたくなる次第でござやして、まずは鼻歌からと、あっしがフンフン上機嫌で歩いておりやすと、なんともまあへへへへ、美しい女があっしに手招きしているじゃありませんか。

いやもう、あっし、今度は舌が地面につきそうなくらい垂らしちまってへへへへ、で、その舌で女の下をペロリとまぁ、へへへへへ、あ! と、その話は置いといて、これだけは是非是非お伝えせねばとねぇ思うんですよ。

ああ、勿論、他にもあるんですがねぇ、果実だけでなく肉や魚といった美味いものも、それもまた美女がへへへ、食わせてくれたりなんかと、いやいやそれよりもですよ。あっしが見たのはそう、おっかあですよ。おっかあ。母ですな。

ええ、そう、もう死んでますともええ。でも間違いありやせん。あっしはもう涙涙でおっかあに歩み寄って抱きつき、もうおいおいとへへへへ、すみやせん、思い出したらあぁ、涙が……。

でもでもですよ、おっかあが、こう言ったんです『あんたにはまだここは早い』って。

それであっし、なんだかぐーんと体を引っ張られる感覚がしたかと思うと、あら不思議、川のそばで口からぴゅーと水を吐いたもんですよ。

ええ、ええ、溺れたあっしは仲間に助けられ、というわけですね。

でもね、でもですよ。この話に、いや、そりゃ仲間連中は言いますよ『夢で見たんだろ』って。

でも、あれは現実ですよ現実。いや、現実と言っていいのかもわからねぇですがええ、何て言うか、そう、あっちの世。あの世ですなぁ。いやー、いいとこでしたよ……え? もう十分? へへぇ、あい、下がらせていただきやすね、へへへへ」



「して、お頭。今の者の話は……」


「嘘だ。たとえ事実であってもな。他の連中が言うように夢を見たのだと、そう広めよ」


「ははっ。ですが、奴のことは」


「……死ねば楽園に行けるなどという考えを広めてもらっては困る。

嘘だ、いいや本当だ、とそれだけで争いが起きかねない。それに、死が救済と考える奴が出ても困る。

あやつのように、あれこれ話に付け加えたり『俺は楽園への行き方を知っている。信じない者は死後、酷い場所に行くことになる』などと言い、従わせようと考える輩も出るやもしれぬ。信じない者に攻撃的になり、それがまた争いの種となる。

戦って死ねば楽園へ行けるなどと愚か者たちを扇動するかもしれぬ。

あやつは処刑だ。棍棒で叩き殺した上に火にくべろ。今日、狩ったマンモスの肉と一緒に食うのもよいな。なあに、奴も楽園に行けるのなら本望だろう」

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