田中税金泥棒
税金泥棒か否かを巡る裁判が始まった。ブルブル震える被告人。彼の名は田中。元国会議員で、政務活動費の不正受給及び政治資金パーティーの、つまりは献金を少なく報告するなど彼はとにかく私腹を肥やすことばかり懸命になっていた。
しかし、ついに裁きの鉄槌が下るというわけだ。
法廷にて、田中は必死に訴えた。
『わざとじゃない』『うっかりしていた』『秘書が勝手にやった事』『税金泥棒などとは心外だ』『侮辱もいいところだ』
因みに彼の秘書は自殺している。おまけに彼は暴力団と繋がりがあった。黒い交際でもあるわけだが、不確定である以上、今回は税金泥棒に比重が置かれる。
彼はついには涙を流し無実を、税金泥棒呼ばわりの撤回を求めた。
しかし、かつて証拠改ざんを行った検察官、佐藤でっちあげが厳しく追及する。それを老齢の弁護士の高橋痴漢野郎がヨボヨボの声で反論する。
審理を終え、裁判官、鈴木万引き犯が判決を言い渡す。
田中は税金泥棒、と。
入墨刑。その昔、罪人には入墨が施された。
消えぬ刻印。善人とそうでない者の見分け。
そして現在より少し前。右肩上がりで増加傾向にあった犯罪率。これをどうにかしようと、思い切った法が制定された。
そう、入墨刑の復活である。ただし、体ではなく、その名前にだが。つまり、罪を犯した者はその名前を奪われ、自分の罪に関係した名前がつけられるというわけだ。
たとえそれが若い頃にやった、たった一度の万引きであっても決して消えない。犯罪者はその罪を一生背負い、事あるごとに文字通り向き合わなければならない。
見せしめ。人々はああはならないように、と法を守り、清く生きようとする。
が、実際のところ、この法が施行される前と今とで犯罪率はそう変わっていない。むしろ上がっていると言ってもいいだろう。ただ、それは以前よりも犯罪に対する人の目が厳しくなったことにある。
つまり密告、通報が増えたのである。万引き、痴漢、社内の不正、暴力、不法投棄。あらゆる犯罪は血が通った監視カメラにより、白日の下に晒された。
傍聴席では「私は国のためにぃ! 尽くしてきたんですよぉ!」と号泣する田中税金泥棒を笑う者が多数あった。
そう、他者を蹴落とし、落伍者を笑う。そういう国民性となったのだ。これは果たして正しいのか。叫声、笑声入り混じる傍聴席で私はこの国の未来を案じ、この制度を撤廃すべきだと、そう拳を強く握るのだった。
ライター 伊藤脅迫暴行名誉毀損