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金縛りのススメ

作者: 三河三可

 20歳までに心霊経験がなければ霊感はないと聞いたことがある。しかし、それは全くのデタラメであり嘘でした。


 私が初めて金縛りを経験したのは、29歳の時。新婚旅行でイタリアに行った時のホテルでの経験でした。

 初めての海外旅行での緊張、過密スケジュールや時差もあり、疲労はピークでした。周りからは「疲れのせいだよ」と言われたが、コップの中でカランと音を立てて向きを変える歯ブラシや、あるはずのない場所から聞こえる扉の閉まる音は、疲れのせいではないでしょう。


 それでも、疲れのせいだと半ば自分に言い聞かせました。20歳までに心霊経験が無かったのだから、金縛りにあうはずなんてないと!

 その後は、特に変わったことが起こるはずありませんでしたが、鮮明な記憶と感触だけは残り続けました。



 それから20年が経ち、再びあの感触は襲いかかって来ました。日々の仕事や生活の中で、多少の疲れは感じています。歳を重ねるにつれて、同じ仕事量をこなしていても、蓄積された疲労は強く感じますが、限界を超えた疲労ではありません。


 何となくベッドに横になった私の体は、全く動かなくなりました。目は開くし視界も鮮明ですが、全く体は動かない。20年前に体験した感触や記憶が、鮮明にフラッシュバックしてきます。


 まず確かめたのは、足首や足の指。なぜ足先を確認したかといえば、体の端であれば金縛りの効果が弱いと思えたからです。それに、いきなり腕や体に意識を集中することが怖かったのが、もう1つの理由です。


 しかし、僅かな期待は簡単に打ち砕かれました。硬直したように全く動かない足先。痙攣しているわけでもなく、ベッドの上に横になっただけで、毛布や布団は被っていません。認めたくはありませんが、これは金縛りで間違いない。ここで覚悟決めて、徐々に意識を上半身へと移しました。


 呼吸は出来ているが、胸の動きは感じられません。なぜか両手は胸の下に置かれ、両手の中指の先端が微かに触れている。そして上半身も、自身の意思では1㎜も動かす事が出来ない。首すら曲げれず、視線も真っ直ぐに天井を見つめたまま。唯一動いているのは、呼吸だけ。


 それならば、助けを呼ぼうと。大きく息を吸い込むことは出来ませんが、可能な限り大きく長く声を出そうと試みましたが、声は出ません。僅かな空気が漏れた程度で、吐き出した息の音さえ聞こえません。


 それでも、もう一度試みてみます。息を吸い込もうとした瞬間、状況が大きく変わりました。動かなかった体に、急に大きく力が加わったのを感じます。体の上に何か重いものを載せられたように荷重が加わり、手が体へ沈み込んでゆく。自身の意思で体は動かせないが、外力が加われば体は動くのだと理解すると、さらに体の変化は続きます。


 コツンコツンと、後頭部に伝わってくる衝撃。何度も繰り返される衝撃に、次第に動かなかった首が曲がり、頭が持ち上げられてゆくと、遂に視界が体と両腕を捉える。


 見えたことで、より感触が鮮明に伝わってきます。両腕だけでなく手の甲から指先まで、ハッキリとした跡がついている。

 上に何かを載せられているのではない。ベッドの下から何かに抱き締められている。何も見えはしないが、腕や手の甲、指にまでクッキリと跡が付き、寸分の狂いもなく重ね合わせられている。


 「否定するな、全てを受け入れろ! 逃げることは許さない!」と頭の中に声が響きます。


 抵抗することが怖くもあり、馬鹿らしくも思えましたが、受け入れることも出来ずに、ただ目を閉じ思考を停止させました。


 気が付けば金縛りは終わっていました。夢を見ていた気もしましたが、手にはクッキリと跡が残されています。


 何故かこの事を記録として残さなければならない気がする。いや、記録として残すように命令されている気がする。




 もし同じような金縛りにあったならば、助けを呼ぼうとしてはなりません。自身で向き合うことだけが、解決すべき術となるでしょう。受け入れるかどうかは、あなた次第です。

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