#缶コーヒーと一緒
――どうにかして売り上げを上げるんだ
この真っ黒な下地にcoffeeの白文字と原材料、賞味期限だけが書かれた缶コーヒーを右手に持ち眺める。販売者は――野土越株式会社
「どうしますか先輩。やっぱりSNSっすか」
「そうだな。今の流行りに乗っかりたい」
SNSで話題になっているハッシュタグがある。
――#甘鷹と一緒
甘鷹はペットボトルの緑茶だ。湯飲みのような独特な形をしている。その甘鷹を写真に撮って投稿するのが今のSNSの流行だ。「恋人いないから甘鷹とデートなう」とか「紙ストローはゴミ。時代は甘鷹」とか「武器アプデに甘鷹まだですか?」など様々な呟きがある。
甘鷹の人気は色褪せず「#甘鷹と一緒」は常にトレンド入りだ。
「SNSの活用ってなに呟くんすか?カフェインがコロナに効くとか?」
「そんなデータないだろ」
缶コーヒーを飲みながら考える。苦味と酸味が気持ちを落ち着かせてくれない。
「……あれだな。『#缶コーヒーと一緒』がバズりそうだろ」
「バズるっすかねぇ……試しにやってみるのはありだと思うっす」
「じゃあ明日から呟くの決定な」
自分の飲み終えた缶コーヒーを見つめる。
「やっぱりこのデザインに問題あると思う」
それは社長以外の全員が思ってるっすと頷きながら後輩が言った。こんなカバーを外した消しゴムのようなデザインで売れるわけがない。社長は、それがいいんじゃないかとかいうから困ったものだ。
継続は力なり――
今日も「#缶コーヒーと一緒」とオフィスで撮った缶コーヒーの写真ともに、野土越株式会社のアカウントで呟く。
二週間ほど「#缶コーヒーと一緒」で呟き続けた。結果はまったくもって駄目だった。二桁のいいね止まりで流行に乗っかれなかった。しかし奇跡が起きた。
「甘鷹なかったので缶コーヒーで#差し入れありがとう#缶コーヒーと一緒」
人気アイドルが缶コーヒーを持った写真を投稿した。すると瞬く間に拡散された。「甘鷹は甘え。缶コーヒーで差をつけろ」とか「紙ストローはゴミ。はっきりわかんだね」だったり、「100人で缶蹴りやってみた」という動画が再生回数を伸ばしていた。
甘鷹から缶コーヒーに乗り替えだ。
同時に我が社の缶コーヒーの売り上げも右上がりに伸び始めた。惜しくも缶コーヒーが流行なのでライバル会社も売れているはずだ。
ポケットからスマホを取り出し、自分のアカウントで呟く――
「コーヒーの二番煎じはやめろ」
この呟きは伸びなかった。