47.アルバートさんが帰ってきたから全員集合?
顔をチラッと見ただけ。
その瞳をほんの数瞬、見ただけなのに。
スキップしたくなっちゃう。なぜだろう。
「なんだメグ。ずいぶん機嫌がいいな」
「あ! ロブさん! 打ち合わせですね、お疲れさまです!」
今日の午前中、アイリーンさまが緊急会議だって言ってロブさんを呼びつけたんだよね。……あれ。サミーさんは一緒じゃないんだ。北通り支店でお留守番かな。急遽の呼び出しだったもんね。
……なんの用件なんだろう。
隣国向けの荷駄に不備でもあった?
広告はおおむね好評だからモデルチェンジはないし。うーん。商会の二大トップの緊急会議だもん、なんだか不穏な気配。
わたしの個人的な理由で浮かれている場合じゃないよね。こういうときは、どんな最悪な現場になろうと対応できるように気を引き締めないと!
「アルバートの奴は? もう来てる?」
「へ? アルバートさんですか? いいえ、来ていませんが」
情報早いなぁ! もうアルバートさんの帰国を知ってるんだ。流石ロブさん。
「あの旦那もついに年貢の納めどきって奴か」
なんだかニヤニヤしながら、妙な呟きを残して会長執務室へ入ったロブさん。
『年貢の納めどき』っていう言い回しは、このあいだ読んだ本にあったなぁ……たしか東の国のことばだったよね。悪いことした人が捕まって罪に服するときに、逮捕する憲兵さんがいうことばだったかな。
……ん? どゆこと? 話の流れ的にはロブさんの言ってた『あの旦那』ってアルバートさんのことじゃないの? アルバートさん、逮捕されるの?
え?
わたしは会長執務室の隣、秘書室でお茶の用意をしながら考えを巡らせていたんだけど。
え? アルバートさん、逮捕されるなんて、どんな悪いことしたの⁈
今まで他国のダンジョンで調査をしてたんだよね?
申告しなきゃいけないマップを不正したとか?
その国の王族に不敬を働いたとか? なんだろう、気になる……。
いやいや、落ちつけ。わたし。なにも分からない内に不安がってどうする! 最悪の場合の心構えだけして、冷静に対処よ!
◇
平常心を心がけてお茶を淹れて。
ワゴンを押して会長執務室へ運んで。
会議をしているお二人の邪魔をしないよう、静かに静かに。うーん、こういうとき『隠密』の祝福とかスキルがあれば静かにできるのか。レイさんが羨ましい。そんな特殊能力のないわたしは、粗相しないよう気をつけないと。
お二人は応接用のソファにローテーブルを挟んで向き合って座っている。
――あれ。アイリーンさまもロブさんも、黙ったままだね。っていうか、わたしが部屋に入ったから? 邪魔してる? それとも話の内容が膠着状態ってやつなのかな。
どっちにしても気まずい……。
雰囲気が暗い、気がする。
アイリーンさまは腕組みをして脚も組んで、ソファに背中を寄り掛からせている。なんだか不機嫌そう。
ロブさんは……ニヤニヤしてる。なんだか楽しそう。
わたしと視線を合わせると、途端にいい笑顔を見せてくれた。どうしました???
わたしがお茶出しを終え、下がろうとお辞儀をしたらアイリーンさまから指示を受けた。暫くこの部屋にいるようにって。理由はわからなかったけど、大人しくアイリーンさまの背後に控えた。
お二人はひとことも話さない。
ロブさんが茶器を扱うときに微かに音が立ったけど、それだけ。空気が重いわ。
なんとかならないかと思ったそのとき、部屋の扉がノックされた。
「アルバートです。入室の許可を」
どうやらノックしたのはアルバートさんだったみたい。
「入りなさい」
アイリーンさまが許可を与えた。失礼しますと言って入室したのはアルバートさんとレイさんと、扉の外に立っていたヴィーノさんも部屋の中に入ってきた。
朝見たときはなんだか薄汚れていたけど、今のアルバートさんはシャワーを浴びたのかな、髪も整ってるしすっきりしてる。……お髭、剃ったんだね。
アルバートさんは初めて会った日に着ていた、青い騎士服を身に着けていた。どこか緊張した面持ちでアイリーンさまの前まで歩を進めたアルバートさんは
「実に不可解なんだが」
と言って腕組みをした。
「お前たちの要望は矛盾していないか?」
不機嫌そうな顔でアルバートさんが言うと、アイリーンさまが応える。
「矛盾とは?」
「女性はムードが肝心とか言っていなかったか? だからきちんと衣服も改めたしちゃんと申し込もうとしているのに、お前たちの前でないと許可できないとは、どういう了見だ?」(アルバート)
「当然でしょう? メグの親はいないのだから、雇用主であるわたくしにひとことあって然るべきだわ」(アイリーン)
「それは甘んじて受けよう。だがレイやロブ、ヴィーノまで立ち会う意味は? お前らは絶対、面白がってるだろ⁈」(アルバート)
「俺は立会人」(ロブ)
「私は愚兄の付き添い」(レイ)
「……自分は見届け人で、妻に報告の義務を持っています」(ヴィーノ)
「ヴィーノはいらないよな⁈」(アルバート)
「この際だから見届けて貰いましょう」(アイリーン)
「いーじゃん、いても」(ロブ)
「うだうだ言わない」(レイ)
え。なんのお話をしているの?
口を挟む間も考える間もなく、ぽんぽんと始まる会話の応酬に、オロオロするしかないわたし。
今まで不自然なくらい重い空気の中で静まり返っていたのに、人口密度が上がった途端に賑々しくなったよ!
と、思っていたら。
「メグっ!」
アルバートさんがわたしの前に来て話しかけた。と、すかさずその背後にレイさんが立ち、
「跪く!」
と言って後ろからアルバートさんの膝裏に蹴りを入れた(らしい)。バランスを崩し片足を床につけたアルバートさんは恨めし気にレイさんを見たけど、レイさんはいつもの無表情。
アルバートさんは片膝立てて跪いた体勢のまま、ひとつ咳払いをした。
「メグ」
あ。これプロポーズの体勢じゃない?
ことここに至って、わたしはようやく理解した。
もしかして、アルバートさんはわたしにプロポーズしようとしているの? それを、アイリーンさまをはじめとした皆さんで見守ろうとしてくれているの?
嬉しいっ!
嬉しいけど……。
緊張した面持ちでアルバートさんが言った。
「メグ、俺と……けっこん、してくれ」
「え。だいじょうぶですか?」
わたしの返事にアルバートさんが固まった。
その場に沈黙が訪れた。あれ? わたし、変なこと言ったかな。
「あなたが大丈夫? メグ」
随分時間が経ってから、アイリーンさまの澄んだ声が聞こえた。
「わたしは大丈夫ですけど、アルバートさんは『年貢の納め時』なんですよね? 刑期はどれくらいなんでしょう。大丈夫です、わたし待ってますから!」
わたしはまじめに返答したのに、ロブさんは大笑いした。
アイリーンさまとレイさんが苦笑して、ヴィーノさんは妙な顔して固まったまま。肩が揺れてますよ?
そしてアルバートさんは。
「俺の刑期って、なに?」
と首を傾げていた。
次回、ラスト!




