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43.明らかになった真実と拉致の顛末(ざまぁ?)

 

 花火大会が終わってしばらくして。

 アルバートさんがわたしをロイド邸へ送ってくれたんだけどね。

 なぜか正面玄関の前には、腕組みしつつ剣呑な雰囲気を(まと)ったレイさんがわたしたちを待ち構えていらっしゃいまして。


 ……こんな構図まえにもあったわ~

 あのときはわたしたち、馬に乗ってたわ~

 今日はお姫さま抱っこだけど~


 なんて呑気に思い出している間に、レイさんが右手を上げパチンと指を鳴らした。

 それを合図に、レイさんの背後にスタンバイしていた使用人の皆さんの手によって、わたしはあっという間にアルバートさんから隔離されて。


 鬼の形相のレイさんがアルバートさんに詰め寄り、


「てめぇは事情聴取があるって知ってただろぅ? あぁん? なに遅い時間までいちゃこらしてやがる!」


 なんて、レイさんにしてはとっても珍しく乱れた言葉(しかもドスの効いた低い声)でアルバートさんの胸倉掴んでいる光景に、目が点になったんだけど。

 レイさんはやっぱり怒らせちゃいけない人だ! と怯えたわたしを目にしたレイさんは一転、


「メグ。今日は災難だったにも関わらず、よく頑張りましたね。湯舟の用意をしたので浸かって、ゆっくり疲れを癒すように」


 と、慈悲深い聖女さまもかくやとばかりのやさしい笑顔を見せて(いつもは無表情なのにっ)、(ねぎら)ってくれた。しかも、ロイド邸の女性使用人のみなさん総出であれよあれよという間に、わたしはバスルームに連れていかれた。


「お待ち、アルバート・エゼルウルフ。てめぇとの話はまだついちゃあ、いないからね」


 というドスの効いたレイさんの声を遠くに聞きながら。



 アルバートさんはどうなったんだろうと思いながらお風呂をいただいて。

 他の使用人さんから、『メグは今晩ゆっくり寝なさい。明日一日特別休暇だって聞いてるから寝過ごしても大丈夫よ』って教えて貰ってちょっと嬉しかった。


 ……ところで、レイさんは万博最終日の今日、業務が終わったらわたしとお話したいことがあるって言ってたはずなんだけどなぁ。

 アルバートさんとのお話し合いが優先ってことかも。……暴力という肉体言語での話し合いなのかなぁ……うわぁお。


 気になっていたんだけど、お風呂もいただいて身体が温まったわたしは早々に眠りに落ちてしまいました……ZZZ


 自分ではちょっと目を瞑っただけだったんだけどね。

 気がついたときは朝で、部屋が明るくなってたの。

 あちゃーって感じだ。この邸のベッドのマットレスは、どれも最上級品だから仕方ないよね!



 ◇



 つまりわたしは、いつもよりも寝坊してしまったわけで。

 だれも起こしに来なかったのは特別休暇だったから。べ、べつにだれからも相手にされていないとか、忘れられてたってわけじゃないんだからね!


 その証拠に、目が覚めてしばらくたってからメイド仲間が様子を見に来てくれた。

 で、その子が来たわけは、わたしを指名して憲兵さんが訪れたから。

 憲兵さんの来訪なんてなにごと⁈ って、驚いたのなんのって!

 わたし、なにか悪いことしましたか⁈ って怯えたんだけど、レイさんがきちんと説明してくれた。昨日の誘拐未遂事件についての簡単な事情聴取であって、わたしは罪に問われるようなことをしていないから安心しなさいって。ほっとした。


 うっかり忘れてたけど、わたしは誘拐騒ぎを起こして(起こされて?)いました。昨日は売り子スタッフとアルバートさん以外とはろくに話しもしないで帰って来ちゃったもんね。


 で、アルバートさんはゆうべ、レイさんとどんなお話し合いをしたんだろうって気になって。

 レイさんに訊こうかな、どうしようかなって迷いながら顔色を窺っていたら。

 レイさんはもうすっかりいつもの無表情レイさんに戻っていて、淡々と話してくれた。


「メグの聞きたい事は分かりますが、まずは公的な後始末から済ませてしまいましょう。私も立ち会いますから」


 わたしの聞きたいことなんて、レイさんにはお見通しなんだね……。うん、絶対怒らせないし逆らわないようにしよう。


 ロイド邸の応接室で憲兵さんとの事情聴取。緊張しきっていたけど、レイさんが立ち会ってくれて心強かった~。

 そこでいろいろ聞かれて、分かる範囲で知ってることをぜんぶ話した。

 憲兵さんはおだやかな笑みを見せながらわたしのことばを記録水晶に残していた。



 ◇



「落ち着きましたか」


 事情聴取を終えた憲兵さんが帰った応接室で。

 レイさんがわたしのためにわざわざお茶を淹れ直してくれた。

 わたしはそれをありがたく頂戴した。やっぱり美味しかった。


 なんというか……話しをしただけなのに、疲れちゃった。

 憲兵さんはわたしから見た昨日の誘拐未遂事件の詳細を聞き取りしてたんだけど、同時に現在判明している事実も教えてくれて。


 ビックリ仰天したよ!

 あの人形ブースの白髪のおばあちゃん支配人、わたしの本当のおばあさんだったんだって! お母さんのお母さんなんだって!

 たまたま万博会場でお母さんそっくりのわたしを見て驚いて身元を調べたら、まさかの孫娘で驚いたと。で、連れ帰りたいと思ったんだって。だから人形の恰好をさせてこっそり連れ帰ろうとしたんだって。


 なんか、すっごい身勝手な理由じゃない?


 しかも。

 わたしがなんらかの特殊な祝福だか加護持ちだってのが判明したから、連れ帰ろうとしたって言ってるんだって。


 ……なんだそれ。

 知らないよ、加護なんて。


 あのお婆さん支配人って、そんな人だったんだなぁ……。いつも笑顔で上品でやさしくて。良い人だなぁって思ってたわたしの気持ちを返せって感じ。


 身勝手で独善的。孫娘(わたし)の気持ちなんて全然考えてくれない。

 そんな人がお母さんのお母さんなんだ……。

 そう思うとね、なんだかがっくりきちゃった。疲れ倍増って感じよ。


 わたし自身が被害届を出して訴えるかどうか訊かれたけど、それは断った。

 被害の賠償云々(うんぬん)よりもね、もうね、関わらないでくれればそれでいいですって。

 あんな身勝手な人、血縁者だなんて思いたくないよ。どうせ今までその存在を知らなかったんだから、交流なんてなくても全然困らないし問題ないもん。



 ◇



 そうやって、わたし自身はなにごともなく済ませようとしてたんだけど、アイリーンさまはそうじゃなかった。

 もうね、深く静かに怒り狂ってたんだって。


 ここから先の話は、本来はこの時点ではわたしの耳には入っていない情報だけど。


 アイリーンさまは司法に訴えた。

 他国の人間を誘拐、身柄拘束なんて悪質過ぎる。

 しかも売り物の人形に紛れさせるなんて、そもそもその売り物こそ人身売買するための隠れ蓑にしているのではないのか? 人身売買をする奴隷商人なのかって、そりゃあもう、もの凄い勢いで追求したのだとか。


 あのおばあさん支配人のシュロギ商会は、わが国のすべてと営業停止。

 わが国への永久入国禁止処分を言い渡されたうえに、ローズロイズ商会の商会員を拉致した損害賠償金と被害賠償金と法外な値段の慰謝料を請求されたのだとか。それを払い終わるまであの支配人は保釈されないって条件付きで。

 しかもその支配人の保釈金すらもバカにならない金額だとかで。


 結局、すべて払ってエラス連合国へ逃げ帰ったらしい。シュロギ商会には壊滅的な被害金額だろうって。


 アイリーンさまのお怒りはお父上のカレイジャス侯爵が引き継ぎ、我が国とエラス連合国との国際問題にまで発展してるんだとか。

 エラス連合国ってのが、あちこちある小さな商業都市が力をつけて提携しての集合体、寄せ集めの自治国家だとかで、王様とか貴族って存在がいない国なんだって。つまり平民たちの国だったらしいんだけど、平民が台頭している現状が嘆かわしい、だからこんな奴隷問題を起こすんだ、やはり王制にした方がいいんじゃないか、とかなんとか文句(言い掛かり?)を付けられてるんだって。

 元々、そんな平民たちの国って存在そのものが気に食わなかったらしくて。

 まさか国際問題になっちゃうなんて思わなかったよ。




 シュロギ商会にとってなによりも大きい損失は、信頼を失ったことだってレイさんが言ってた。

 商人にとって一番必要な物は信用だっていうのに、一国から完全拒絶されている商会なんて、問題ありあり信用ならんって子どもでも分かる。

 しかもエラス連合国の在り方にまで言及されるような問題を起こした商会だ。帰国したところで、連合国内での信用度も地の底まで落ちたことでしょう。もうまともな商売はできないでしょうねって。

 シュロギ商会って、あっちの国内では王侯貴族もかくやって状態の勢いのある商会だったらしいんだけど、醜聞と金銭的打撃には勝てないだろうって。


 こういうの、自業自得っていうんだって。





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