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35.万博、後半の模様……会長室で会長たちは

 

「あらー、メグ! 差し入れ? ありがとー♪」


 本日の売り子スタッフちゃんたちへ差し入れと称して、飲食館で購入した飲み物を渡すと、ベティは大喜びだ。

 お客さまから見えない陰で飲んでね、ベティ。


「今日も来てたわよ、メグ目当ての可愛い紳士が」

「あ、ラウールくん? また来てくれてたんだ。行き違いになっちゃった」


 迷子になっていた(ラウールくん)を保護したことがあったんだけど、あれ以来なんだか懐かれちゃったんだよね。

 ちょっと暗めの金髪と青い瞳の可愛い紳士。7歳って聞いてたけどちょっと小さいかなぁ。

 隣国から商談で来た商家の息子くんで、わたしが保護したあの日は来たばかりでお母さんとはぐれて迷子になっちゃったんだって。

 あのあとお母さんと一緒に挨拶に来てくれて、今ではすっかり万博会場に慣れたみたい。

 なん度かこのローズロイズ商会の出展ブースにも親子で顔を出してくれてる。お礼ですって言って小さな手でクッキーを渡してくれたりして、可愛いんだ!

 一緒にカフェテリアでお茶したときなんて、小さな身体でドアを押さえて『お先にどうぞ』って言ってくれたり、わたしの座る椅子を引いてくれたり、その椅子の埃を払ってくれたり、紙ナプキンを渡してくれたりと率先して面倒みてくれるの。可愛いーの! すごいよね小さな紳士くんは! 

 なんと、プロポーズもされちゃったんだよね。えへ。

 自分のお母さんの目の前でわたしにプロポーズしちゃうんだから、まだまだ子どもだよねぇ。


『わたしはラウールくんより年上だから、ラウールくんがおとなになるまで待てないかもよ?』


 って言ったら泣かれちゃった。その顔があまりにも可愛すぎてどうしようかと思ったよ!


『早くおとなになるから、メグ、僕がおとなになるまで待ってて』


 なんて言って涙目で見上げられたら、こっちはきゅんきゅんしちゃうでしょー⁈


 うーん、ラウールくんっていま7歳かぁ。彼が結婚可能になる16歳まであと9年。そのときわたしは27歳かぁ……。だいぶ差があるんだねぇ。11歳差って。

 そんな子と結婚の約束なんて、もしかしてわたしったら犯罪者予備軍なんじゃない? だいじょうぶ?


 あー、でも……アルバートさんとも11歳差なんだよ、ねぇ……。


 あー……。


 最近はわたしの専属護衛を辞めてもらったから、前ほど話す機会減っちゃったんだよね……。彼はアイリーンさまの専属護衛だもんねぇ……。


 わたしはアイリーンさまの秘書だから、顔を合わす機会が無くなったわけではないけど。

 でも今日みたいに、アイリーンさまは商会でお仕事中。わたし一人で万博に陣中見舞いって日もあるわけで。


 アイリーンさまがジェフリーと離婚してから約半年。つまり、ジェフリーがわたしを付け狙っているからとアルバートさんが護衛になってくれて約半年ってことで。

 毎日、一緒にいて。一緒にいる、なんて意識するまでもなく一緒にいたんだ。


 今日みたいにひとりで行動している今、改めてアルバートさんの不在を強く感じる。

 居なくなって初めて分かるありがたみってやつかな。

 

 なんだかさみしいの。

 右側にあの熱の塊がないから、かなぁ。寒い気がするの。



「メグ? なに落ち込んでるの? 共通語の勉強進んでないの?」


 ベティが心配そうにきいてくれる。ほんと、みんな優しいんだよね。


「んー、そんなことないよー。勉強の方は順調」


 本当にそうなの。勉強は順調。わたしってやればできる子だったんだなぁ。


「そういえばメグ。最近はあの卑屈発言が出ないね。いい傾向だ」


「卑屈発言?」


 唐突なベティの発言に目が点になるわたし。


「うん。商会に来たばかりの頃、たまに言ってたじゃん。『わたしバカだから』って。あれって、自分で自分を(おとし)めているでしょ? 良くないなぁって思ってたんだ」


 ベティのことばにハッとした。

 そういえば、まえは口癖のように言ってたかも。

 ……ジェフリーによく言われていたから。


「自分で、自分を貶めている……」


 ジェフリーと会わなくなって、わたしを「バカだ」という人がいなくなった。


 アイリーンさまは『今日もご苦労さま、明日もよろしくね』って言ってくれる。

 レイさんは『睡眠はちゃんと取ってますか』ってよく心配して聞いてくれる。

 ロブ副会長やサミーさんは『メグはいつも元気でいいな』とか『メグの笑顔にこちらも元気を貰えますよ』とか言ってくれる。

 最近はなかなか会えなくなったけど、シェリーさんもすぐお茶を淹れて一服しなさいって休憩を勧めてくれる。


 アルバートさんは……『メグはスゴイな』って褒めてくれた。

 頭をポンポンって、撫でてくれた。あの大きくてあったかい手で。


 みんな、わたしを褒めてくれたり体調を気にしてくれたり頑張りを認めてくれたり、する。

 だれもわたしを貶めない。




「うん。でも最近はその口癖? が出ないからいい傾向だなぁって、勝手に思ってたんだよ。やっぱり勉強とかすると知識が身に付いてちょっと賢い自分になれるじゃん? 自信に繋がるよね!」


 わたしもそうだもんと言って屈託なくベティが笑う。とってもチャーミングな笑顔。

 本当だ。いい笑顔を見せてもらうとこっちも元気を貰えるんだね! なんだかすっごく嬉しくなったよ!


「ベティ! お化粧直し、してあげる!」


「へ? いま? この場で?」


「いま! この場で!」


 嬉しい発見と嬉しいことばをいっぱい貰っちゃったからね、お礼だよ!

 せっかくだから新色のチークとアイブロウも使っちゃおう! 試供品も使わないともったいないもんね!


 ブースのど真ん中に椅子を持ち出してベティを座らせて、ささっとお化粧直ししていたら。

 裕福そうなドレスをお召しになった妙齢のご婦人から「あらいい腕ね。わたくしにもやってくださらない?」とお声がかかって。

 ベティと顔を見合わせて。

 お互いなにも言わなかったけど、なにを考えたのかは解ったよ。


 “チャーンスっ(にやり)!”って。


 だからお客さまには上品な笑顔で対応しました。


「こちらの商品一式をお買い上げのお客さまへ、特別サービスいたします」ってね。


 そうしたら、お客さまは惜しげもなくポンとお買い上げくださいまして。

 ……ふふふ。これって売り上げアップに使えそうだと思ったのでした。へへへ。



 ◇



「つまり、実演販売ってこと? メグがまた新しいアイデアを出したのね」


 アイリーンさまがいつもと同じおうつくしい笑顔でわたしに訊いてくれる。

 わたしはローズロイズ商会本店に戻ってから、万博であった今日の出来事をアイリーンさまへご報告。どのお品がどれだけ売れたのかも一緒に報告済。


「新しいというか……アイシャドウとかアイブロウとかチークとかの使い方をよく知らない層もいるみたいだったので」


 売り上げ一番人気なのはやっぱり新作のスティック型口紅だけど、それだけ塗ってお化粧終わり! って思って欲しくないんだよねぇ。

 本音は化粧水からちゃんと使ってクリーム使って保湿、っていう化粧下地部分からきちんとして欲しいんだけどね。お化粧ってしない人はしないからね。


「いいわよ。売り子スタッフの子たちと新しいチームを組んでやりなさい」


 アイリーンさまからお許しを頂けた! やったね!


「だからと言って大陸共通語修得のためのお勉強の時間を削らないでよ?」


 アイリーンさまから釘を刺された! やられた!






 ◇ ◇ ◇ (ローズロイズ商会本店、会長執務室)




 重要戦略会議と称しメグに席を外させ、二人きりになったところでロブは口を開く。


「最近のメグを万博スタッフから外してるのはわざとだろ? 自分で姑息だと思わないのか? アイリーン」


 アイリーンはメグの淹れてくれた茶の香りを楽しみながら答える。


「ロブこそ、あの子に共通語教えたりしてるじゃない」


 しばし満ちる沈黙。お互い気まずい心地で視線が合わない。

 が、沈黙を最初に破ったのはロブだった。


「それは……、必要なことだし……俺は自分を姑息だと思ってるさ。あそこをフラフラ出歩く時間を減らせるかもと思っての提案だったのを認める。だが、いくら接触機会を減らそうとメグ本人がスケジュール調整して出向いている現状だ。俺たちにこれ以上どうしようもできないし、しちゃあいけないと思う」


「わたくしにも解っているわ」


 どうやらアイリーンはまだ迷っているようだと、彼女の表情からロブは推測する。すべてを直感で即決していた学園生時代のアイリーンを知る身としては、珍しい状況だと思った。


 あの日もアイリーンは気心の知れた昔馴染みに相談した。

 メグの生い立ちを探るため彼女の親族を探していたことを。そして知った事実を。

 天涯孤独だと思っているメグにそれを知らせるべきか否かを。


相手側(あちらさん)から正式な面会要請があったら、ちゃんと腹括って会わせろよ?」


「当然でしょ。わたくしをそこまで卑怯な人間だと思わないでちょうだい」


 とはいえ。

 昔馴染み四人で話し合いをした当日、メグ本人からこんなことがありましたと報告を受けた。

 その相手の名前が、アイリーンの手の者が探し当てたメグの親族名と一致していたから驚愕にことばもでなかった。

 先方からは、親族だという名乗りをいまだに聞いていない。メグ本人と接触していても、そうとは話していないようである。


「あちらさんも今まで名乗ってこないってことは、メグが自分の血族だって知らないのかも? ……偶然会った……ってんなら、まさしく運命の出会いなんだろうが……そんな偶然、あると思うか?」


 いや、偶然にしては出来すぎていないか? とロブは疑問に思った。


「なに、それ。運命の出会いを演出されたってこと? あの純粋なメグ相手にそんな卑怯な手を使ったの? そんなこと、わたくしは許さないわ」


「接客シフトから外してるお前が言うな、だ」


 アイリーンの憤慨とロブのツッコミによって、その場は険悪な雰囲気になった。



 ◇ ◇ ◇


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