24.メグのお仕事~夜会バージョン
こんばんは、メグです。
わたしは今、とある伯爵さまが主催する夜会に来ています。もちろんアイリーンさまのお伴で侍女として、です。
アイリーンさまはこういう夜会に出席することで、貴族のご夫人たちへローズシリーズ化粧品の宣伝をしているんだそうで。
そりゃあ、あのおうつくしいご尊顔を見たら、『どこの化粧品を使っているの?』ってなるのも自然な流れだよね。
侍女の控室でも似たような話題が出ますからね。わたしも気を抜くわけにはいかないですよ。侍女たちのネットワークもバカにできません! アイリーンさまのお名前に傷をつけないよう神経使ってます。
ところでアイリーンさまは、今現在独身です。
本来、今日みたいな夜会に女性は一人参加ってしないんだって。介添え人と呼ばれる既婚女性が、社交界に初めて出る若い女性に付き添う場合もあるそうだけど。
アイリーンさまはそういうの必要ないんだって。
アイリーンさまのお立場だと、パートナーはよりどりみどりになるそうで。
今晩のパートナーは、アイリーンさまのお兄さまのお知り合い(の、ひとり)だとか……。
……とうとうメグは『パトロン』と『ツバメ』の意味を知ってしまいました!
気になったから一番聞きやすかったロブ副会長に聞いたの。教えてもらいました……。
遠い目になっちゃった……。
貴族って……、なんか、いかがわしい……!
いや、貴族に限った話ではないみたいだけど、おとなの世界だって思う。わたしにはどっちも縁がないな、うん。
◇
アイリーンさまが離婚してから、初めての夜会に出席するかどうか決めかねていたとき。さてパートナーはどうしましょうってぽつりと呟いたんだよね。
ちょうどそのときロブ副会長もいるときで。
「俺がパートナーを務めようか?」
と言ったけど、アイリーンさまはそれを却下した。
「離婚してから初めての夜会よ? もっとインパクトのある相手と出席したいのよね」
などと仰る。
たしかに、絵面としては麗しいアイリーンさまと愛らしい女顔のロブ副会長が並んでも、キレイなお花畑だね~ってだけでインパクトは弱いかなぁって思ったわ。あのバカヤローがドタキャンしたときの代役って、ほぼほぼロブ副会長だったらしいし。
思ったついでに、わたしはうっかり妙なことを口走ってしまったのよね。
「いっそのこと、タキシード姿で男装したレイさんがパートナーを務めれば話題騒然ですね」
ほんの冗談のつもりで言ったら、アイリーンさまってば『あら。いい案ね』と真に受けてしまって。
レイさんに執事服ではなく、盛装の白いタキシードを用意させて。
ついでに(?)アルバートさんに騎士服の盛装を用意させて。
「さぁ、レイ。アル。あなたたち、今晩はわたくしの『両手に花』をやりなさい」
と、ノリノリで夜会の会場に乗り込んでいってしまって。
レイさんもアルバートさんも黒髪の麗人と美丈夫なのですよ。
それが盛装して麗しさ倍増させた姿でアイリーンさまの両側に侍るのですよ!
両手に男装の麗人と美丈夫を従えたアイリーンさまは、それはそれはうつくしい金髪の女神さまとして降臨! ってなったのですよ。
もうね! 目に尊い画がね! うっかり拝んでしまったわたしは悪くないと思うの。
その日はそのままパーティジャックしたとかで。
それ以来、いろんな人をパートナーにしているアイリーンさま。
渋めのオジサマがお相手⁈ と思ったらお父上のカレイジャス侯爵閣下ご本人だったり。
(威風堂々とした、アイリーンさまと同じ瞳の色をしたオジサマでした)
超絶麗しい美丈夫さまが今晩のお相手⁈ と思ったら魔法騎士団の騎士団長さまでアイリーンさまのお兄さまの内緒の恋人だと紹介されて目が点になったり。
(『使用人心得』を脳内で何度か繰り返して平静を保ったよ)
なんとロブ副会長をドレスで着飾らせ(女装、とてもよく似合っていました)、ご自分は介添え人風に付き添って(「あらロビン、もっとおしとやかになさい」とか窘めて)出席したりと、やりたい放題。
ロブ副会長……わたしが思うにアイリーンさまに片思いしているんだよね……。
アイリーンさまにパートナーをお願いされたって嬉しそうなお顔してたのが、女装をいいつけられて笑顔のまま固まってたなぁ……それでも断らないロブ副会長。それってやっぱ愛だよね。
アイリーンさまも酷なことをなさる……。
ロブ副会長、強く生きて! ってわたしは毎日祈ってるよ!
どこの舞踏会でも夜会でも、アイリーンさまは時の人として話題をかっさらっている模様。
侍女控室でわたしも周りから質問攻めだったりするし。市場調査も兼ねているから気は抜けないよ!
◇
夜会帰りの馬車の中。動き出すまえのほんのちょっとの静寂の中で。
「アイリーンは離婚以来、なりふり構わなくなったな」
アルバートさんがぽつりと呟く。
「嘆かわしいと思う層が一定数おります」
レイさんがそれを受けて応える。
「そう。ありがたいことね。悪評も評判だもの。良くも悪くも耳目を集める。最初はそこからよ」
アイリーンさまはおふたりに応える。
わたしは馬車の中で三人がそんな風に話すのを、馭者席で馭者の隣に座りながら聞いていた。
やっぱりアルバートさんも貴族で、アイリーンさまを気軽に呼び捨てできる人で。
――このおふたりは、同じ世界の人なんだなぁと。
改めて再認識した。
アイリーンさまの隣に並んで立っても、ぜんぜん見劣りしないアルバートさん。その威風堂々としたお姿も、身長差もちょうどいいと思う。
本来、わたしが『アルバートさん』なんて気軽に呼んではいけない人なんだなぁって。
解っていたのに。
それでも。
心の片隅の奥まったところで、どこか気落ちしている自分がいた。
……内緒だけどね。
◇
夜会で侍女として帯同しているわたしは、どうしても正式に参加しているアイリーンさまたちと離れてしまう。(ちなみにアルバートさんは侍女控室にちょいちょい顔出しはしてくれるけど、侍従室と行ったり来たりだ)そんなわたしを心配したのか、レイさんが大きな翠色の宝石がついたペンダントをくれた。
宝石の色がまるでアイリーンさまの瞳の色みたいですごく嬉しかったんだけど、これ、魔導具だっていうからびっくりした。
わたしの平常時と違う心拍数が計測された時、連絡が入るように設定されているとかで。だから常に身に着けているようにって言われた。
その連絡先っていうのが、アルバートさんの右耳に着けているイヤーカフで、対になる石が仕込まれているのだとか。
つまり、わたしが暴漢に襲われたりなにか窮地に陥った場合、アルバートさんが駆け付ける手筈になっているのだとか。
さすがにそこまでして貰わなくてもと断ろうとしたら、人としてはアレだけど、基本、悪人ではないし勝手に奴のリハビリにメグを巻き込んですまないという身内からのお詫びというか願いというか、などと意味不明な言い訳をされた。
なんのこっちゃ?? と思ってたら、レイさんはアルバートさんの妹さんだと告白された。びっくりしたけど、そういえば同じ黒髪だ。
「へ?……じゃあ、レイさんも、貴族さまなの、ですか?」
恐る恐る尋ねたわたしに、レイさんは平然と答えてくれた。
「親はそうですね。私には継ぐものがないし独身なので、このままだと平民と同等です。ですが私はアイリーンさまの家令。それで充分です」
いつも無表情に近くて淡々としているけど、やっぱりレイさんってカッコいい。憧れる。
◇
わたしを始めとするポスター製作班が魂込めて作成したポスターの御披露目は、万国博覧会の初日、王太子ご夫妻が来場する日に決定した。
王太子殿下が万博の開会式に臨席し、開催宣言をするのだとか。開会式が終われば、その足で真っ先に我がローズロイズ商会のブースに立ち寄られるご予定なのだとか。
王太子ご夫妻の眼前でポスターをご披露する方がインパクトもあるし、それまでは布をかけて秘匿しましょうと決定した。
ところで、なぜに王太子ご夫妻が真っ先にローズロイズ商会のブースにいらっしゃるのかと聞いたら、なんとびっくり。王太子妃殿下はアイリーンさまのお従姉にあたる方なのだとか。
「なんと、それは……途轍もなく強力なコネですねぇ」
「そうでしょう。今のわたくしはコネでもなんでも使うわよ。王太子妃殿下、つまり将来の王妃殿下ですもの。使わない手はないわ。彼女に一度目を向けて貰う、それだけでいいのよ。話題になればいい。品質はどこにも負けないと自負しているわ」
アイリーンさまはそう言って、なんでもないことのように微笑む。
そうだよね。
いくら良い物を作っても誰にも知られないままじゃあどうにもならないもんね。
でもそんな超強力なコネがある分、プレッシャーもとんでもないものだろうなぁって思う。
それを見せずに堂々とするアイリーンさまは、やっぱりカッコいい。憧れる。




