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17.S級と新たな職場

 

 という訳で、エゼルウルフさまに送って貰ったのだけれど。


 おかしい。


 確かエゼルウルフさまは『馬車の手配をする』って言ってたよね?

 なのになんでわたしは馬の背に乗っているんでしょうかね? しかも二人乗りで。わたしの背後にはエゼルウルフさま。わたしを囲い込む様な姿勢で手綱を持っている。


 いったいどうしてこうなった?


 エゼルウルフさまに手を引かれて、連れていかれた場所には馬が一頭いて。あれ? 馬車は? と思っていたら、わたしの両方の腰をがっと手で掴んで(悲鳴をあげかけた)問答無用で身体を持ち上げられて(エゼルウルフさまってば怪力なんだね!)馬に横乗りさせられて。文句を言う間もなくわたしの後ろに乗るエゼルウルフさまがいて。


 近い近い、近いよっ! 距離が近いってば!


 馬で二人乗りって、あれだね、密接な関係なんだってアピールするには充分な距離になるよね。

 っていうか、わたしはエゼルウルフさまの背中側に乗るのでもいいんじゃないの? なんでこっち側なの⁈


「そりゃあ、大切なものは視界の中に収めたいからだろ?」


 言っている意味が解りませんっ!!

 んん? いやいや、あれですか。わたしが護衛対象者だからですか、そうですかそれなら納得です。万が一があったら大変だからですね、了解しました。


「それでだな、」

「え、ちょっと、耳元で囁かないでくださいよっ」


 手綱を握る関係かどうか知りませんがね、エゼルウルフさまの懐にすっぽりと抱え込まれているんですよ。彼の顔がすぐそばにあるのですよ。


「内緒の話だが……くすぐったい?」

「こそばゆいです。勘弁してください」


 こうも密着した状態なんですよ? 耳から首筋なんて、弱いに決まってるじゃないですか! 本当に勘弁してください。エゼルウルフさまはただでさえ、背筋がゾワゾワするようないい声なんだから。耳元で囁くなんて、あれですね、タラシの技ですね! そんなところまでS級なんですか。いやだ、フケツ。


「ふぅーん」

「ちょっ、わざと吐息を漏らしましたねっ厭らしいですよっ」


 ちょっとハンサムさんだからって、女の子がだれもかれも好きになると思って貰ったら困りますよ! 舐められてたまるかってもんですよ。それにわたしはもう恋なんてしないって決めてるからね! 男なんてこりごりなの!


「あははっ、わざとじゃない。悪かった」

「本気で悪いと思っているならいいですけど。……で? どんな内緒のお話ですか?」


 わたし、わりとまじめに訊いたのよ?

 なのに、エゼルウルフさまってば


「俺と恋人のフリ、しない?」

「……はあ?」


 そんなフザケタ提案をしやがるから、わたしは地の底から湧き上がるようなドスのきいた声を出してしまい。


「……こわっ、メグちゃん怖いわ」


 なぜか急に女言葉を使って怯えたフリなんてするから、思わず反論してしまい。


「人狼のくせに怖いはずないでしょぉ⁈」

「あ! なぜそれを⁈ 女将(おかみ)から聞いたのか?」

「さあ? 人狼はタラシだなんて、知ーりーまーせーんーしー」

「はあ? なんだそれ」


 なんて軽口の応酬になってしまい。

 ロイド邸までの道中を馬鹿な話で終始してしまったせいで、結果としては


「あなたたち、傍から見たらバカップル状態でしたよ」


 などと、無表情なレイさんから無情な評価をいただいてしまうのでした……。

 なんで?



 ◇



 翌日は朝から戦場だった。

 いや、本当に戦場にいたわけじゃなくて、わたしの心の中だけがって話。


 ローズロイズ商会の女性従業員の制服は、ロイド邸で支給されるメイド服と形が似ている。

 基本は濃い紺色のワンピースに、白い飾り襟と白い付け袖が目に眩しい。メイド服は足首までのスカートだけど、従業員制服はふくらはぎまでの丈。んで、一番の違いはエプロンを着けないってことかな。


 朝起きて初めて制服に袖をとおして、ちょっとワクワクしたんだけどね。


 引継ぎも兼ねてシェリーさんにくっついて回って思った。シェリーさんってば仕事量多いよっ! 

 っていうか、突き詰めればアイリーンさまの仕事量が多いせいだよね?

 朝起きたときの身の回りのお世話(寝起きのアイリーンさまの色っぽさにドキドキしちゃった)から始まって、場所を商会の会長執務室に移動してからがもう怒涛! お仕事関係の書類の受け渡し、アイリーンさまのスケジュールの調整、商品開発の進捗確認、商品の広報活動調整、そのほか諸々、やることがあとからあとから、これでもかと湧き出てくるんですけど!


 いやこれ、秘書仕事だけでもあと二人くらい必要なんじゃないの? と目を回していたらシェリーさんに笑われた。


「慣れればどうってことないわ」


 うん、血の涙が流れそう。優秀な人がいう『どうってことない』って凡人にはレベル高いと思いますよ?

 っていう今の会話をしている場所は秘書室。つまりシェリーさんの専用業務室。

 ここでシェリーさんには座って貰って(妊婦さんだからね!)、お茶の淹れ方を付きっ切りで指導して貰ってます。お茶の淹れ方、一応知識としてレイさんに習ったけどやっぱりまだまだだからね。


 わたしがげっそりとした表情を見せたせいか、シェリーさんはくすくす笑いが止まらないらしい。


「メグなら、やればできるわ」


 うーん。いい笑顔。その謎の信用が重いですー。


「そんなことよりも、アルバート卿と上手くいってる?」


 そんなことよりも? 業務より恋バナっすか? いっそ清々しいな!


「あら。お付き合いするんでしょ? するって聞いたわよ」


 シェリーさんが瞳をキラキラさせてきいてくる。誰ですか、そんな情報の早い人は。昨夜決定したばかりだというのに。


「だれから聞きました?」


「夫から」


 へ? さも当然、という顔のシェリーさん。あぁ、そうでした。シェリーさんは妊娠してた。つまり旦那さんがいるっていうことで。


「……夫? わたし、会ったことある人ですか?」


「会ってるわよ。アイリーンさまの執務室周りを担当している守衛さん、で分かる? 昨日も部屋にいたでしょ」


「え? あのいかつい人⁈ あのヴィーノさん⁈ あの人、シェリーさんの旦那さま⁈」


 今朝、挨拶したときにヴィーノさんって名前を教えて貰ったよ。短い名前は憶えやすくていいなぁって思ったもん。

 昨日はあのバカヤローをちゃんと確保してくれた人だよ。ちゃんと押さえてたけど、空気を読んであのバカヤローがプロポーズの姿勢を取るときには、奴を解放してあげた優しい人だよね。気は優しくて力持ちって感じの人。

 いかつい体格と強面のあの守衛さんは有能美人秘書シェリーさんの旦那さまかぁ。夫婦でアイリーンさまにお仕えしてたのですか。

 ん? 最初から夫婦でお仕えしたの? それとも職場内で結婚をしたの? どっちだ?

 そういえば昨日、『庶民は好きだから結婚する』って話してたとき、このふたりってば同じように頷いてくれてたっけ……。


「ふふ」


「なに? 思い出し笑いして」


「いいえ。いい夫婦だなぁって思っただけです」


 そういえば、食堂のおばさんたちも夫婦で同じような表情を同時にとってたなぁ。気が合うってこういうことで分かるんだね。


「私たちの話じゃないの。メグの話をしてたの」


 あー。逃れられませんか。シェリーさんの追求の瞳がわたしを追い詰める……。


「お付き合いっていうか……。恋人のフリ、を、します」




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