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ウティボヤの巫女  作者: 今宮 イブ
8/8

〈第8話〉計画

 白い顎髭と白い長髪が特徴的な男の一言でようやく始まった会議。席に座っている各々が厳粛に見守る中、離れた位置に座っていたスオウが前方に出る。


「では、まず私、スオウが手短に事態を説明致します。オズム長官」


「うむ。よろしく頼む」


 オズムと呼ばれた男は壇上を離れ、脇に移動する。すると、サグらが着いている中央テーブルの上に立体的なイレニルの映像が映し出された。


「これは、マラクの管理者、タルメカが記録したイレニルの映像になります。少々ショッキングかもしれませんが、どうか見ていただきたい」


 サグは映像を見ながら先ほど巫女から聞いた話を思い出す。青く輝いていたイレニルが徐々に暗雲に蝕まれ、イレニルの生命線とも言える5つのセーブコアの分離。あの時空を見上げても黒い天井しか見えなかったイレニルの外側ではこんなことになっていたとは。


 数分の映像が終わり、テーブル上に投影されていたイレニルがフッと消える。一方、場内ではどよめきの声が上がっていたが、その声を制するように、スオウが切り出す。


「以上、見ていただいた通り、イレニル系星における重要惑星、イレニルに危機が訪れています。このまま放っておけば、イレニルは消滅、さらには他の惑星にまで被害が出る可能性もあります」


「どういうことだ?」


 中央テーブルで一番スオウに近い場所に座っていた、朱色の髪をした男が口をはさむ。


「イレニルから分離したセーブコアは映像の通り、自らを中心として小惑星を形成しました。まだ詳しい調査は出来ていませんが、イレニル系星の平和を脅かす存在になる可能性は高いでしょう」


「そうか・・・。それで、俺たちにできる事はあるのか?」


 続けて男は質問をする。巫女やタルメカが敬語で話していたスオウに対してあの口調である。それなりに位の高い管理者なのだろうか。


「現状では何も・・・。しかし、ただ指を咥えて傍観しているわけにはいかないのです。そこで・・・・」  


 スオウはサグに視線を移し、一呼吸おいてから続けた。


「そこで、私はラケル・ミタリアにおける禁則を破り、イレニルの人間を、ここに連れて参りました」


「「「「・・・・・・・・」」」」


 その場にいた全員が黙り込んだ。サグにとって、この禁を破ることがどれほどのことなのかは分からなかった。しかし、先ほどリムンドが激昂していたのを思い出し、やはり相当な事なのだと察する。


「スオウよ、改めてこの場で説明してくれんか、このままではお主の立場も危うかろう」


 顎鬚を弄りながらオズムが言う。中央テーブルでは、巫女とタルメカ以外の全員がサグに視線を向けていた。唾も飲み込めないほどの重圧に、思わず吐きそうになる。


「スオウ様、私からもお願いします。なぜサグ・・・イレニルの人間をここに、禁則を破ってまで連れてきたのですか?」


 巫女からも声が上がるが、場は驚くほど静かだった。皆声に出さないだけで、視線でスオウを糾弾しているかのようだった。


「彼が、問題解決の切り札になると・・・確信したからです」


 ゆっくりと、しかしはっきりと彼は口にした。サグ本人が一番面食らっていたが、スオウは続ける。


「イレニルの問題は、イレニルの者にしか解決することが出来ない。そうでしょう?」


 一瞬怪訝な顔をするオズム。


「それはそうだが・・・そこの人間はあくまで人間。いくら次元上昇したとしても、星相手に何が出来るというのだ」


「それは、私も想像していなかったイレギュラーがあるからです」


 ニヤリ、と口角を誰にも分からないように上げ、ゆっくりと前に出るスオウ。その歩みの先には絶賛注目を浴びているサグがいた。他の管理者が黙って見守る中、スオウはサグの手を取り、一緒にゆっくりと元の場所へ戻っていく。


「・・・何のつもりだね」


「今から、希望をお見せします」


 そう言うと、動揺しているサグの腕を掴み、上に持ち上げる。そして、スオウに捕まれている手首を中心に光が灯った。


「こっ、これは!?」


「大丈夫、安心してください」


 サグは思わず声を上げるが、落ち着きはらった声音で返される。そして、手首から昇ってくる光に、サグは既視感を覚えた。それは、ここに来る前にタルメカにされた実験だった。同じことが行われているなら、次に起こることはー


 ―パァン!!とスオウによって掲げられた手から光が爆ぜる。そして、光が収まった後に手のひらに浮かんだ紋様。紋様の出現に場内は再び騒然としだす。


「スオウ、それは・・・」


 始めに口をはさんだ男が思わず漏らす。同じテーブルに着く他の面々も怪訝な顔をしたり眉をひそめるたりと反応を起こしていた。


「皆さんもご存じでしょう。これは、イレニルの印・・・クァの印です」


「それは分かりますが、なぜ彼の手に?」


 口をはさんだ男の隣に座っていた、長髪で水色の髪の女性が落ち着いた様子で口を開く。


「それは、私にも分かりません。しかし、ここに来る前、イレニルにいたクァを観測した時、クァの隣に、同種のエネルギーを感じたのです。これは何かの運命だと、私は感じました。詳しいことはいずれ調べますが、とにかく、これはイレニルの管理者が2人いるも同義なのです。ですので、彼を筆頭に此度の問題を解決する算段を立てるつもりです」


「なるほど・・・まぁ筋は通っているが、結局俺たちは何をすればいいんだ?何もすることがないとはいえ、我々もただ傍観しているだけという訳にはいかんだろう」


「確かに、アロンの言う通りです。しかし、先ほども申した通り、現状、静観しか出来ないでしょう」


「・・・そうか」


 アロンと呼ばれた朱色の髪の男は腕を組みなおし、椅子に深く座り直す。


「現状はそうですが、何かあれば、こちらの人間・・・サグ様やクァに最大限の協力をして欲しい」


「それくらいならお安い御用だ。もとより黙って見ている気はないからな。お前たちも、そうだろう?」


 アロンの問いに、他の管理者たちも頷いた。


「それはよかった。では、イレニル系星の管理者の合意も頂けたようですので、私からは以上とさせて頂きます」


 元々このためにわざわざ会議の場を設けたのか、スオウは用が済むやいなや踵を返し、さっさと出ていってしまった。あっけにとられていたオズムもふと我に返ったかのようにいそいそと閉会を言い渡し、傍聴者たちの不満そうな顔を残し、会議は終わった。


 程なくして、会議場の扉の外に出ると、スオウが一行を待ち構えていた。何か言おうかサグは一瞬考えたが、言葉を出すより早く、スオウは中央テーブルに座っていたイレニル系星の管理者全員を招集し、外に出た。


「では、これから作戦会議を始めたいと思いますので、新しく場所を確保しましょうか。ここでは部外者が多すぎますのでね」


「別にあの場でしても良かったんじゃないのか?そのための会議場だろう」


 腕組をしながらスオウを横目に言うアロン。全体的に髪と同じく朱色が目立つやや奇抜な見た目とは裏腹に、その口調は淡々としていて、重さを感じさせるとサグは感じた。


「それはそうですが、あのような視線に晒されて、落ち着いて会議などできませんよ」


 確かに、数百人いた会議場で視線を浴びながらこの数人で作戦会議をする光景は、想像しただけでもしんどくなる。


「では、どこに行くのですか?お言葉ですが、先ほどの会議場ではなくても他の開いている場所を使えばよかったのでは?」


 次に口を開いたのはアロンの隣に座っていた水色の髪の女性だった。巫女よりも一回り背が高く、少しうす暗い色のパーカーに、大きな輪が二つついたフードが特徴的で、凛とした雰囲気を纏っている。


「こう言っては何ですが、私のこだわりのようなものです。それに、こんな年期の入った建物は、私たちに似つかわしくない」


 年期の入った建物を一瞥し、視線を戻すスオウ。


「はぁ、分かった。あんたの好きにしてくれ。俺たちはあんたについて行くだけだ」


 観念したかの様に頭を振るアロン。そして、そのまま視線はサグへと向けられる。


「それで、そいつについてもう少し情報が欲しいんだが」


「もちろんです。しかしこんなところで立ち話もなんですし、まずは移動しましょう。自己紹介はそれからです」


 と、言い終わった途端、視界が真っ白に染まった。思わず目を閉じ、再び目を開けると、目の前にあったはずの会議場は消えていた。


「え・・・!?」


 驚嘆の声を上げるサグの目の前には、現代的な、四角形が連なった白を基調とした、研究所のような建物が鎮座していた。辺りは綺麗に整備されており、地面は芝生とタイルで構成され、建物の入り口に続く道には惑星を模したモニュメントが並んでいる。


「スオウ、転移を使うなら初めに言え。人間が驚くだろう」


「あぁ、そうでしたね。申し訳ございません、サグ様」


 アロンに注意され、サグに平謝りするスオウ。サグは、やたら畏まった態度に慣れず、普通に接してくれと頼むが、我等の希望にそんな態度は出来ない、とあっけなく却下されたのだった。


「それで、ここは一体なんの施設なんですか?」


 ポケットに手を突っ込みながら言う水色髪の女。見上げる視線の先に並んでいた建物のガラスは、辺りの景色を綺麗に反射していた。


「ここは、かなり前にアタシとスオウ様で造った研究所・・・でいいのかしら。普段はアタシがマラクを監視する為に使ってるんだけどね」


「えっ、あなたの研究所ってこれだったの?もっとボロっちぃのかと思ってたわ」


「失礼ね、ジャノス。一応スオウ様も建造に加わってるんですけど?」


「別に他意はないわよ。あなたの根城がどんな風になってるのか見たことなかったから、勝手に巨大で朽ちたお城みたいなイメージをしてたの」


「アンタの私のイメージどうなってんのよ・・・」


 タルメカの趣味とは正反対のイメージに思わず頭を抱える。むしろ古風とはかけ離れた外観で、タルメカの趣味を窺える。


「まぁ、外観などはタルメカに一任していましたのでね。今度新しく造るときは、お城の様にしても良いかもしれませんね」


「真に受けないでいいですよスオウ様、ジャノスはセンスがないので」


「はぁ!?こんな無機質な外観のどこがいいのよ!こんな生気を感じない建物ゴメンよ」


「アンタはあの会議場みたいな年期の入った建物が好きだものね。まぁ、これを機に好きになんなさい」


「うぅ・・・今すぐ作り変えてやりたい・・・」


 心底悔しそうな顔をして落胆するジャノス。ちなみに、ジャノスが普段暮らしている家はお城ではないのだが、レンガ造りで重厚感のある家なのであった。


「お前らの趣味はどうでもいい。タルメカでもスオウでもいいから、早く案内してくれ」


「はーいはい、じゃあいくわよ」


 いい加減立ちっぱなしにも飽きたのか、案内を催促するアロン。ここの家主でもあるタルメカが先導し、中へと入る。


 内部はかなり広く、ロビーに受付カウンター等が備え付けられていた。それから枝分かれした通路を通り、少し開けた部屋へと通される。


「ここでいいかしら。普段来客なんてないし、それに適した部屋もないんだけど」


「椅子と机があれば事足りるだろう。これで十分だ」


 アロンが頷き、細長い机を複数並べて囲ったような状態で各々は席に着く。


「えーと、それで・・・作戦会議って言いましても、具体的に何をするんですか・・・?」


 基本的に一堂に会することはない管理者たちが自分の研究所のテーブルを囲っていることに謎の興奮を覚えながらも発案者に尋ねる。


「そうですね・・・。ではまず、サグ様の為に、各々自己紹介でもしていただきましょうか」


 相変わらずどこかマイペースなスオウ。しかし、事実ここで顔を並べている人物のことをほとんど知らない為、サグにとってもありがたい提案ではあった。


「分かった。では、まずは俺からしよう」


 腕を組みながらアロンが先陣を切る。


「俺は、イレニル系星における恒星、ヘスシアの管理をしている。アロンだ。以後、よろしく頼む。イレニルの人間」


「サグ様、と呼んでくださいね、アロン」


「よ、よろしくお願いします。あの、様はほんとに付けなくていいですから」


 スオウの要求を慌てて却下するサグ。やや残念そうな顔をするスオウを横目に、付けないから安心しろ、とアロンは付け加えたのだった。


「じゃあ、アタシらも一応改めて自己紹介しますかね。アタシはタルメカ、イレニル系星、第3惑星のマラクの管理者よ」


「私は第2惑星のイレニルの管理者、クァ。改めてよろしくねサグ」


「よろしく・・・。そういえば、クァって名前は本名なの?ずっと気にはなってたんだけど・・・」


「あぁ、ごめんなさい。言ってなかったわね。そう、あっちでは巫女と呼ばれてるけど、ここでの名前はクァなの。まぁ、巫女でもクァでも好きに呼んでくれて構わないから」


 とは言われたものの、先ほど巫女と呼ぶと本人に伝えた手前、今更呼び方を変えるのも嫌だったので巫女呼びを継続することにしたのだった。


「私は第5惑星、サロノスの管理をしてる、ジャノスよ。惑星の周りに2つの輪っかが交差してるのが特徴ね。見たことあるかしら?」


「本で見たことあります。確か、イレニルの何倍も大きいんでしたっけ」


「そう、まぁ大きいだけなんだけどね。特に面白みもない惑星よ」


 適当な自己紹介が続いていくが、後の2人は相変わらず黙ったままだった。


「ほーら、アンタたちもさっさと自己紹介しなさいよ、いつまでも黙ってないで」


 タルメカに言われ最初に口を開いたのは紺色の髪をした青年だった。その髪色をさらに暗くした色のローブを羽織っており、所々に金色の意匠が施されている。


「お、俺はアガト。第1惑星の・・・コトュルを管理してる。・・・よろしく」


 パッと見て、サグと同じくらいの年齢の見た目の青年は覇気のこもっていない弱弱しい声音で簡潔に言った。


「アガトはいつもあんな感じだから、気にしないでね。根はいい奴だから」


 タルメカから補足が入る。まぁ、少なくとも悪い人ではないんだろうな、と思った。


 そして目線は残った青年に向けられる。深緑色でオールバックの髪型をしたリムンドだった。会議場で出会った時の感じはなく、どこか不服そうな顔をしていた。


「もしかして、まだ人間がここにいる事に反感を抱いているの?」


「・・・そうだ。けど・・・別に誰が悪いってわけじゃないのは分かってる。お前が管理してたイレニル大変なことになって、どうしようもないってことは分かってるけど、ずっと守られてきた掟を、よりによってスオウ様が破るなんてよ・・・」


 その落胆の色を隠せない表情を見て、スオウも口を開く。


「確かに・・・その点については、皆の理解を完全に得られるものではないと分かっています。少々強引で、見切り発車だったかもしれません。しかし、信じて欲しい。この計画は、サグ様なしでは、成し得ないのだという事を」


「・・・そんなに重要なのか?確かに、印が出現した時は驚いたけど・・・いくらなんでも・・・」


「リムンド・・・私を信じて欲しい。形はどうあれ、あなたの信頼を裏切ってしまった事実は覆りませんが、どうかもう一度、私を・・・信じて欲しい」


 向かいあった2人は沈黙する。そして、少しの静寂の後、リムンドは口を開いた。


「・・・わかった。信じる。そして、サグ・・・だったか?お前のことも一応信じてやる。だからスオウ様に恥をかかせるんじゃねぇぞ」


 やや上から目線だが、ようやく合意を得られ一同はほっとするのであった。


「あー・・・自己紹介だな。俺はリムンド、第4惑星ウピトーの管理者だ。よろしくな」


「よろしくお願いします、リムンドさん」

  

「さんもそんな畏まったしゃべり方もしなくていい。お前はスオウ様の作戦の要なんだろ?堂々としてりゃいいんだよ」


「わ、分かりま・・・分かったよ。よろしく・・・」


 さすがにメンツがメンツなだけあってすぐにとはいかないが、期待を背負う覚悟をさせられた感覚に内心ビクビクしながらも気丈に振る舞う努力をしようと決意するのだった。


「ふふっ、リムンドも調子が戻ってきたわね。相変わらず分かりやすいんだから」


 と、隣でクスクスと2人は笑っていた。


「では、最後に私の自己紹介をば・・・。サグ様には既に軽く紹介しましたが、改めて今一度。私は、このイレニル系星を統括管理しております、スオウと申します。これからはイレニル救出計画の代表として、よろしくお願いいたします」


「また安直な計画名だな」


「細かいことはいいんですよ、アロン」


「よ、よろしくお願いします。スオウさん・・・!」


 固い握手をし、一同を見る。皆、それぞれ真剣な眼差しをしていた。


「では、自己紹介も終わったことですし、さっそく本題に入りましょう」


 一呼吸おいて、細目の男は続けた。


「まずサグ様には、イレニルのセーブコアたちが生み出した小惑星に、直接乗り込んでいただきます」

 


 



初投稿です!もしよければ感想などもらえると励みになります!


文章がまとまらなくて苦労しますね・・・

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