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林檎のロロさん  作者: Tada
85/151

85個目

ブクマ・評価・いいね、ありがとうございます。


※久々のガルネルと、王都の続きです。時間が重なりました。



「こんにちは。お疲れ様、ロロさん」 


 ロロがアトウッドの屋敷からギルドに戻ると、案内人のジョンが立っていた。


「こんにちは、ジョンさん」


 昨日もD級冒険者のジョンとジャックが案内人だった。ギルドとしては有り難いだろう。午前中はジャックだったので、午後五時まではジョンだ。それ以降はまたジャックもしくは他の誰かがこの大扉の前に立つ。


「案内人を引き受けるようになったのは、どうして?」

「え?」

「え?」


 あらやだ、声に出ちゃってた。


「ごめん、ジョンさん。私、考えてることうっかり声に出ちゃうんだ」

「‥‥‥」

「で、どうして?」

「ぷっ」


 ジョンが吹き出して笑った。

 冒険者登録して一年弱。ロロとは挨拶をしたのが昨日が初めてで、会話をしたことがなかったのだが、イメージと随分違っていた。


「ゲイトさんにダンジョンで会った時、S級冒険者なのに案内人を受けるのはなぜですか?って聞いたんだ」

「あ、この前初めてダンジョンに行った時?」

「え?なんで知ってるの?」


 この前近くにいたからと言うと、「え?いた?」と驚いていた。ロロはあの時アフロだったので、ジョンたちは気付いていなかったようだ。


「案内人を受けるのは、初心を忘れないため、冒険者ギルド【紅玉(ルビー)】にはS級がいるとガルネルの街の人を安心させるため、それから先代に恩があるからって」

「カッコイイ!」 

「うん、カッコイイって思ったんだ」


 キラキラしている。若い冒険者が楽しそうにしている姿は、微笑ましかった。


「俺もジャックも、ゲイトさんと同じ事がしてみたかった。でも、もうそれだけじゃないよ。またダンジョンに行くけど、案内人を引き受けて良かったと思ってる。話したこともない人と交流もできるしね」


 ジョンは、こんなに簡単にロロと話せると思わなかった。どんな少女なのか知りたくても、話しかけていいのか、わからなかった。特に副代表がいる時はゾクッとするのだ。


「ジョンさん。若いうちにいろいろ経験するのは良いことだよ。ある時その経験が自分の強みになるかもしれない。冒険者だけじゃなく、街の人との交流も忘れないでね。ゲイトさんやベテランの冒険者の人たちは、こうやって会話をしながらも、耳を澄まして、周りを見ていたよ」

「‥‥‥ロロさん」

「ん?」 

「‥‥‥本当に、十五歳?」 

「‥‥‥」


 中身を疑われてしまった。そろそろ消えよう。


「では、私はこれにて」 

「あ、はい!ありがとうございました!」


 なんで敬語?




 大扉を開けてもらうと、受付カウンターのリリィが、パッと笑顔になった。可愛いな。


「お帰りなさいませ、ごしゅ‥‥‥ロロさん」


 今、絶対ご主人様って言おうとした。


「リリィさん、依頼の薬草採取しましたので、買い取りをお願いします」

「お疲れ様です!これで、依頼達成ですかぁ?」


 明日、依頼人のアルビー・アトウッドが来る予定だと言った。依頼内容変更の手続きをするはずだから、と。


「今日の分の薬草採取ってことで、記録をしておいてもらいたいの」


 了解!とリリィがファイルを出してロロの依頼に書き込んでいた。速筆にも程があるほど書くのが速い。

 ロロは魔法鞄から、回復草・毒消し草を各二十本ずつ出した。あれ、こんなに立派な薬草だったっけ?


「これは‥‥‥かなり良いものですねぇ」

「そうだよねぇ」


 薬草は、知識と資格を持ったギルド職員が査定する。薬草でもレアなものは鑑定士が必要になることもある。リリィはダンジョン経験が多いので、知識は勿論、資格もすぐに取得した。


「上・回復草が銀貨五枚、上・毒消し草が銀貨六枚、ですかねぇ。ロロさん、『上』ですよぅ」

「あれぇ‥‥‥」


 予想の倍以上の買い取りだった。ギルドに売るのも良いけど、生活のためを考えるなら、アルビーは薬屋に売りに行った方が良さそうな気がする。彼の父親が行っていた薬屋は、どこなのだろう。


「ふふ、ロロさんが考えてること、わかりますよぅ」


 ギルドも上質な薬草は欲しいだろう。どちらにも、上手く売ってもらえばいい話だ。


「このまま、ロロさんの報酬になりまぁす」

「‥‥‥ありがとう」


 久々の収入で嬉しいはずが、これは貰い過ぎだった。合わせて金貨一枚と銀貨一枚。そのまま預け入れて、ギルドカードを受け取った。

 採取方法はまた考えるとして、カイたちに報告しなければならないので、リリィに代表室へ行くと言った。




「つまり、薬草採取は無期限ではなく定期的にして、草むしりも依頼になるんだな?」


 カイが書類にサインをしていた手を止めて、ロロに確認した。


「それで様子がみたいって、アルビーさんと母親のエラさんに言ったの。明日、アルビーさんが変更手続きに来るよ。草むしりくらいしないと、薬草が高額だったから逆に申し訳ない」


 それから、庭園の薬草採取、香草・イチゴや野菜の収穫は、アトウッド人間であることと、庭に許可をもらわないとロロには出来なかったことを報告した。アルビーもエラも、庭園がそんな事になっているとは知らなかった。


「それが、亡くなったご主人の魔法なんだね?」


 紅茶を運んできたマルコは貴公子をやめて、紺色のノーカラーシャツに着替えていた。さすがに貴公子でギルド内を歩いたり出来なかった。ロロの視線が痛い。胸が痛い。


「うぅ、ロロちゃん‥‥‥許して」

「むぅ」

「それで、薬草は『上』だったか」

「『上』に()()()()()()んだと思う」

 

 マルコの紅茶を飲んで、ロロはふぅっと息を吐いた。扉の魔法道具は有効かを聞くと、マルコは問題ないよと答えて、給湯室へ行った。


「重要なことか?」


 ロロが頷くと、カイが立ち上がってロロの隣に座った。マルコが戻り、カイと自分の紅茶を持ってきた。マルコが向かいのソファーに座ったタイミングで、ロロは話し始めた。


「アルビーさんに庭を案内してもらって、お屋敷に戻ろうとしたの」


 石畳を歩いて屋敷を一周したところで、石板があることに気がついた。門や玄関からは見えない屋敷と草に隠れるような場所だった。近付くと、ここに来るまで見なかった香草セージの中に、四角い石板があり、文字が彫られていた。セージ・アトウッド自身が彫ったものだ。息子のアルビーは、暗号か他国語みたいで全然読めないと言った。


「でも、私には読めた」



 セイジ・サトウ

 二〇〇五.七.七 ニホンからガルネルに



「『ニホン』って‥‥‥」

「ロロの前世の国の名前か!」

「私は転生者だけど、セイジさんは違う。ニホンから転移して来てしまった、異世界転移者だと思う。子供の頃に、この世界に迷い込んだの」


 食事会の時に言ったこと覚えてる?とロロが二人に言った。日本人の髪と瞳の色の話だ。


「黒い瞳だった‥‥‥?」

「だとしたら、この世界に来て、辛い思いをしただろうな」 


 本人が死んでいることで、もうどうにもならない悔しさがあった。

 ロロはきっと、会ってみたかったはずだ。だが、前世を思い出したのは、彼が死んだ後だった。


「彼が異世界から来た人間と知った後での、あの言葉は、重みが違うな」



『ガルネルに自分が居たことを残したい』



「カイさん、マルコさん。アルビーさんを、このギルドに迎えて欲しい。初めはどんな形でもいいから」

「‥‥‥ロロちゃん」

「彼は、この世界と異世界人の血を受け継いだ、特別な人だから」

「「‥‥‥!」」


 本来なら有り得ない存在、アルビー・アトウッド。


「保護が、必要なんだな?」

「真面目だけど、話すのが苦手で、騙されやすく信じやすい人だって言ってたね」


 いつまでも母親は一緒にいない。アルビーが独りになってからでは、遅い。生きていくために、ギルドが支えになれるように。


 ロロはショックを受けているはずなのに、そこまで考えていて、カイもマルコも情けなくなった。二人が項垂れているのを見て、ロロは苦笑いした。


「明後日、薬草採取した部分の土の確認をして、草むしりしてくる。アルビーさん、ギルドの皆にイチゴをくれるって言ってたよ」


 カイがロロの頭を優しく撫でた。


「ロロ、お前がこの仕事を引き受けてくれて良かった。ありがとう。それから、頼むな」

「はい」


 それから、ローズマリーの鉢植えが大きくなり過ぎて、切って乾燥させたいので、ランスの作業場を借りることにしたと言った。


「聞いてるよ、ランスから。鉢植えは魔法鞄に入らないほど大きいんだってね。明日の朝、ランスが‥‥‥ランスが、ロロちゃんの部屋から運んで行ってあげるって」


 血を吐くようにマルコが言った。カイは黙っている。二人とも脱・過保護のつもりで、耐えていた。


「え?大丈夫だよ。自分で運べるし」

「「は?」」

「紐で縛っておんぶして運ぶよ」

「待て待て。みっともないからランスに運ばせろ」

「可愛い女の子なんだから、ムキムキ男に任せなさい」

「セクハラです」

「「えええっ?何でっ?」」


 結局ロロが折れて、ランスに頼むことにした。


「むぅ、運べるのに‥‥‥」

「お前が逞しいのはわかった」

「セクハラです」

「マルコ、助けてくれ、話が通じない」

「紅茶のゼリーがあるけど食べる?ロロちゃん」

「いただきます」


 この世界にも寒天があるらしく、フルーツのゼリーはよくあるが、マルコが紅茶のゼリーを作った。


「はい、どうぞ」

「わぁ!」


 カクテルグラスに入った紅茶のゼリー。

 なんてキレイな紅茶の色なんだろう。フルフルした宝石みたいで、食べるのが勿体ない!


「だが、食べます。んんん、うんまい!」


 だが、って何だ?と思いながらも機嫌が良くなったロロに、カイはホッとした。

 マルコは紅茶のゼリーを美味しそうに食べるロロを微笑ましく見ているうちに、大きい鉢植えをおんぶする姿が今になってジワジワきて、下を向いてしばらく震えていた。

 ロロは、カクテルグラスのフルフル紅茶ゼリーの向こうのフルフルマルコを見逃さなかった。




 * * * * * * * * * * * 




 明日の朝、早く出ることも考えてソファーで仮眠をとっていたゲイトは、気配で目が覚めた。窓の外はもう日が傾いていた。乱れた銀灰色の髪を掻き上げる。

 扉の方まで行ってノックの前に開けたので、宿の主人が目を丸くしていた。


「悪い、驚かせたか」

「いえ、お客様をお連れしました」

「‥‥‥ゲイトさん」

「よく来たな」


 中に入るように言うと、黒髪の美しい鑑定士が「失礼します」と言った。


 宿の主人に、あの二人はどうしたか聞いた。


「お発ちになりました。ゲイト様にお礼をおっしゃっておりました」

「そうか、世話になったな」

「いえ、それでは失礼致します」


 扉を閉めると、側で待っていたユルにソファーに座るように言った。


「おい、冷茶でいいか?」

「‥‥‥それなら私が」

「いいから、座ってろ」

「‥‥‥ふふ、わかりました」


 食品収納庫からグラス入りの冷茶を出すと、ローテーブルにあったコースターの上に置いた。


「‥‥‥ありがとうございます」

「宿の主人になんと言って来た?」

「‥‥‥ちゃんとギルドカードを見せて【紅玉(ルビー)】の鑑定士ユルだと言いましたよ。後は‥‥‥そうですね。カーティス家の三男です、と」

「へえ」


 ゲイトの部屋へは、約束があるか、身元がしっかりしていないと案内されない。

 それにしても、来るとしたら暗い顔かと思っていたが、余裕すら出ている。


「俺は、美人が来るとしか言わなかったからな。良かった」

「‥‥‥ええ、良かったです」


 面白いな。数日会わない間に、化けたか。


「ここまで一人で来たのか?」

「‥‥‥途中までは、母と。果実酒の店を教えてもらいました。おみやげにしようと購入して、そこで母は帰りました」

「そうか。‥‥‥全て聞いたか?」

「‥‥‥はい」


 ほんの少し、青碧の瞳が揺れた。だが悲痛なものはない。


「どうしたい?」

「‥‥‥勿論、確認します」

「色街だが、大丈夫か?」

「‥‥‥初めて行きます。あ、あの、顔を見るだけですよね?」

「ははっ」


 少し動揺するところは変わっていなくて、ゲイトは満足した。ジョセフといいユルといい、成長するのは嬉しいが、人間くさい部分はそのまま残っていて欲しいものだ。


「店の下男に話をする。女が出てきたら、お前は隠れて確認さえしてくれればいい」


 金を握らせるのだろう。それが一番手っ取り早いことはユルにもわかったので、頷いた。


「それから『シューター』の存在は、マルコから聞いたか?」

「‥‥‥はい」


 メイジー・カートンの件よりも、不安そうな顔をした。ゲイトは苦笑いで、そんな顔するなと言った。


「詳しいことはまた話すが、シューターと友人のフレディは、昼過ぎまでこの宿にいた」


 ユルは目を見開いた。先程の、ゲイトが店の主人と話していたことを思い出した。


「数日、自分で稼いでガルネルの滞在費と手みやげを買うそうだ。第五騎士団の団長ジルニール・ウォーカーと一緒に、ロロに会いに来る。会いたいと言った」

「‥‥‥!」


 シューターは、この部屋で、ユルが今座っているソファーで、昨日【紅玉(ルビー)】のアップルパイを食べた。実は甘い物が大好きだと言った。ユルの視界が滲む。


「驚けよ、あいつな‥‥‥」



『んんん!うんまい!』



「‥‥‥ああ」


 顔を両手で覆い、ユルは泣いた。

 ユルが落ち着くまで、ゲイトは黙って待ってくれた。

読んでいただきありがとうございます。



『古書店の猫は本を読むらしい。』も、スローペースで連載中です。こちらもどうぞよろしくお願い致します。


https://ncode.syosetu.com/n5529hp/

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