8個目
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※ユル視点です。
眼鏡は、自分を守るためのアイテムだ。
鑑定士は、緑色の鑑定眼を持つ者が最も優秀であると伝えられている。
ユルの青碧の瞳は、父の緑色・母の翡翠色からだけではなく、母方の祖父の青色が多く出て、親戚からは、大成はしないだろうと言われた。二人の兄は両親と同色なのに、かわいそうに、と。
父も母も兄たちも、気にするなと言ってくれた。
美しい瞳で、羨ましいとも。
青い瞳は器用な魔力を使う者が多く、ユルは成長していくと家族の中でも誰より細かく正確な鑑定ができた。
ただ、鑑定眼の魔力量が少なかった。
仕事のために、日々の魔力を抑えるための眼鏡を、魔法道具職人である母方の祖父に作ってもらった。
王都で鑑定士をしている両親は、貴族・商人・平民の仕事も受けたが、兄たちは気の合った貴族・商人と契約し、安定した収入を得て縁談の話も多かった。能力が高い鑑定士ほど、人を見ることにも優れているため、結婚も仕事相手にも失敗することがあまりない。
ユルは兄弟の中でも飛び抜けて見目が良く、貴族の令嬢から気まぐれで専属の話が何度か来たが、求めることが能力ではなく側に置きたいだけと分かっていたから、断っていた。面倒だった。
十七歳の時に、断ったことが生意気だと、口下手なのも災いして、子爵令嬢の父親に殴られた。
眼鏡が壊れたこともあったが、言い寄ってくる人間に疲れていたユルは、黒髪を邪魔なくらい伸ばして顔を隠し始めた。
両親からの勧めで、しばらく祖父のところへ行くことになった。
王都より北東に馬車で一日、ガルネルに住む祖父ケルンは、喜んで孫を受け入れた。弟子も冒険者ギルドの魔法道具職人を継いだので、引退したのだと言う。壊れた眼鏡をすぐに修理してくれた。祖父の青い瞳が、ユルの心に安らぎをくれた。
十八歳になり環境に慣れてきた頃、祖父の弟子のトム・メンデスが、冒険者ギルドに来てみないかと話をくれた。
鑑定の仕事は祖父の知り合いの頼まれ事しかしていなかったし、時間を持て余していた。何より、祖父が働いていた場所も見てみたかった。
冒険者ギルド【紅玉】の代表に会った。ユルにはない色の、激しく真っ直ぐな深紅の瞳が、とても衝撃的だった。
自分の鑑定人としてのスキルを正直に話せば、瞳が緑色じゃなくても、鑑定眼の魔力量が少なくても、受けた依頼を丁寧に仕事してくれる人に来てほしい、と言ってくれた。
嬉しかった。
帰って祖父に話し、両親に手紙を出して、ギルドで鑑定士として働きたいと伝えた。すると両親が王都から飛んできて、泣いて喜んでくれた。とても心配をかけていたことに気がついた。
ギルドで働く初日。祖父が身だしなみが大事だと、着る服は白襟シャツと濃灰のジャケットに黒のスラックスと革靴、それから髪型を七三分けにされた。
代表と副代表に挨拶に行くと、二人とも会うなり下を向いて震えていたが、どうしたのだろう。
ギルド内でよく見かける子供は、少年だと思っていたが少女だった。記憶がなく、代表が保護しているのだと聞いた。
時折、こちらを見る少女のキラキラと熱を帯びた瞳に気付いていたが、王都の貴族の女たちに感じた不快感がなかったのは、青い瞳だからだろうか。
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