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林檎のロロさん  作者: Tada
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75個目

ブクマ・評価・いいね、ありがとうございます。



 大会議室へ行く前に、ランスはマルコの着替えを待ってから、二人に話をした。


「ロロちゃんの仕事の依頼先だけど、アタシ、四ヶ月前に依頼を受けて、三ヶ月前に棺を届けたわ」


 カイとマルコが目を大きく見開いた。

 今はイーステニア国内のギルドやダンジョンからの依頼で棺を作って届けるランス。最近は定期的に寄った際に、受付から依頼があったら届けるくらいだ。


「なぜランスに?」

「何か聞いてないか?」

「聖水を購入するために、馴染みの薬屋へ行ったら、そこの店主を通して依頼を受けたの。アトウッド家には、約束の一ヶ月後に棺を届けただけだから、それしか知らないわ」

「薬屋は、薬草のことで取引してたのかな。死ぬことがわかっていて、本人が依頼した?」


 密葬だろうか。神父と家族だけで静かに。


 アトウッドの家の事情と、ロロの薬草採取の依頼には関係ない。今のところは。


「ランス、ロロちゃんには?」

「まだ‥‥‥言ってないわ」

「ロロには、俺たちと同様に話してくれ」

「わかったわ。‥‥‥それから、さっきパン屋さんのベンチで、アタシ自身のことでロロちゃんに話してないことがあると言ったわ。そうしたら、ロロちゃんもあるから、一緒に話そうって」


 カイとマルコが顔を見合わせた。


「あいつ、職人好きだよな」

「ランスのくせに」

「え?ちょっと?」

「随分、仲良しだよな」

「ランスのくせに」

「‥‥‥」


 年上の新入りに、二人は嫉妬した。




 * * * * * * * * * * *




 ロロがアトウッドの屋敷に着いたのが、午前十時を過ぎた頃だった。時計がないロロは、玄関ホールの柱時計で確認していた。


「あ、あの、先に母が挨拶したいと」


 アルビーは、ロロが先日と髪型と服装が違ったので、最初はポカンとしていた。夜と朝でも印象が変わる。涼し気な露草色の瞳を見て、同じ人だとわかった。砂色の上下を着た少女は、ちゃんと仕事に来たのだと言っているようで、アルビーは少女に好感を持った。


「わかりました」


 長い廊下は、先日の夜と違い明るかった。カーペットも装飾もない足音が響く廊下は華やかさはないが、質素に暮らしていることが窺える。

 一昨日と同じ魔部屋に入ると、深緑色のドレスワンピースを着たエラがソファーに座っていた。


「まぁ、おはよう、ロロさん」

「おはようございます」

「その髪型とてもステキね。可愛いわぁ。何か必要なものはあるかしら?」

「ありがとうございます。必要なものは‥‥‥まだ何とも」

「うふふ、遠慮なく言ってねー」

「はい。ではさっそくお庭を拝見します」

「ロロさん、ここでは楽に話していいわよー」

「そ、そうだね。ロロさん、そうしてくれるかい?」


 うふふふ、ははは、と笑うエラとアルビーに、ロロはニコッと笑った。


「良かった!エラさん、お庭見せてね」

「「えええ?すっごい変わり方!」」


 素直に聞き入れ過ぎたロロの話し方に親子は衝撃を受けたが、まぁいいか、となった。




「アルビーさんも、一緒に来てくれるの?」

「い、行くよ。ロロさん迷子にならない?」


 そこまで子供じゃない。だが、永遠の庭園(仮)は謎が多いので、最初は居てもらえると助かるかもしれない。

 アルビーも動きやすいシャツと茶色のワークパンツに着替えて来た。


「アルビーさん。場合によっては、依頼内容の変更は可能?」

「え、ど、どうして?」


 少し不安そうな顔になってしまった。


「正直に言うね。もし、アルビーさんのお父さんが作ったこのお庭が『永遠の庭園』なのだとしたら、私が薬草採取しても元通りになるかもしれないよね?‥‥‥期限のない薬草採取の依頼。永遠に無くならない薬草。それではお互いに困るでしょう?そして更に雑草が多い。草むしりもしたいけど、依頼にはないから出来ない」

「な、なるほど、それはそうだね」

「永遠に草むしり‥‥‥は、ないと思いたいけど」

「も、もうそれだと、庭園の嫌がらせでしかないよ」

 

 顔を顰めるアルビーは、父がしたことが理解できないのだろう。ロロも今のところは、理解できない。


 玄関から門までのアプローチを歩いた。両側に花壇がある。ここには比較的に安価な回復草・毒消し草があり、香草もあった。しかし、殆どが雑草。他に何かを植えようとしていたのだろうか。


「雑草をなくしたら、門からお屋敷とお庭がキレイに見えるように、手入れが楽な香草や花で彩るといいと思う。エラさんは香草でお茶を飲んだり、お花が好きだったりする?」

「あ、玄関近くの香草ならよく採ってるよ。は、花は、摘んでいるのを見たことは、ないかな」


 エラに聞いてみてから考えた方が良さそうだ。ここは、草むしりをメインにすることにした。


 次に、門から庭をぐるっと囲むようにある、石畳を歩いてみた。煉瓦の壁の内側は日当たりがそこそこだ。


「あ、イチゴ!」


 ランナーが伸びて、子株がどんどん増えていっているようだが、やはり雑草が多い。ここの依頼、ほぼ草むしりにしたほうがいいのでは、と思った。


「あ、ロ、ロロさんもイチゴは好きかい?ボクも母も、ここでイチゴを摘んで毎日食べてる。一年中出来るんだ」


 妻と息子のためにイチゴ畑にしたようだ。一年中好きな時にイチゴ狩り。このイチゴ、形も良いし、蟻など虫食いもない。大体、一般家庭の無対策のイチゴは美味しいものは蟻に先に食べられてしまう。楽しみにしていたら穴が空いていて、蟻さんたちの「お先です〜」にガッカリするのだ。ここは、魔法がかけられている可能性があった。

 それにしても美味しそうだ。アルビーは、ロロの目が食べたそうにしているのに気がついた。


「あの、食べてみるかい?」

「はい」


 すぐに返事をしたので、アルビーはふっと笑った。ロロは手前のイチゴを手にとってみた。どれも大粒で、真っ赤だ。ところが、摘もうとしても、茎が硬すぎる。手を離して首を傾げていると、どうしたんだい?と、アルビーがそのイチゴをプチっと簡単に摘んだ。


「‥‥‥」

「あっ!ご、ごめん!摘みたかった?」


 だから、そこまで子供じゃない。摘んでもらったイチゴをヘタを取ってパクッと食べた。


「うんまい!」

「よ、良かった」


 へにゃっと美味しそうに食べるロロに、アルビーはホッとした。それにしても可愛い顔して食べるなぁと、じっと見ていた。


「あの、もう一つ食べるかい?」 

「うん、試したいことがあるので、お願いします」

「?」


 ロロはまた近くのイチゴを摘もうとしたが、また茎が折れない。


「えー、アトウッドさん、アトウッドさん、イチゴを一つくださいな」

「ど、どうぞ? どうしたの?」

「実験」


 再び同じイチゴを摘もうとしたら、今度はプチッと茎が簡単に折れてとれた。


「てぇへんだ‥‥‥」

「え?な、なに?何か変なの?」

「大変だ。お庭にお願いしないと、薬草採取が出来ないかもしれない」


 アルビーが、目を見開いて固まっていた。

 ロロは、その間にイチゴをもぐもぐ食べた。食べながら考えた。高級なイチゴのように、甘くて美味しい。これは、アトウッド家のイチゴ。許可をもらわないと、アトウッドの人間にしか収穫出来ない。


「ボ、ボクはイチゴは好きだけど、他には興味がなくて。母は食事を作っているから、ほぼ毎日野菜の収穫をしているよ」

「とりあえず、この先に行こう、アルビーさん」


 煉瓦の壁側はずっと、囲むようにイチゴ畑だった。息子の好きなイチゴをこんなに。


「確かに偏っているけど、これだけは、愛情を感じる。私だけかな?」

「‥‥‥」


 中側に家庭菜園がある。やはり雑草も生えている。完熟のトマト・ミニトマト、きゅうり、サニーレタス。サラダやサンドイッチが出来そうな野菜ばかりだ。


「エラさん、サンドイッチよく作る?」

「えっ?う、うん、作るよ。ハムは中央区の【ローラン精肉店】で買うよ」

「モリーさんのお店だね」

「そう、モリーさん!店主は女性だし親切な人だから、届けてもらう場合も安心だよ」

「なるほど」


 手入れされた芝生が広がり、ガゼボが見えてきた。何故かここだけ雑草がない。


「そ、そうだ、ロロさんの休憩にガゼボを使うといいよ。ボクも母も、今は殆ど使わないし」


 勿体ない。遠慮なく使わせてもらおう。入ることが出来るかだが‥‥‥。


 ロロは、ガゼボの中に入って座った。普通に問題なさそうだ。少し埃っぽい気がするので、使う時は洗浄魔法を使う‥‥‥のはやめて、鼻歌なしで拭き掃除をすることにした。


「あ、あの、芝生はこれ以上伸びないようになっているんだ。これは父ではなく祖父母の時からだよ」


 ああ、だからここだけ違うのか。


 再び石畳に戻り歩くと、数種類の薬草が出てきた。解熱草・鎮痛草・鎮静草・魔力増加草‥‥‥魔力増加草?!


「てぇへんだ!高級薬草が混ざってる!」 

「てぇ‥‥‥なに?その薬草スゴイのかい?」

「魔力回復薬は一瓶が金貨一枚。これは魔力回復薬の材料になる魔力増加草。他の薬草とか混ぜて作られてるけど、この葉一枚で魔力回復薬十本分だよ」

「えええっ?」


 ここで育てて、どこかに売りに行っていたのかもしれない。アトウッド家は、アルビーが継げば、食うに困らないはずだ。

 他にも、ドクダミやオオバコ、見たことがある薬草があって、すぐ横に香草もある。屋敷に近くなるとラベンダー・カモミール・レモンバーム・ペパーミント・バジル・ローズマリー、定番の香草が全て水遣りしていないのに生き生きと広がっていた。これは、エラがお茶にして飲んだり、料理に使うのだろう。

 アルビーに、今から選んだ香草をもらうと言った。バジルの上の部分の葉を少し手に取って摘もうとしたが無理だった。声に出して頼んだら、また簡単にとれた。


「アルビーさん。エラさんのところに戻っていい?依頼内容変更を家族で相談してほしい」 

「ねぇ、ボク、ここの管理に自信がないよ!」


 庭をしっかり見たことで、もっと混乱したようだ。父親は、息子にどうして欲しかったのだろう。話し合いは出来なかったのか。


「アルビーさん。今更なんだけど、お父さんの‥‥‥」


 石畳を歩いて屋敷を一周したところで、石板があることに気がついた。門や玄関からは見えない屋敷と草に隠れるような場所。近付くと、ここに来るまで見なかった香草の中に、四角い石板があり、文字が彫られていた。心臓が早鐘を打ち、ロロが膝を付く。


「それ、父が彫ったみたいなんだけど、暗号か他国語みたいで全然読めないんだよ」

「アルビーさん‥‥‥お父さんのお名前は?」

「え?父の名前?言ってなかった?ご、ごめん!セージだよ。そこの香草と同じ名前。セージ・アトウッド」


 石板に彫られた文字。



 セイジ・サトウ 

 二〇〇五.七.七 ニホンからガルネルに 


読んでいただきありがとうございます。



『古書店の猫は本を読むらしい。』も、スローペースで連載中です。こちらもどうぞよろしくお願い致します。


https://ncode.syosetu.com/n5529hp/

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