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林檎のロロさん  作者: Tada
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70個目

ブクマ・評価・いいね、ありがとうございます。



「だから、あれはロロの悲鳴じゃないって言ったろ?」


 念の為、聞こえるように代表室の扉も少し開け、大会議室の静音効果の魔法道具は外すようにマルコに言っていた。

 聞こえた悲鳴はランスの声で、カイはそれがわかっていたから、駆けつけなかった。


「でも、ロロちゃんをこうやって膝に乗せて、抱っこしてたよ」

「‥‥‥ほう」

 

 ロロの隣にいたカイが立ち上がり、向かいのソファーのランスの横に座る。


「そうそう、手首も掴んでたよね?」

「ランス、死にたいか?」


 ランスはギルマスとサブマスに挟まれた。

 ギュウギュウにソファーに座る男三人を、暑苦しいなと思いながら、ロロは向かいのソファーで紅茶を飲んでいた。 


「もう、だから、こっちが泣きたいくらいなのに!それに、抱っこ禁止なんて知らないんだから」

「普通ダメだよね?女の子にダメだよね?」

「ランス、死にたいか?」


 先程、代表室に引きずられて来たランスは、もはや【紅玉(ルビー)】から逃げられなくなっていた。


「ランスさん、お仕置きって何をしようとしたの?」

「「お仕置きぃ?」」

「ちょっ、ロロちゃんってば、今それ言う?」


 青い顔のランスは面白いが、彼を今後どうするべきか、ロロはそれを考えていた。


「カイさん、家具作ったり出来そうな広い場所ってないの?」


 地下の工房は二つあり、もう空いている部屋はない。

 ランスの仕事もギルドが受け口になれば、そこで作業出来るし、ロロのツヤピカ仕上げも可能だ。


「広い場所か‥‥‥」

「広いといえば、裏の別棟だよね?」

「昇級試験するところ?私まだ入ったことない」

「そうだったか?」


 子供の遊び場には出来ないので、ロロは許可されていなかった。今後C級までランク上げをしないなら、入ることがない場所だ。それに、カイやマルコ、レイラやリリィは、空き時間にそこで鍛錬をしている。冒険者としての自由がなくなり、動けないので、体が鈍らないようにするためだ。


「試験や鍛錬する場所としては広いからな。場所は空いていることは確かだ。昔の建物だが、戦争中や魔物から守る避難所にもなっていた。魔法強化されているし防音されていて、丈夫な建物だぞ」

 

 ピッタリだ!行ってみたい。


「今日は空いてるよな?マルコ、二人を連れてってくれ」

「私も入っていいの?」

「もちろん、これはお仕事だしね。ランス、今日の予定は?」

「ないわよ。リフォーム少しでも進めたらと思ってたからネ」

「カイさん行ってくるね」

「ああ」


 三人が立ち上がって代表室を出ると、ランスが不思議そうにしていた。


「なんか、誰かしらここに残ってないといけないのネ?」

「今‥‥‥忙しいからね」


 マルコが前を歩き階段を下りながら、振り返らずに答えた。


「今だけ忙しい何かがあるのかしら?」

 

 元第二王子が居るからね。

 

「ランスさんは、懲りない人なの?」


 ロロが笑って聞くと、ランスが青くなった。また知ったら逃げられなくなるようなことなのかと、気が付いたようだ。ランスはしばらく黙ってマルコの後をついて行った。横で、ロロが楽しそうにニコニコしているのが、余計に怖かったようだが、ロロはただ行ったことがない別棟が楽しみなだけだった。


 受付のリリィに別棟へ行くと伝えると、控えていたレイラが鍵を持ってきた。受付の記録に副代表のマルコと代表の許可を得た冒険者ロロ、家具職人のランスが記入される。二人とも、大会議室のリフォームのはずが、どうして別棟の見学になったのか、理由が知りたそうな様子だったが、この先どうなるかわからないのでまだ言えない。


 大扉を出ると、案内人は若いD級冒険者ジョンだった。先日、ダンジョンに行ってゲイトに会った事を報告してくれた二人のうちの一人だ。


「お疲れ様、ジョンくん」

「サブマス!お疲れさまです」

「案内人の仕事を受けてくれてありがとう。変わったことはないかな?」


 今日が初めての案内人の仕事で、午前中のジャックとの交代だった。ゲイトもS級なのに案内人を引き受けているのが格好良いので、同じことをしてみたくなった。


「特にありません」 


 ジョンは、マルコの後に続く、中背で筋肉が目立つ髪の長い男を初めて見た。年齢はゲイトくらいのようだが、冒険者だろうか。

 それから、時々見かける冒険者の少女。このギルドで二年間ずっとF級でいる事と、このギルドの特別な存在だと噂で、知られていた。枯茶色のショートボブは少し癖があり、ヘアピンを留めた方の耳は形良く、瞳は露草色で涼し気な美少女だ。ギルマスを始めギルドに可愛がられていると有名だが、それを鼻にかけず、服装が冒険者らしく地味なところが、印象が良かった。


「こんにちは、ロロさん」


 初めて声をかけてみた。少女は少しだけ驚いたような顔をしたが、すぐに笑顔になった。


「こんにちは、ジョンさん」


 可愛い。つい嬉しくなって、頬が緩んだ。


「ジョンくん、よろしく頼むね」

「は、はい!」


 マルコの声でハッとなった。それと、少しゾクッとした。それが何かよくわからなかったが、仕事に集中することにした。



「あんな若い子にも容赦ないわネ」


 静かにしていたランスが、前のマルコに向かってボソッと呟いた。マルコが何のことかな?と笑うと、両腕をさすって「こっわ」と言った。

 ロロはといえば、D級のジョンを見て、そのくらいになったほうが冒険者らしくなるなと、ランク上げを真面目に考えた。魔物を倒せるかによるのだが。


 大扉を出て左に行き、更に左に曲がって細道をギルドの建物に沿って歩く。

 こちら側は、冒険者が使えるトイレ・シャワー室・更衣室だ。ロロの目の高さにカーテンが開いている窓があったので、三人は何気なく見るとそこは更衣室で、上半身裸で下穿き姿の男が腰に手を当てて飲み物を飲んでいた。ロロは、銭湯でフルーツ牛乳を飲む姿を思い浮かべた。


「「「‥‥‥」」」


 あれは、若いD級冒険者のジャックだ。午前中の案内人の仕事が終わって、シャワーを浴びてスッキリしたのだろう。ただ、更衣室のカーテンを開けているのは頂けない。


「もう、若いお嬢さんが通ったら変態だと思われちゃうよ。いや、わざとか?寧ろ見てほしいと?」

「ちょっと!ロロちゃんも若いお嬢さんでしょ?」

「そうだよ、見るんじゃありません!」


 ジャックはこちらに気がついて、マルコと目が合うと口の中の飲み物を吹き出した。慌てて窓を開けた。


「ゴホッ!サブマス!ちがっ、これは、えっと」

「早くカーテンを閉めなさい。それから、まず服を着なさい」


 ジャックは隣にロロが居たことに気がつくとボン!と真っ赤になり「わぁあああ!ごめんなさいぃぃ!」と消えていった。


 カーテン閉めろって。


「あらまぁ、アレは、わざと開けてたわけではなさそうネ」

「ねぇ、ロロちゃん、なんでそんなに冷静なわけ?」


 マルコが顔を顰めて、ロロに聞いた。


「え?裸ならカイさんのを昔から見てたし、筋肉ならランスさんのほうが格好良いし、マルコさんみたいな大人の魅力はないし、成長途中の男の子の裸を見ても、もう少し頑張れ〜くらいしか思わない」 


 何故かマルコもランスも悪い気はしなかったが、よくよく考えるとロロの発言はちょっとおかしいなと思った。


「それより早く行こうよ」

「「それより‥‥‥」」




 別棟は、見た目より強度を重視したような建物だが、大きさは前世でいう体育館くらいだった。


「地下もあるんだよ」


 想像していたより広いようだ。扉には錠がかかっていてマルコが持ってきた鍵で解錠した。

 薄暗い中をマルコが室内灯に繋がる壁の魔石に触れると全体が明るくなった。あれは魔法道具で、電気のスイッチのような役目なのだなと思った。

 マルコはロロの様子から、もしかしたらこれを設計した者は前世持ちの可能性もあるなと思った。初めて入った人間は普通驚くからだ。マルコもそうだった。


「んまあ、面白いわ!」


 ランスが興奮している。昼のように明るい建物の中に、驚いているようだった。


「だけど、けっこう魔力が必要なんじゃない?」

「そうだね。だけど、うちの正規職員と厨房の三人は無理なく使える。それに、今みたいに全部つける必要はない。触れる時間が短ければ、つける室内灯の数も減らせる」

「なるほど、無駄がない。そうかぁ、ここでランク上げの試験をするんだね」


 床はテラコッタのようだが、平らで滑らか。強化魔法や防音効果はいつまでも続く魔法なのだろうか。

 出入り口付近を見たが、トイレがなかった。昔はその辺でしていたのだろう。避難所にするなら必要なのに、この世界には仮設トイレに近いものはあるのだろうか。今はギルドに行けば、トイレもシャワーも使用できるからいいのだが。


「次は地下に行ってみようか」


 室内灯を消して扉を出て施錠し、建物の右に回ると地下へ向かう扉があった。もう一つの小さめの鍵を鍵穴に入れて回すとカチンと音が鳴り、扉を押し開けた。やはり壁に魔石があって、マルコが触れると階段が少しだけ灯された。ギルドの階段よりも暗く感じるのは、外から入ってすぐなので、目が慣れていないせいかもしれない。まあ、地下への階段はどこもこんな感じのようだ。


 まず、壁に埋め込まれた大型の食品収納庫(マジックボックス)があった。


「昔に備蓄されているものがそのまま入っている」


 鮮度は落ちていないだろうが、昔の食べ物は美味しいかは謎だ。乾パンのような感じだろうか。


「マルコさんは、食べたことあるの?」

「うん、保存食って感じ、かな」

「‥‥‥美味しいとは言わないのネ。新しくするには費用もかかるわ」


 稼いだら、ギルドにパンを寄付しようかなと思った。マルコはロロの考えていることがわかったようで、苦笑いしていた。


「ガルネルの街の人の分は、大変だよ?」

「ソウデスネ」


 何人分必要か、把握してないと無理だ。備蓄が必要な事態にならないことが一番だが。


「向こうの扉二つに部屋がある。昔は管理人が居たようだよ」


 一つ目の扉は、十二畳くらいのワンルームのようだった。年代物のベッドとテーブルに、丸太を加工した椅子が四つある。シャワー室はないが、小さいキッチンとトイレもあった。


「水は出るの?」

「出るよ。一応放置しないように、レイラさんやリリィさんが定期的に点検してるからね」 


 リリィさんお仕事してるんだ、とロロは失礼なことを考えた。


「もう一つの部屋も見せてくれる?」


 ランスが扉のもう一つを指した。扉を開けると、大会議室くらいの広さの何もない部屋だった。


「ランスさん、ここに住みなさいな」

「え、もう決定なの?」


 ランスがここの管理人になって、この作業場で仕事をしてもらう。ついでに、建物の管理もしてもらえば最高じゃないだろうか。ギルドは今、人が足りていない。立っている者は親でも使え、的な感じで、使えるものはランスでも使え、だ。


「ははっ、ロロちゃん、全部口に出てるよ」

「おっと」


 あらいやだ、あはははは。

 笑い合う二人に、とても逆らえそうにないと思ったランスは、もう覚悟を決めるしかなかった。

 

読んでいただきありがとうございます。



『古書店の猫は本を読むらしい。』も、スローペースで連載中です。こちらもどうぞよろしくお願い致します。


https://ncode.syosetu.com/n5529hp/

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