68個目
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「ロロちゃんなら、メリーさんの工房に行きました」
マルコが受付に行くと、レイラに次のロロの行き先を教えられた。先程は厨房で、受付の方へ行ったと聞いたばかりだ。あちこちで時間を潰しているらしい。
「ありがとう」
ふと、レイラの髪のヘアピンを見た。
なるほど、これが噂の魔法道具職人のヘアピンか。魔石があんなに付いて、凄いな。
「‥‥‥」
「ああ、いや、そのヘアピン、とてもお似合いで」
「ありがとうございます」
ちょっと顔が赤くなったレイラは、今まであまり見たことがなく微笑ましかった。
「ロロちゃんにピアスホール開けてあげるそうですね?」
「え?聞いたの?」
「それはもう、嬉しそうに話してましたから」
ふふっとレイラは思い出し笑いをしていた。
「くれぐれも、気をつけて開けてくださいねぇ」
「うわ、びっくりした!リリィさん、カウンターにいたの?」
「こうして、ずーっと、いましたよぅ」
鼻から上しか出ていない。何故そんな格好でいるのか謎だが、「気をつけるよ」と言っておいた。リリィがカウンターに沈んでいった。
「‥‥‥じゃあ、行くね」
「‥‥‥ええ」
困った顔のレイラに見送られた後、カウンターの中のリリィに向かって「そろそろ仕事してちょうだい」と注意するレイラの声が後ろから聞こえた。
地下への階段を下り、地下通路を歩いて魔法鞄職人の工房の扉の前に立った。貼り紙は、ない。ノックをすると「はい」と声がして、ザックが出てきた。
「あ、マルコさん、こんにちは」
「こんにちは、ザックくん、ロロちゃん迎えに来たんだけど」
「ロロちゃんなら、トムさんの工房に行きましたよ?」
この短時間で、そんなに移動する?
「‥‥‥そう、ありがとう。メリーさんも元気にしてる?」
「今日は休んでます。少し次の仕事までゆっくりするようですよ」
「いらっしゃったら、よろしく伝えてね。そうそう、ザックくん、ロロちゃんの魔法鞄のポケットもお財布もステキに作ったね」
「あ、ありがとうございます!あれから、創作意欲が湧いて楽しくて!」
「素晴らしいことだね。頼もしいよ」
照れ笑いをするザックに「ピアスホール開けてあげるそうですね?」と言われた。あちこちに言って歩いてるらしい。
そんなに楽しみにしているのか。もしかしたら、トム・メンデスにピアスを頼んでいるような気がする。
「どれ、当たりかな?」
トム・メンデスの工房の扉をノックすると、コイルが出てきて中に案内された。枯茶色の髪の少女がテーブル席でお茶を飲んでいた。
「あれ?マルコさん、もうお迎え?」
「わぁ、満喫してるね‥‥‥ロロちゃん。こんにちは、トムさん」
「こんにちは、マルコくん。ロロくんから聞いたけど」
「ピアス、ですか?」
話が早いなと、ピアスの土台となる金具と小さな魔石の欠片を出してきた。
「ロロくんには、その、世話になったからね。プレゼントするよ。どの石にするか、マルコくんと選んだらどうだい?」
「レイラさんにはピアス作らないの?」
「も、もう、作ってる、から、大丈びゅ‥‥‥」
トム・メンデスが真っ赤な顔で挙動不審になって、噛んだ。皆が温かい目になって、聞かなかったことにしてあげた。
「マルコさん、どの石がいいと思う?」
ランスを待たせているが、選ぶくらいならいいかと、テーブルの上のトレイに乗せられた石を覗いてみた。つい、紺色とか胡桃色に近いものを探してしまうが。
「最初のピアスは、ルビーがいいんじゃない?」
「ふふっ、だよね」
ロロもそう思っていたのだろう。スタッドピアスで頼むことにした。もう一つくらい選んで良いと言われたので、マルコはフックピアスにしたら?と言うと、ロロがそうする!と喜んだ。その石はお任せして、出来上がりを楽しみにすることにした。
ランスを待たせてるので、トムとコイルに「慌ただしくて、申し訳ない」と言って工房を出た。
「ロロちゃん、ランスと俺が少し話し合ったけど、部屋の相談にのってね」
「私でいいの?どうなっても知らないよ?」
ふふっと笑うロロの頭を撫でて、お手柔らかにね、と頼んだ。
「随分のんびりと、デートでもしてきたの?」
「こんにちは、ランスさん。私があちこちに行ってたから、マルコさん探し回ってたみたい」
「申し訳ない」
長椅子に寝転がっていたランスに、二人で謝った。それから、やっぱり先にトイレ行ってくると、すぐにロロが消えた。
「はぁ、アタシより自由ネ」
「小さい頃から未だに振り回されてるよ」
「あらまぁ」
でも楽しいんでしょ?とランスが笑うと、マルコは苦笑いをした。自分でも悪くないと思っているのだ。
それにしても、ランスはよく大人しく待っていたなと思っていると、ロロが戻って来た。
「私としたことが‥‥‥お花を摘みに行ってきました」
「えっ、今更言い直すの?」
「はいはい、ランス、さっきの話の続きをしよう」
窓側に寄せた長テーブルと長椅子に三人で座った。ランスがスケッチブックを開く。
「あれ?お部屋は二つにしたの?」
簡単に描いた部屋の間取りを見ると、中央に壁を作る線が引いてあった。
やはり一人で住むには大会議室は広すぎたようで、魔法鞄があれば収納は必要なく、家具はベッドとテーブルと椅子があればいい。
「でも、こっちの部屋はキッチンないよね」
「それなのよネェ」
「あぁ、そうか、そうだね」
部屋を分けても、マルコはトイレ側にキッチンを作るとして、もう一つの部屋はどうするか。
「シェアハウスみたいに出来ればいいのに」
「ロロちゃん、それは‥‥‥?」
いけね、前世の記憶だった。でも、この世界でも言い方は違ってもあるはずだよね。
「マルコさんが大丈夫ならだけど、ダイニングキッチンは共有して、自室は扉を付けて分けるの。要は、この中に家を入れる感じ?」
「「なるほど」」
マルコとランスの声が重なった。
同居人が出来るまではマルコだけ使えば良いし、キッチンの個人の物は魔法鞄に入れておいて、共有していい物だけ置いておけばいい。
ランスがスケッチブックに描き直している。
「窓側と廊下側の部屋で二部屋つくって、扉をつけて、ベッドも二つになるわネ」
「ちょっと予算オーバーかな‥‥‥」
「あれ?余計なこと言った?」
ロロが心配そうな顔をすると、ランスが頭をポンポンとした。
「壁と扉を作る材料費は増えるけど、格安で頑張ってサービスするわよ。サイドテーブルとチェストはやめて、必要になったら作ればいいわ。長テーブルと長椅子を各部屋に使いましょう。頑張るんだから、カフェでエールを一日三杯無料にしてちょうだい」
「格好良い!ステキ!職人の鑑!」
「おほほほほ!もっと言って!」
乗せるのが上手いなとロロに感心して、マルコはとりあえずリフォームの目処がたったなとホッとした。こちらも頑張ってギルドに少し高めの家賃を払えば問題ないだろう。
「あ、そろそろランチの時間?」
ロロがお腹が空いたなと思ったのでマルコに聞いてみた。懐中時計を見たマルコが、ぴったり十二時だったことにゾッとしていた。
「それじゃあ、カフェに行こうか。俺とカイさんのは、厨房で用意してもらってるから、それを持って代表室に戻るよ」
ディーノがいるので代表室は空けられない。さすがにそろそろカイと交代しないと拗ねるかもしれない。
「あらそう‥‥‥一緒には無理なのネ」
「あ、二人で先に行ってて。カイさんに話してから行くから」
「わかったわ。席とっておくわネ」
「ありがとう!」
大会議室前で別れて、ロロは代表室にノックして「ロロです」と言った。「おう、入れ」と聞こえたので扉を開けた。
昨日より少ないが書類はまだあるようだ。ランチの時間だと教えると、もうそんな時間かとペンを置いて、デスクで伸びをしてからソファーに移動した。
「マルコさんが、ランチ持って戻って来るからね。私はランスさんと食べてくる」
「そうか。どうだ?ランスは」
「ノリが良くて面白いな。お友達になれそう」
「はは!」
いい大人にお友達と言うロロに、カイは笑った。
「どこまで話していい?」
「ランスにか?」
カイは腕を組んで考えた。マルコもランスを引き込みたい様子だった。
「話の流れがあるじゃない?例えば、私がここに居る理由とか。なぜ皆が過保護なのか」
「う」
脱・過保護が、カイの今年のテーマになりそうだ。来年になれば、ロロもエールを飲める年齢になる。
「マルコさんもランスさんを気に入ってるよね。呼び捨てになったし、話が合うのかな?」
「ランスはアレで人の感情に敏感なんだ。マルコも隠さずに素が出せるんじゃないか?」
「なるほど、なるほど」
ロロは立っていたが、カイの隣に座った。
「あのね、ディーノさんと転生者の話はしないから、ある程度話していい?私の洗浄魔法、あれ使えそうなんだよね、リフォームに」
にやりとしてカイに話すと、カイも同じように、にやりとした。
「それで、釣るのか?」
「海老で鯛を釣る」
「よくわからんが、エビはお前だな?」
「エビデス」
何故か頭を撫でられた。
マルコが戻ってきたので、すれ違いざまに「海老で鯛を釣ってくるからね!」と言って、代表室を出た。
「え、なに?」
「よくわからんが、あいつはエビだ」
「は?」
「自分がエサになってランスを釣るそうだ」
「‥‥‥へぇ」
じゃあ期待していいのかな?と、マルコもにやりとした。
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