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林檎のロロさん  作者: Tada
67/151

67個目

ブクマ・評価・いいね、ありがとうございます。


※65個目からの続きです。




 カフェでのんびり出来なくなったので、スススと受付へ行くと、リリィとレイラがいた。レイラの纏められた濃紅の髪には、トムが作ったヘアピンがある。リリィの髪にもロロがあげた細いヘアピンがあったので、嬉しくなった。


「ロロさん、なかなか良い動きですねぇ。うふふ。ところで、カフェのエプロン姿が可愛かったですよぅ!思わず絵師を探しに行くところでした」

「絵師て。もう、リリィさん、覗きは犯罪ですよ。レイラさん、昨日の面接の話はいつ出来るかな?」

「今いいわよ?事務室に行きましょうか」

「了解であります」


 犯罪‥‥‥と呟くリリィにまたねと言い、受付カウンターの中に入って、レイラの後に事務室に入った。


「お邪魔します」

「あら、ロロちゃん、お茶入れるわね」

「お菓子もあるわよ」


 事務のおば様方がお菓子とお茶を用意してくれた。


「ありがとう!あの、お、お構いなく」

「「まあぁ」」


 大人になったわねぇと頭を撫でられた。ギルドの人たちには自分はいつまでも子供なのだな、と苦笑いした。それから、おば様たちは自分の席に戻って行った。

 せっかくなので、お茶も手作りらしいクッキーも美味しく頂いた。


「ふふ、ロロちゃん、では聞かせてくれる?」


 レイラが、依頼内容が纏められたファイルを出していた。近くにさり気なく静音効果の魔法道具のピアスが置いてあった。さすがレイラさんだな、と感心した。

 永遠の庭園の話は、まだ本当の話かわからないし、カイの許可をもらっていないので話せない。


 まず、この薬草採取の依頼は達成できるかわからないことを話すと、目を丸くしたレイラが、考え込んでいた。


「何故か聞いても?」

「亡くなった依頼人のお父さんが、庭園に土魔法を使った可能性があるんだけど、ご家族が困らないように、野菜・香草・薬草をあちこちに育ててしまったらしいの。どんな魔法なのか、それ次第なんだけど、他人の私が手を出せるのか。薬草採取が出来ても、また次から次に生えてきて終わりが見えない、とか」


 こちらとしては、元々生えていた分の薬草採取した時点で「終わりです」って言えるけど、依頼人に寄り添ったものにはならない。それに【紅玉(ルビー)】の冒険者として、恥ずかしいことはしたくない。


「だから、依頼内容を変更してもらう必要があるの」


 しっかりしたロロの話を、レイラは書類に書き込んで頷いた。 


「ロロちゃん、明日行くのよね?」

「うん。庭園をちゃんと歩いて見て、薬草採取をしてみる。それから、依頼内容の話と、この先庭園をどうしたいか話してみようと思う。カイさんからは、焦らず、ギルドが力になることを伝えてくれって言われてるの」

「そうね、私もそれでいいと思うわ」

「野菜も香草もあるけど、それもどうするか。とにかく纏まりのない庭園なのが残念。草むしりも依頼に追加してもらいたいなぁ」

「一人で出来そう?」

「さあ‥‥‥でも、元々期限はないから頑張る。無理なら助けを求めます」

「そうしてね」


 この依頼は、意外と冷静な対応をしているロロで良かったのかもしれない、と思うようになった。そもそも、面接に受かるのは他の冒険者では無理だったのではないだろうか。


「面接はどんな感じだったの?」

「お茶飲みながらお菓子食べた。女の子が欲しかった依頼人のお母さんが、可愛いから合格よって」

「‥‥‥あ、そうなの」


 レイラにも、カイとマルコのように何とも言えない顔をされた。




 * * * * * * * * * * *




「はじめまして、ですよね? 副代表のマルコ・プラムです」

「あら、どぉも。家具職人のランスよ」


 白い五分袖のワークシャツから出ている太い腕の筋肉で、只者じゃなさそうだと思った。元冒険者らしいが、過去に会ったことないのだろうか?ランスは、榛色の長い髪を後ろで一つに纏め、革紐で巻いてラフに結んでいた。

 マルコも今日は、紺色の長袖ワークシャツにカーゴパンツと似たような格好だ。


「マルコちゃんでいい?」

「あ、いや、でしたら呼び捨てで」

「あらそう?それなら、アタシにも敬語ナシで呼び捨てでいいわよ」

「そうですか?じゃあお言葉に甘えて‥‥‥宜しく、ランス」


 遠慮のないマルコに、ランスは楽しげにニヤッと笑った。


「この大会議室をどんな風にしたい?」

「ギルドが支払うから、悪いけど、とにかく金はかけたくないな」

「あはは!このギルドは、ギルマスもサブマスも同じこと言うのネ」

 

 笑ったランスは、カフェのリフォームの時のカイを思い出しているようだ。

 ランスが大会議室の中の、長テーブルと長椅子を移動させた。一人で持ち上げて運んでいる。中央に広い空間を作った。


「‥‥‥凄いな」

「重いのを運ぶのは慣れてるのよ」


 まさか全て一人でやるとは思わなかった。

 それに、この年齢なら弟子が居てもおかしくないのに、一人で来た。


「ランスは、一人で仕事をしているの?」

「そうよ。一人のほうが楽よ。好きな時に休んで、エールを飲むのよ」


 エールを愛し、自由を好む。なかなか面白い人だな、とマルコは思った。


「今住んでる所は防具屋の二階で、家具付きなんだよね。だから、ベッドもテーブルも椅子も、自分の家具は何もない」

「それなら、この年代物(ヴィンテージ)を上手く使って作るわ。勿体ないけど、このまま放置するより、人が使う家具にしたほうがいいわ。とりあえず、間取りを考えましょ」


 扉を入って右の壁の向こうはトイレだ。キッチンを作るならこちら側だと言って、ここはダイニングキッチンに決まった。トイレもシャワーもギルドのを利用する話もした。


「広すぎるけど、ベッドは一つ?」

「一つでいいね。ギルドで生活するなら誰かを泊めるなんて無理だよ」

「あらまぁ、寂しいこと。でも、代表室が向かいじゃあ、それもそうネ」


 お互い苦笑した。

 材料はあるから、大きめのベッドを作って貰うことにした。代金は変わらないから大丈夫だそうだ。

 部屋に仕切りを付けるか、家具で壁を作るかになった。


「本を読むなら、本棚を作って壁代わりにしてもいいけど、冒険者や職人は魔法鞄を持ってるからネェ」


 持ち歩けるので、わざわざ棚に本を置く必要がない。


「そこは、ちょっと保留でいいかな?」


 そうねと、ランスも今決める必要はないと言った。

 奥に腰窓が多すぎるが、明るいのは何かと便利だし、どうしたらいいかを聞いた。


「いっそ、窓の前に長テーブルと長椅子を置いて、右のキッチン側は食事するテーブルに、左側はデスクにしたら?少しアレンジしてオシャレにするわよ。日中は薄くて明るいけど夜は中が見えなくなるカーテンなら、高くない物も商店に売ってるわよ」


 それは、とても良い。マルコは喜んで、そうしてくれと言った。


「ベッドのサイドテーブルとチェストくらいは置きたくない?格安で作るわよ?」


 さすがに家具職人も仕事が欲しいらしい。そこは、料金次第で自費でも良いかと、頼むことにした。


「ちょっとしたインテリアは、あのお嬢ちゃんに相談したら?」


 いよいよロロの話が出たな、と思った。


「そうだね」

「今日は、あの子いないの?」

「いるけど、今は用事があるみたいだ。ロロちゃんに会いたいの?」


 マルコは、少しも見逃さないようにランスの表情を見ていた。


「なんか面白そうだもの。このギルドの宝物みたいネ」


 たった一回会っただけで、そう感じたのか。


「そんな探るような目で見なくても、悪いことしないわよ?」

「そんなに失礼な目をしてた? 悪いね、癖なんだ」


 ランスは長椅子の一つに座った。マルコも近くに座る。


「何ていうか、そうネ。あの子が居なくなったら、このギルトが脆くなりそうで心配だわ」


 マルコは目を瞠った。そんな考え方をしているとは思わなかった。


「あの子を守ることで、皆が纏まっている、そんな感じ?」

「アンタ、凄いね。短時間でそこまでわかるの?」

「アタシが気持ち悪い?人の想いに敏感なのよ。能力だと思っていいわ」

「弟子をとらないのも、人を側に置かないのも、それが理由?」

「マルコも、ちょっと一癖あるわよネ。そこまで遠慮がないのは、このギルドの色なの?んもう!」


 ランスは怒っているふりをしているが、本当に()()だ。一人が楽だと言ったが、持ってしまった能力で、苦労をしてきたのではないだろうか。


「あの子は、なんか、キラキラしてキレイだわ。嫌な気持ちにならないのよ。面白いしネ」

「そうだね、わかるよ」


 マルコが魔法鞄からマグカップに入れた紅茶を出した。先程用意しておいたものだ。


「あら、ありがとう。紅茶は、久し振りだわ」


 一口飲んで驚いていた。


「美味しいわ。すごく、美味しい」

「これも、ロロちゃんに美味しい紅茶を飲ませたくて出来た能力だよ。ランスに喜んでもらえて、役に立ったね」

「‥‥‥そう」


 マルコが立ち上がった。


「ロロちゃんの様子を見てくるよ。ここで待っててくれ。それから、やはり広すぎるから壁を作りたいな。いつかもう一部屋必要になるかもしれないからね」

「そうネ、わかったわ。待っている間に、考えてるわ」


 ランスが大きなスケッチブックを出して、描き出した。部屋のイメージだろう。


 マルコは大会議室を出て、代表室に入った。カイがデスクでにやりとしていた。


「どうだ?悪い(やつ)ではないだろ?」

「うん、ロロちゃんに会わせていいよね?」

「お前に任せるよ」


 マルコは階段を下りながら、何とかあの家具職人をギルドに引き込めないかを考えていた。

読んでいただきありがとうございます。

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