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林檎のロロさん  作者: Tada
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64個目

ブクマ・評価・いいね、ありがとうございます。



 ギルドで最後に残っていたマルコが帰り、用意してくれたマグカップのお茶を魔法鞄から出して、洗浄魔法を始めることについてカイと話し合うことにした。

 すでに二人とも交代でシャワー室を使った後だ。ロロは、麻素材の部屋着をマルコから借りていた。長いので袖と裾をロールアップしている。魔法鞄に部屋着は入れていなかった。


「給湯室を見たが、ピカピカが過ぎる」

「だから二階から徐々に始めるんだってば。ちょうど良くなるまで練習させてくださいな」

「二階でも、代表室は後にしてくれ。あんなにピカピカになったら落ち着かない。部屋によって考えたほうがいいな」


 確かに、自分の部屋はいつも程良く出来るのに、なぜ給湯室はあんなに輝くような仕上がりになったのか。


 カイが複雑な表情で言った。


「特別に、気合入れ過ぎたんじゃないか?」

「何で?」

「さあな」


 自分の部屋は軽い気持ちでやっているからだろうか。失敗しても別にいいや、くらいで。いや、良くないけど。借りてるんだし。


「とりあえず、主にカイさんかマルコさんが側に付いている時で、魔力回復薬を持ってないとダメだって」

「あいつ過保護だな」


 過保護(あんた)が言うか?


 明日は家具職人のランスが来るので、その後にしようと決まった。


「リフォームって、何日かかるのかな」

「カフェは簡単だったから、二日で出来たな」


 家具職人だから、ベッドとか棚とか作るのかな?魔法を使うなら見てみたいけど、たぶん自分の工房で作るんだろうな。大きい魔法袋とか持ってるのかな。


「ランスがお前に興味があるみたいだ。気をつけろよ」

「何で?」

「さあな」


 お茶を飲みきって、給湯室で「キレイになあれー」 とマグカップに洗浄魔法をかけると、カイが「おお!ピカピカ」と喜んだ。食器のピカピカは良いらしい。

 カイの場合は水と洗剤で洗い、魔法で乾燥する。早く乾かそうとしたら熱で割ってしまったことがあるらしく、マルコに加減しろと怒られたので、時間をかけてじっくり乾かすか、自然乾燥にしていた。


「マルコさんは水と風を使えるんだっけ?」

「青・黒・黄色の魔力が、バランス良くあるんじゃないか?ロロほどじゃないが、洗浄魔法と風で食器を洗って乾かしている」

「へぇ‥‥‥メイナさんも同じ?」

「割合が違うはずだ。メイナは黄色が強い」

「なるほど。探索魔法(サーチ)は黄色の魔力がある人が強いと出来るのか」


 私の黄色の魔力量じゃ探索魔法(サーチ)は無理か。


 ロロは魔力の半分以上が青だ。洗浄魔法が得意だが、これに白・黒・赤色がほんの少し加わって、清浄な美しい仕上がりになっている可能性がある。


 全属性(オールラウンダー)ってバレるかな?


 交代でトイレと歯磨きをした。

 仮眠室を使ってもいいと言われたが、ソファーで寝ながら話したい。カイがちょっと嬉しそうにしている。


 防音室のディーノに「おやすみ」を言った。


 二つある代表室のソファーは、ロロの背にはちょうど良いが、カイは足が出るようだ。テーブルの手元灯だけつけて、大きめのブランケットを掛けて、また話を始めた。


「ねぇ、カイさん。全属性って、他にどんな人がいるのか知ってる?」 

「‥‥‥魔力鑑定してないだけで他にもいるかもしれないが、ギルド協会の本部にいるな。普段はあまり表に出ないが‥‥‥A級以上の昇格試験には必ず立ち会う」

「そうなんだ‥‥‥。もし、私が全属性って公になったらどうなる?」

「面倒な勧誘が来そうだが、強制力はない。お前、公にするのか?」

「したくないけど、たぶん私の洗浄魔法は、使ってる魔力の色が皆と違う。青色をメインに、白・黒・赤色が入ってるかも」

「少なくて、四つか」

「そう、少なくてそれ。洗浄魔法を仕事にするなら、いつか誰かに気付かれそう」


 カイが寝ながら腕を組んで考えている。


「冒険者ランクは上げないのか?」

「それ!少し上げたほうが良いのか、かなり上げたほうが良いのか、教えて」

「今は魔物がおとなしい時代だが、B級以上は魔物討伐要請があったら強制参加になる可能性はあるぞ。スタンピードは、隣国のノストルドムで三十年くらい前にあったきりだが」 

「うえぇ。魔物をピカピカにしか出来ないのに?」

「面白いなそれ」


 二人ともピカピカの魔物を想像した。スライムとか、スライムとか。


「ピカピカのスライムしかイメージ出来ない」

「俺もだ」

「何で?」

「さあな」


 前世を思い出してから、生きているもの、スライムですら、殺めていない。魔物と対峙した時、出来るのか、まだわからない。


「冒険者になって二年だ。E級には上がれる。D級は、魔物を倒せないと無理だぞ」 

「うん」

「難しいなら、冒険者でいる必要はないぞ?」

「うん」

「好きなことをして、自由に生きていい」

「うん」


 アトウッド家の依頼を達成できたら、ちゃんと考えよう。


「寝るか」

「うん‥‥‥おやすみなさい」

「おやすみ」


 ロロはブランケットを頭までしっかり被った。カイが手元灯を消す音がした。




 * * * * * * * * * * *




 いつも来る少女は、愚痴をこぼしていくことが多くなった。こちらが何も言えないのを上手く利用されている気がする。


『カイさんとマルコさんの過保護が過ぎる!』

『面接行ってくるね』

『何で腕時計がないんだよぅ。‥‥‥はあぁ、懐中時計って高いのかな?』

『ユルさんが明日から王都に行くよ。ゲイトさんもいない。目の保養が‥‥‥格好良い大人が足りない。‥‥‥マルコさんにまたお願いしようかな?どう思う?』

『懐中時計って高いのかな?』


 なぜそんなに懐中時計のことを聞くんだ。



『面接受かったよ』


 アトウッド家で、ロロが薬草採取をするようだ。


『愚痴じゃなくて良かったね』


 副代表が言った。ロロの愚痴を止める気ないくせに。嫌な奴だ。



『今日はギルドにお泊りするよ、よろしくね』

『懐中時計どうしようかな。頑張ってお仕事したら買えるかな?』


 また懐中時計‥‥‥これ、毎日聞かされるのか?


『そういえば、ディーノさんって懐中時計持ってた?私を見つけた時に、持ち主がわからない懐中時計を第五騎士団の団長さんが持ってたんだって』


 懐中時計‥‥‥第五騎士団?

 

『ディーノさん、おやすみなさい』

『おやすみ、ディーノ』


 私は、懐中時計を、持っていた、のか?




 * * * * * * * * * * *




「カイさん、起きて」

「ぅん?‥‥‥もう朝か?」

「お腹すいた。白パンをホワッと焼いてくださいな」


 代表室の掛け時計を見ると、まだ五時半過ぎだ。外は少し明るくなってきた。

 ロロはもう、白の丸襟シャツと黒のクロップドパンツに着替えていた。借りた部屋着は洗浄魔法でしっかりキレイに洗って乾かし、畳んでマルコのデスクに置いてあった。


「お前、早くないか?いつもこの時間に起きてるのか?」

「明るくなったら起きる」

「‥‥‥健康的だな。よし、ちょっと待ってろ」


 カイは、顔を洗いに行った。ロロに起こされるのは久し振りで、まだ眠いが何だか気持ちは軽い。


 戻ると、朝食用の紅茶入りマグカップがテーブルに置いてあった。これもマルコが昨日帰る前にロロに渡していた。給湯室から持ってきたピカピカの皿が並んでいる。昨日ロロが洗った皿だ。


 防音室のディーノに「おはよう」と言い、ソファーに座った。


「皿が眩しい」

「朝日が当たるね」


 ロロが少しカーテンを調節した。


「白パンと、生ハムとテネッタチーズ。アップルカスタードデニッシュもまだあるよ」

「とりあえず白パン」


 ロロが出した白パンを、二人で焦がさずホワッとさせて、生ハムとチーズを挟んで食べた。

 ロロがテネッタ牛の串焼き・タレを二本出して、もう二つの白パンに串を外した牛肉を挟んで渡してきた。


「なるほど、こうして食べても美味いな」

「卵焼きとかレタスがあれば、もっと優しい味になって美味しいよ」

「じゃあ、その辺を今度は魔法鞄に入れてきてくれ」

「了解であります」


 ロロがビシッと敬礼をした。料理人たちが子供のロロに教えたやつだ。敬礼とか、女の子に何を教えてるんだか。


「小さい頃から、料理長たちとよく厨房に居たな」

「うん。料理してるの見てて楽しいし、こんなの食べたいって言ったら、よく作ってくれたよ」

「そうか」


 ドット料理長たちには皆、家族がいない。ドットは若い頃に妻が病死していて、子もいない。ロロは、孫であり娘のような存在なのかもしれない。カイたちが仕事中に、見守ってくれていた。


「あの三人の疲れもアレで取ってやったらどうだ?」

「いいの?最初は微弱にすればいいよね?」

「そうだな。ただ、絶対に他の誰にも見られないようにしろよ」

「はぁい」


 カイは、食べ終わった食器を給湯室へ運び、洗浄魔法でピカピカになった食器を満足気に見せるロロに「ありがとう」と言った。

読んでいただきありがとうございます。

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