63個目
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マルコに皿を用意してもらい、カイが戻るのを待つ間に、ギルドで人を雇えないかを聞いた。
「‥‥それは、依頼人のアルビー・アトウッドさん?」
「うん。今日ね、お仕事クビになったみたい」
南地区の話をしたら、少しマルコの顔が引き攣った気がしたが、生活に合わない仕事を選んだらしいと言った。
「それは、本当に向いてない仕事場所を選んだね。あの地区の店は、夜に働ける人を求めているから」
誰でも受け入れるから、そう誰かに教えられたと言っていた。
「真面目そうな人なんだけど、人と話すのが苦手みたい。騙されやすく、信じやすい。私が言うのもアレだけど、なんか心配だよ」
ロロが言うなら相当だなとマルコは思った。その人間をギルドで働かせると言っても正直難しいが、真面目で覚えが早ければ化けるかもしれない。
「カイさんがそろそろ戻るだろうから、食べながら詳しく聞かせてくれる?」
「はぁい」
ロロはまた防音室のディーノのところへ行った。面接受かったよ、と報告した。その後にマルコも続いて行き、愚痴じゃなくて良かったね、と言った。
カイが戻ってきた。マルコがカイの分のお茶を入れに行くと、ロロの隣に座った。
「ロロ、あの双子のリッツって、マルコに感じが似てるな」
「やっぱり?」
二人でこそこそ話して笑っていると、いつの間にか背後にいたマルコが「悪口?」と言った。こっわ。
「テネッタ牛の串焼き、塩とタレ。鶏挽き肉餡入り蒸し饅頭、揚げ饅頭」
リュックから次々に出すと、マルコが皿に盛り合わせてくれた。
「幸せぇ」
「「ぷっ」」
最近同じように誰かに笑われた気がした。ザックだ。
「今、笑った人は後で職員室へ来なさい」
「どこだ」
「食べようね」
最近出たばかりのテネッタ牛の串焼き・塩は、タレより好みだった。カイもマルコも、タレより塩派になったようだ。
「ブラックペッパーかけても美味しそう」
マルコが給湯室へ行って、ブラックペッパーの瓶を持って戻ってきた。とりあえず三本分かけて食べた。
美味しくて黙って食べた。きっと二人にはエールがチラついているはずだ。塩をまた三本追加で出し、同じように食べた。
串焼きはあのお店のオリジナルだから、それっぽいのを料理長に作ってもらおう、と三人の意見が一致した。
マルコが自分の魔法鞄から紅紫色の長くて香ばしい食べ物を出した。
「これは、ダンジョンの屋台の紅紫トウモロコシ」
「わぁ!初めて!派手な色だね」
カイさんの髪色に似てると言ったら、怒るかな?
「‥‥‥」
「この紅紫トウモロコシはね、ダンジョン二十階より下に行かないと手に入らないんだよ。素早く採らないと毒がまわるから、高ランク冒険者じゃないと無理な食材なんだ。因みにこれは、ゲイトさんが採ったんだって」
塩バターがたっぷり塗られている。
「うんまーい!」
「‥‥‥美味いな」
「良かった‥‥‥んん、美味しいね」
「はあぁ、ダンジョンの屋台、行きたい」
「「‥‥‥」」
お腹がいっぱいになり、ロロは、今日の面接の話を始めた。お茶を飲んでお菓子を食べたと言ったら、二人に何とも言えない顔をされた。
依頼人が無職になってしまったこと、亡くなった依頼人の父親と庭園の話をして、調べる必要がありそうだと言うと、カイもマルコも顔を顰めた。
依頼人と母親の人の良さは、噂でも聞いていた。だが、父親は謎が多く、変わり者だと言われていた。悪意のない人間だと調べはついていたので、亡くなったことで、人の良い母と息子の依頼で薬草採取ならばと、レベル問わずで掲示板に出したのだ。
「永遠の庭園、自分がここに居たことを残したい‥‥‥か」
「庭に何かしらの魔法がかけられてる可能性はないかな」
「門の中に入っても、気持ち悪さはなかったけど?」
そう言うと、カイとマルコが目を合わせてからロロを見た。
「ロロちゃんは、大丈夫だと思うの?」
「誰も受け入れないとか、誰かをどうにかしてやりたいとか、嫌な事はないと思うんだよね。近くにケルンさんたちが住んでるんだよ?他の住人も。変な感じがしたら、調べてほしいとか依頼があると思う」
「ロロの言うとおりだ。お前、結構しっかりしてるんだな」
「失礼な」
マルコが指を組んで考えている。
「ロロちゃん、依頼は薬草採取だよ」
心配なのはわかるが、冒険者ロロが受けた依頼は、薬草採取。それ以上をする必要はない。
「それは、裏を返せば、アトウッド家から依頼を追加してもらえば話は変わるよってことだよね?」
マルコが微笑んで紅茶を飲んでいる。正解らしい。
「まずは、庭園の状態をしっかり見る。母親のエラさんは、庭園をどうしたらいいか決められないでいるって言ってた。息子のアルビーさんは、父親の庭園が好きではないみたい」
「ロロ、薬草採取をしながら、ギルドも力になれることを上手く伝えてくれ。焦らずな」
「はい」
食事が済んで、給湯室へロロとマルコが食器を運んだ。
「キレイになあれー」
ロロの洗浄魔法で食器をピカピカにすると、必要な食器だけ出して、後は片付けた。
「ありがとう、ロロちゃん。このマグカップとお皿は好きに使っていいからね。使い終わったらここに置いといてくれる?」
「はぁい」
給湯室の管理はマルコがしっかりしているので、ロロは許可が出たもの以外は触らないようにしている。
「ロロちゃんは、あのアトウッド家をギルドと繋げたいのかな?」
「それは、庭園を見てから考えることにした」
「そう」
もし、アトウッド家で管理できないほどの庭園だとしたらだ。
「ねぇ、マルコさん。私が小さい頃、ギルドの一階を洗浄魔法でキレイにしたことあったでしょう?」
「あぁ、ピカピカにね」
あの後で、驚いた冒険者からここを出ても働けると言われて、追い出さないでと大泣きした。あれから皆、ギルドの掃除はロロが言い出すまで頼まないことにしていた。暗黙のルールだった。
「今でも、自分の部屋だけは洗浄魔法を使ってるんだよ」
「そう。とてもキレイなお部屋なんだろうね」
「ふふっ。たぶん女の子らしくない部屋だよ。飾っているのは、大きなローズマリーの鉢植えと、ドライフラワーにしたナナちゃんから貰ったブーケ」
「シンプルなんだね」
殆ど部屋にいないマルコもそうだ。帰って寝るだけ。個人で買ったこだわりの紅茶やカップは、魔法鞄に入れてある。
「魔力量はあるほうだと思うんだけど、洗浄魔法を仕事に出来ないかなって」
「仕事に?」
マルコは目を丸くしてロロを見た。
「つまり、ギルドの清掃のお仕事ください」
「そうきたか!」
マルコが大笑いした。自分から、またギルドをピカピカにすると言った。
「じゃあ、この給湯室をキレイにしてごらん。これは試験だと思いなさい」
「はい」
ロロは、給湯室を清潔にするイメージをした。食器とは違う。やりすぎたら怒られるので、壁紙が剥がれないように、物が壊れないように、考えた。
「キレイになあれー」
それを言わなくては出来ないのだろうかと、マルコは笑いを堪えた。
元々清潔にしていた給湯室の、空気まで清浄になった気がした。輝くような気持ちの良い給湯室に、マルコは感動すらした。
「ロロちゃん、すごいよ。疲れはない?」
「全然、どうです?」
「カイさんに言って、まずは二階からギルド内をキレイにしてくれる?魔力回復薬を用意して、必ず誰かに付き添ってもらうこと。基本は俺かカイさんだ、いいね? それが失敗なく出来たら、仕事にしよう」
「!」
ロロがマルコに正面から抱きついた。驚いて、マルコは両手を上げて固まった。
「ありがとう、マルコさん」
「う、うん。頑張ろうね」
「へへ、頑張ります」
パッと離れると、ご機嫌でロロは代表室に戻って行った。
「あぁ、ビックリした」
少し赤くなった顔を冷ましながら、ピカピカになった給湯室を一通り見て、それから自分の服を見た。服までキレイに仕上がっていることに気がついて、「俺も給湯室の一部か」と笑った。
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