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林檎のロロさん  作者: Tada
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62個目

ブクマ・評価・いいね、ありがとうございます。



「ロロさんは、お若いけど何歳(おいくつ)なの?」

「母さん、ロロさんは十五歳だよ」

「もぉ、あなたに聞いてないわよ、アルビー」


 ゆったりソファーでお茶とお菓子を食べながら面接を受けるのは、前世でもこの世界でも初めてだ。


「冒険者の方で、恐い人が来たらどうしようかしらと思っていたのよ。こんなに可愛いお嬢さんに来てもらえて、嬉しいわぁ」

「見た目が恐い人もいますが、意外とそういう人のほうが優しかったりしますよ。逆に不自然に優しい人には気をつけてください」

「えっ、そうなの?さっきの双子の冒険者の人たちは優しそうだったけど」


 余計なこと言ったかな?と思ったが、「あの人たちは悪い人ではないです」とだけ答えた。

「「良かったー」」


 信じた。この母と息子は大丈夫だろうか‥‥‥。


「あの、面接は?」

「え?これは面接ではないの?アルビー」

「ご、ごめんね、ロロさん。うちでは、これが」


 面接なんですね。


「可愛いわー。アルビーが女の子だったら良かったのに」

「か、母さん?」


 アルビーが青くなってショックを受けている。

 エラは、一般的な平民と貴族の間くらいの、上品な女性だった。紺色のシンプルなドレスワンピースで、琥珀色の髪を結い上げて黒のレースリボンが付いた髪留めをしている。女性の服の中でも、ロロの好みだ。いつか、こんな服が似合う大人になりたい。


「ねぇ、ロロさん。カードをポストに入れてくれた時に、庭を見たでしょう?」


 急に本題に入った。ロロは「はい」と正直に答える。


「亡くなった夫はね、とても心配性で変わり者だったの。お義父様とお義母様が育てた薬草だけでなく、私たちが困らないように野菜や香草も育てたのよ。もう、あちこちに」

「ち、父は、土魔法の使い手でね。優秀なのに、屋敷の庭園に夢中だったんだよ。永遠に続く庭園を造りたいって‥‥‥」

「永遠?」


 ちょっと普通の考えではない。研究所ではなく自宅の庭ですることではない。


「家族が死ぬまで困らないように。それから、このガルネルに残したいって言っていたわ。自分が居たことを」

「‥‥‥家族を想う気持ちは、とてもわかりますが。まるで、居なくなるのがわかっていたかのように聞こえますね」

「ロロさんは、若いのに冷静ね。夫の考えに関わりたくないって人も多いのよ」


 困ったように笑うエラは、思っているより強い人なのかもしれないと感じた。

 使用人がいてもおかしくないほどの、大きなお屋敷。先代の時には誰かいて、ご主人の代になって、いなくなったのだろうか。


「夫はね、養子なのよ」

 

 アトウッド家の人ではなかったらしい。ケルンは何も言っていなかった。

 土魔法を上手に使う彼は、行く場所も帰る場所もない少年だったようで、子供のいないアトウッド家の夫婦が養子にしたそうだ。三ヶ月前に亡くなったそのご主人は、どんな人だったのだろう。


「ロロさん、私たちはどうしたらいいか決められないでいるの」


 永遠に続く庭園は完成したのか、しなかったのか。してたとしても、彼らがいなくなった後は、誰が管理するのだろう。

 アルビーは、彼の息子だ。土魔法が使えるのではないだろうか?


「アルビーさんは、この先も、結婚しても、ここに住むのですよね?」

「‥‥‥こんな変な庭がある家に、来たい人はいるのかな?」


 エラは何も言わない。ただ微笑んだまま座って紅茶を飲んでいる。



『ガルネルに自分が居たことを残したい』



 ここに居たことを残したい。父親の想いが、重い。


 アルビーは庭園を好きではないのだろうか。




「面接の合格は、仕事を受けるか受けないかですか?」

「まあ!何言ってるの!可愛いから合格よ!」


 え、そうなの? 受かったよ、ギルドのみんな。


「では明日‥‥‥いえ明後日、お庭を見せてもらえますか?エラさん」

「いいわよー」

「ボ、ボクも明後日は居るから、朝からでも何時でもどうぞ」

「ありがとうございます!では、明後日に伺って、お力になれるよう考えたいと思います」

 

 ロロが失礼しますと扉を出るまで、エラは優しく微笑んでいた。


 アルビーと待合室まで歩く途中、話をした。土魔法は受け継いでいるのかどうか。


「う、受け継いでいる、と思う。でも、怖いんだ。魔法を使うのが‥‥‥」

「失礼ですが、お仕事は?」

「母の前では言えなかったけど、今日クビになった。ロロさんにしていい話かわからないけど、その、南地区で仕事をしてたんだ」


 バインバイン通りの近くかな?


「こ、このとおり、話すのも上手くないし、夜にはしっかり帰るから、要らないと言われたんだ」

「なんで南地区にしたんです?」

「だ、誰でも受け入れるって聞いたから。でもクビになったから変だよね?」


 誰が教えたんだろう?

 この人、真面目な人なんだと思うけど‥‥‥。


「でしたら、私と一緒に、お庭と向き合ってみませんか?」

「え?」


 そんなことを言われると思っていなかったのか、アルビーは驚いて固まっていた。


「無理強いはしません。少しでいいんですが」

「‥‥‥か、考えるよ」

「はい」


 待合室で待っていたリッツとルッツが立ち上がった。


「お待たせ、帰りましょう。それでは、アルビーさん、明後日の午前中に、宜しくお願いします」

「こ、こちらこそ。お二人も、ありがとう」

「「失礼します」」


 アプローチを門灯を頼りに歩き、門を出た。


「今何時かな?」


 今度はルッツがロロの隣に、リッツが後ろに付いた。ルッツが懐中時計を見た。


「七時過ぎだ。面接は受かったんだろ?」

「あれは、面接っていうのかな」


 内容は言わずに、お茶とお菓子を食べながらだったと言ったら、そんなことに俺たちは待たされたのかよ、と言った。本当に申し訳ないが、そうです。


「でも、暗いから一緒にいてくれて嬉しい」

「そ、そうか」


 ルッツはちょっと口は悪いが、意外と素直な人だなと思った。この双子は顔はそっくりだが、カイとマルコみたいで面白いなと思った。双子のカイとマルコ。ぷっ。


「ロロちゃん?何か変なこと考えてないかな?」


 マルコ二世、こっわ! 


「リッツさんとルッツさんて、面倒見が良くて優しいなって思った」


 栗色の頭を掻いてちょっと照れているところは同じ動きで面白かった。




「お帰りなさい」

「ただいま」


 案内人のコイルが大扉を開けてくれた。リッツとルッツも一応依頼を受けているので、ロロと受付の列に並ぶ。


「ロロちゃん、お帰りなさい」

「ただいま、レイラさん。面接は受かりました。明後日もう一度伺って、依頼を受けたいと思うんだけど‥‥‥」

「何かあったようね。ギルマスに話してから、後で教えてくれる?」

「はぁい」

「リッツさんとルッツさんも、お疲れさまでした。依頼達成ですね。こちらはギルドからの報酬と、ダイニングでエールがサービスですって」

「「ありがとうございます!」」


 良かった。少し遅くなったけど、エールを飲んでもらえる。


「じゃあね、ロロちゃん」

「じゃあな、ロロ」

「二人とも、本当にありがとう」


 双子は、日中のカフェとはすっかり雰囲気が変わった冒険者でいっぱいのダイニング・バーへ行き、ロロは忙しい厨房に顔を出した。「受かったであります!」と敬礼すると、「良かったであります!」とジンが代表して返してくれた。ドットとテンは手を動かしながら笑っていた。


 代表室の扉をノックすると、「入れ」と声が聞こえた。マルコがいないようだ。


「ただいま、カイさん」

「ロロか、お帰り。マルコには会わなかったか?」

「うん」


 カイはデスクで書類のサインをしていた。まだあんなにあるのかと、ロロも気の毒に思うほど溜まっている。


「じゃあまだ事務室にいるな。ユルは早朝から王都に向かうから、もう帰らせる。魔力回復薬を飲んでからマルコに送らせるところだ」

「今日は鑑定忙しかったからね。マルコさんも大変なのに、私まで送るのは悪いな‥‥‥。ねぇ、今日はカイさんが泊まり?」

「ん?そうだが。なんだ、ここに泊まるか?」


 カイが嬉しそうな顔になった。


「さっき、一度帰って着替え一式を魔法鞄に入れてきたの。泊まっていい?」

「ああ、いいぞ!」


 カイの手の動きが速くなった。ちゃんと読んでサインしているのだろうか。


「じゃあ、後でゆっくり今日のこと話すね。ここで待ってていい?」

「ああ、そうしてくれ。疲れたろう、寝ててもいいぞ?」

「うん」

 

 ソファーで、魔法鞄を枕に横になった。確かに疲れていた。目を閉じると、スッと眠った。


 気がついたらブランケットが掛けられていて、紅茶の匂いがした。マルコの紅茶だ、と起き上がった。


「ロロちゃん、お疲れさま」

「んん、マルコさんも、おつかれさまぁ」


 はふぅと欠伸をして、ボーッとした。まだ眠い。


「俺としては残念なんだけど、送らなくていいんだってね」


 マルコがロロの前に紅茶を置いて、向かいのソファーに座った。


「ありがとう。そうだ、今日泊まるんだっけ」

「あの人、気合で仕事片付けたよ。今は下でエール一杯飲みに行った。双子がまだ居たからね、ちょっと礼を言うって」

「あの依頼人のお屋敷周辺は真っ暗だったよ。二人がいてくれて良かった」

「そうだね」

「うん。さすが【紅玉(ルビー)】の冒険者だね」

「なら、ちゃんと依頼して良かった」


 マルコの紅茶は少し香草をブレンドしてあるようだ。これは、胃がスッキリして消化を助けそうだと思い、夕食は買ってもらった串焼きとお饅頭を食べようと言ったら、そうすると思ってこのお茶にしたらしい。


「私のこと何でもわかるの?」

「何でもは無理だよ。女の子の気持ちを全て理解するのは難しい」

「そうかなぁ」


 ちょっと嬉しそうなマルコが「そうだよ」と言って微笑んだ。 

読んでいただきありがとうございます。

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