61個目
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面接まで何をしようと考えて、とりあえずロロは防音室のディーノのところへ行った。
カイは、冒険者のC級ランク昇級試験に立ち会うため、レイラと試験場へ行った。
試験場はギルド内ではなく、裏の別棟にある。魔物が多い時代に造られた建物だが、戦争中にも地域の避難所となるように魔法強化されている。戦争がなくなりしばらく放置されていたが、防音性もあるので【紅玉】が買い取り、試験場や訓練場として使われている。もちろん、いざとなればギルド周辺やガルネルの住民の避難所になる。
マルコは代表室から離れられないので、大会議室のリフォーム予算を考えていた。ギルド内なので支払いはギルド持ちだが、マルコが毎月家賃を給料から支払う事になった。
トイレは二階にあるし、シャワー室も一階でギルドを閉めた後に使わせて貰おうと思っている。
悩みはキッチンだ。給湯室で十分だが、代表室に入らないと行けない。一階の厨房を貸してくれなんて、とても言えない。料理人の聖域に入れるのはロロくらいだ。
「ここは、相談しようかな」
「あースッキリした」
またトイレから出てきたみたいに、防音室からロロが戻ってきた。ディーノが何も言わないから、愚痴をこぼす場所になっているようだ。少々気の毒に思えてきた。
「ロロちゃん、相談にのってくれる?」
「喜んで」
紅茶とメル・ジュエルのチョコレートを献上して、マルコは相談した。
「マルコさんは普段自炊するの?」
「いや、あまり。最近は料理長に頼んで作ってもらってるよ。お茶を美味しく入れる研究はしてるけどね」
「だからいつも美味しいんだね」
マルコが入れた紅茶が一番だとロロは思っている。
「ありがとう。今度は珈琲も仕入れる予定だから、そちらも期待してね」
「やった!‥‥‥って、相談だったよね。廊下に給湯室の扉作って入れるように出来ないの?」
「廊下の壁に穴を開けるってこと?」
代表室は鍵付きだ。給湯室に扉を付けるとしたらやはり鍵付きにしないと、誰でも代表室に入れてしまう。毒など仕込まれないとは思うが、給湯室の紅茶やカップの管理はマルコがしっかりしたい。
「マルコさんだけ入れればいいのにね」
「なるほど、ギルドの裏口は登録した職員しか通れない様になってるから、そんな感じかな?」
「うん、そんな感じ」
「ありがとう、ロロちゃん。その方法も考えるよ。とにかくリフォーム代を安くしたいからね」
「そうだね。扉を付けるほうがお金がかかるなら、小さくてもキッチン作ったほうがいいからね」
紅茶と美味しいチョコレートを堪能して、時間がまだ二時間以上あるので困ったが、あることに気がついた。
あれ?面接の服は?
「マルコさん、今更だけど面接って服装は?」
「ロロちゃん、本当に今更だよ」
「魔法鞄には殆ど食べ物しか入ってないの」
「これを機に、着替えも入れるようにしようね。まあ、冒険者の面接だから気にしなくていいと思うけどなぁ」
「でも、このノーカラーシャツより襟付きシャツのほうが印象良いよね。時間あるし帰って着替えてくる」
「それがいいね。行っておいで」
ごちそうさまでしたと言って、ロロは代表室を出た。案内人のザックにまた戻ると言うと、忙しいねと笑っていた。
午後の街中は人が多く、走れないので早足で歩く。子供の頃からメイナと早足で歩いたり走ったりしていたので、それほど大変ではないが、人にぶつからないようにしなくてはならない。
自宅に着き、クローゼットから襟付き白シャツを出すが、少し考えた。
「こっちの襟と丸襟は二枚ずつあるから、一枚ずつは魔法鞄に入れておこうかな。あとリボンタイとループタイも」
今日はノーマルの襟付き白シャツに白のリボンタイ、黒のクロップドパンツ、靴は黒のショートブーツにした。
来年は十六歳になる。エールも飲める年齢だ。女性らしい外出用の服や靴も買うべきかもしれない。
お買い得な懐中時計と、ワンピースとパンプス。これを買えるように稼ごう。
目立ちたくなかったからランク上げもしてなかったが、いよいよ考えなくてはと思った。
もう少し時間に余裕があるので、シャワーを浴びてから着替えることにした。
自宅を出てギルドに着いたのは五時頃だった。
受付に人が並んで、リリィとレイラが対応している。レイラがいるならカイも戻っているかもしれない。代表室に少し顔を出そうか迷ったが、事務室からカイが出てきた。冒険者たちに声をかけながら、ロロの前に来た。
「着替えたのか。リッツとルッツならカフェにいるぞ。ここは人が多いからな」
「そうなんだ。じゃあ、行ってくるね」
「しっかりな、気をつけて行って来い」
「はい」
カフェもいつもより人が多い。カウンター席で手を振っているリッツと、疲れた顔のルッツを見つけて、ロロが近付いた。
「ロロちゃん、着替えて来たんだね」
「リッツさんルッツさん、今日は宜しくお願いします」
「まさか、ギルマスからの依頼になるなんてな。仕事だからエールが飲めなくなったぞ」
「それは、申し訳ない」
テネッタでの害獣駆除が終わって、ここでエールを飲もうと思っていたのだろう。帰って受付で報告と報酬を受け取って、ギルマスからのロロの護衛依頼を伝えられたそうだ。
「ロロ、蜂蜜レモン水飲むか?」
ジンがカウンター越しに声をかけてきた。面接頑張れと、ジンからのサービスだ。
「ありがとう!いただきます」
蜂蜜レモン水が入ったこのコイルの青色の冷グラスは大好評だ。これが当たり前のように家庭で使われることになるのだろうか。
料理人たちがそれぞれに、リッツとルッツに「しっかりロロを護衛しろ」と言ってきて、二人の顔は引き攣っていた。このギルドは【紅玉】より【過保護】に訂正したらどうだろうか。
トイレを済ませて、鏡で確認し、五時半を過ぎたあたりでギルドを出た。案内人は、再びコイルに交代していた。
「ロロさん、行ってらっしゃい」
「行ってきます」
ロロの隣にリッツ、後ろにルッツが続いた。
「ロロちゃんて、なんか凄いよね」
「ん?何も凄いことなんてないよ?みんなが過保護なだけ」
「それだけかなぁ」
爽やかそうに見えるが、リッツはちょっとマルコに似てるなと思った。
街の灯りが薄暗くなったガルネルを彩り始めた。ロロはこの街の感じが好きだが、いつかこの時間でも普通に歩ける日が来るだろうか。
「おい、リッツにルッツじゃないか」
入り口が開放された飲み屋の中から、声が掛かった。ルッツが対応する。ロロとリッツは立ち止まってルッツを待った。
「ダンジョン帰りか?」
「ああ、一緒にどうだ?その娘は‥‥‥まだ飲めないか」
「悪いが仕事中だ」
「なんだ、悪かったな」
理解が早い男だったようで、すぐにルッツが戻った。
「一緒に飲めたかもしれないのに、ごめんね」
「気にするな」
ルッツが笑った。
住宅街に入ると街灯も少なく、やはり一人だと心細いなと思った。まだ賑やかな街のほうが安心する。
ケルンの家の灯りが見えた。もうすぐ依頼人の家だ。
「あ、ここ」
「門灯がついてるね、良かった」
「これがなかったら真っ暗だな」
草の匂いいっぱいのアプローチを進み、扉のノッカーを叩いた。しばらく待つと若い男性が出てきた。
「‥‥‥はい」
「こんばんは。冒険者ギルド【紅玉】のロロです」
「お、女の子?‥‥‥と、一人ではないのかい?」
「失礼、我々は彼女を送っただけです。彼女はまだ十五歳で夜道は‥‥‥危険なので。同じギルドの冒険者のリッツとルッツです。外で待ちますから、お構いなく」
「そ、そう、それなら‥‥‥あぁいや、お二人もどうぞ中で」
「宜しいので?」
ルッツが尋ねると、客室で待っていてもらえるならばと言った。
「えっと、う、うちは、屋敷が広いだけで母と二人だけなんだよ」
琥珀色の肩ほどまでの髪を後ろにラフに結んだ男性、アルビー・アトウッドは、リッツとルッツを客室に案内した。
「このまま待ちますので、何もお気遣いなく」
「面接が終わりましたら、すぐに失礼しますので」
「そ、そうかい?助かるよ。あぁ、では、ロロさん? 母に紹介するよ」
「はい、ありがとうございます」
ロロは、リッツとルッツに行ってくると目配せして、アルビーの後について行った。
管理するのが大変そうだなと、キョロキョロしていると、談話室に案内され、アルビーと同じ髪色の女性がソファーで待っていた。
「まあまあまあ!可愛らしいお嬢さん!」
ロロがびっくりしていると、アルビーが慌てた。
「ちょっと母さん!ご、ごめんよ、ロロさん。遅くなったけど、ボクはアルビー・アトウッド。彼女は母のエラ」
「母でーす」
なぜ面接が必要か、わかる気がした。
読んでいただきありがとうございます。




