60個目
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懐かしい人に会って温かい気持ちで歩いていたロロが足を止める。煉瓦と鉄柵に囲まれた大きなお屋敷は、散歩で見たことがあった。
今は、その時より緑いっぱいの‥‥‥。
「野菜・香草・薬草・雑草、ヤバそう」
これはこれは。ケルンさん、多少荒れてるってレベルではないです。
しっかり計画を立てなくては、せっかくの立派なお屋敷なのに、勿体ない。
ワンショルダーリュックから、ちょっと良い感じのメッセージカードと、ポケットからペンを出した。
『今夜六時以降、面接に伺います。 冒険者ギルド【紅玉】のロロより』
「なんか怪盗の予告状みたいになった‥‥‥」
まぁいいかとアトウッド家のポストに入れた。
帰りは、食前の運動が必要だと、走ってギルドへ戻った。そろそろ十二時頃なのか、お腹は空いているが時計がないのでわからない。懐中時計はお高いのだろうか‥‥‥。
案内人はザックに交代していた。もう十二時になっているようだ。
「ザックさん、お疲れ様です」
「コイルから聞いてるよ、お帰りなさい」
大扉を開けてくれた。
受付のリリィに代表室に行くと言い、階段を上って、ノックしようとしたら扉が開いた。
「うわ、びっくりした」
「ロロちゃん、おかえり」
「ただいま」
ユルはもう先に来ていた。待たせたかな?と思ったが、今来たところだったようだ。扉近くにいたマルコがロロの足音に気がついて開けたのだと納得した。
「ユルさん、加勢してくださいね」
「‥‥‥?‥‥‥なるほど。わかりました」
「何の話だ?」
マルコがお茶を運んできて、四人でソファーに座った。今日はユルの隣にした。
「カイさん、依頼を受けたんだけどね。ケルンさんの家の近くのお屋敷の薬草採取」
「‥‥‥あの依頼か」
依頼内容はちゃんと代表か副代表が目を通す。カイも知っている内容だった。それなら話は早い。
「確か面接があるだろう?」
「ロロちゃん、あれは午後六時以降じゃなかったかな?」
目の前の二人のほうが面接官のようだ。
「‥‥‥代表、副代表。依頼人のアルビー・アトウッド様は、その時間にならないとお仕事から帰宅されないのです。お屋敷にはお母様がいらっしゃいますが、冒険者が男性の場合だとやはり心配になるのでしょう」
「それは、わかる。そこじゃなくてだな」
過保護の話だ。
「あのね。リッツさんとルッツさんが仕事の後にね、待ち合わせて面接に送ってくれるの」
「双子のC級冒険者だね」
「‥‥‥そうですか、彼らが」
そこは、ユルも知らない話だった。
「帰りも送ると?」
「たぶん」
「集合住宅まで?」
「たぶん?」
面接官の二人がこそこそ話を始めた。
「あ、ユルさん。いまお屋敷へ様子を見に行ってみたんですけど、ケルンさんに偶然会いましたよ」
「‥‥‥そうですか、祖父に。喜んでいたでしょうね」
「へへ。アトウッドさんのお庭を、手伝ってあげておくれって言われました」
「「!」」
「‥‥‥先代のご夫婦は祖父の友人でしたからね。そうですか、お願いされましたか、祖父に」
「「‥‥‥!」」
ナイスです、ユルさん。もう断れません。
「わかった、気をつけて行って来い。ただ、リッツとルッツには、仕事としてロロの護衛の依頼を出す」
「ロロちゃん、帰りはギルドに戻るように。俺が、自宅に送るからね」
「くぅっ、仕方ない。双子よりマシか?」
「「‥‥‥」」
薬草採取の面接を受ける冒険者に、冒険者の護衛を二人。
ロロもユルも、大人気ない二人を真顔で見ていた。
ユルは休憩後も忙しいので、すぐにランチにした。今日はロロが用意すると宣言していた。ベーコン&エッグのロールパンサンドとアップルカスタードデニッシュを四個ずつ出して、あとは白パンと生ハム・テネッタチーズを出した。
ロロの微弱霧水魔法の後にカイが微弱火力魔法をかける。焦がさずホワッと。生ハムとチーズは好みで挟むようにした。
「うんまい」
「美味い」
「美味しいね」
「‥‥‥白パン、美味しいですね」
それから黙々と食べて、デニッシュも少し焼いて貰った。カイのパン温め焼きレベルが高い。
「カイさん、ケルンさんに香り袋渡しちゃダメ?」
「‥‥‥ロロさん、それは」
「そうだな、俺はいいと思う」
「俺も良いと思うよ。ユルくんとケルンさんでロロちゃんの話題が出ることは必然だし、家族内であまり秘密にしすぎるのも良くない。すでにケルンさんは、ユルくんの香り袋から何か感じてるんじゃない?」
「‥‥‥詳しく話していないのですが『良い物をもらったね、肌見放さぬように』と言われました」
ロロは魔法鞄から青いリボンの香り袋を出した。ギルドの皆の分は深紅のリボンだった。
「ユルさん、ケルンさんに渡してください。気をつけて行ってきてくださいね」
「‥‥‥ロロさん、ありがとうございます」
ユルは受け取った香り袋を、大事そうに自分の魔法鞄に入れた。
「ユルくん、事務室に用があるから一緒に行こう」
「‥‥‥はい、では失礼します」
ユルとマルコは、代表室を出てすぐに、マルコが前の大会議室に入るようにユルに合図をした。大会議室にも静音効果のリースが飾られていたので、ユルは何かあるのだろうと従った。
「‥‥‥まだお話が?」
「ロロちゃんの、兄かもしれない人が王都にいる」
ユルは目を見開いた。
「ゲイトさんが明日接触する。冒険者だ」
マルコは昨日の話を簡潔に話した。
「‥‥‥これから、その話を彼女に?」
「カイさんは話すと、もう隠し事はしないと決めたからね」
ユルは両の拳を握りしめた。何故、彼女にばかりこんな‥‥‥。
「ユルくん、君が出来ることをしてきてくれ。ゲイトさん次第だが、戻ったら鑑定することがあるかもしれないから。しばらく忙しいが、頼むね」
「‥‥‥承知しました。出来ることをして戻ってまいります」
二人は大会議室を出て、事務室へ行った。マルコはリリィに依頼を出した。ロロの護衛依頼。リッツとルッツが戻ったら、ギルマスからの依頼を伝えるように言った。
マルコが代表室に戻ると、ロロはカイの隣に席を移していた。マルコは紅茶を入れ直し、向かいのソファーに座った。
「ロロ、昨日マルコがゲイトさんに会って聞いてきたことを今からお前に話す」
「私に関することなんだね」
「そうだ」
「ちょっと待って」
ロロは息を吸って吐いた。夜には面接なのになぁ、と思いながら。
カイやマルコのちょっとした緊張から、結構な内容の話である気がした。なるべく今日中に伝えたいのだろう。明日には、大会議室のリフォームのために、家具職人のランスが来る。
ショックを小さくしたいので、ロロは、衝撃的なことをイメージした。
実は、私はカートン子爵の隠し子でした。
最悪だ。
実は、ナナシーはロロが大嫌いだ。
泣く。泣いちゃう。
実は、カイが女で、メイナが男だ。
面白そ‥‥‥いや、やっぱり嫌かな。メイナさんがお父さんなのはいいけど、カイさんがお母さんて。
実は、マルコとゲイトが恋人同士だ。
マジっすか。
実は、リッツがルッツで、ルッツがリッツだ。
どうでもいい。
実は、私は人間ではない。
「うぅ、どうぞ、お話しください」
「大丈夫か?」
「顔色悪いよ?ロロちゃん」
「マルコさんとゲイトさんは恋人同士?」
「‥‥‥その話はどこから聞いたのかな?」
あれ?この部屋こんなに寒かったっけ?
「私の頭の中」
「今すぐ消しなさい」
「了解であります」
ロロは、紅茶を一口飲んだ。
「消えました」
「いい子だね」
「お前ら、もういいか?進まないんだよ」
マルコは、ゲイトが三年前に会った一人の冒険者の話から始めた。ロロは黙って話を聞いた。
シューターさん。私の家族かも、兄かもしれない人。
ゲイトさんが明日接触する。冒険者。私と髪色が同じだけど、顔と胸の右側に斬られた傷痕があって、髪で顔の右側を隠している。
彼も【記憶失くしの森】にいた可能性が高く、ディーノさんと同じように、皆の記憶から忘れられてしまったかもしれない。それから、怪我をした日から十年の記憶もない。
当時八歳くらいだった私の記憶が一つもないということだ。
お互いが、知らない存在。会ってみても良いかな?くらいで、シューターもそう言うかもしれないとロロは思った。今の生活を変えたくないのも同じかもしれない。
その人も冒険者であることは、少し嬉しい。
「カイさん、私はシューターさんに会えても会えなくても、今と変わらずここにいたい」
「‥‥‥そうか」
「シューターさん、私より辛い思いして生きてきてるよね。でも、今が幸せだったら嬉しい。私がそうだから」
話して良かったと、カイは思った。ロロは、確実に成長していて、大人になっている。
「私は、自分が出来ることをするだけ」
「そうだな‥‥‥まずは、今日の面接だな」
「そう!パンを好きなだけ買えるように稼がないと!」
「「‥‥‥」」
大人になっているのか、ブレないだけなのか。
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『古書店の猫は本を読むらしい。』も、スローペースで連載中です。こちらもどうぞよろしくお願い致します。
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