6個目
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冒険者ギルド【紅玉】の大扉の前には案内人が立っている。
案内人は、ギルドから仕事としての依頼で冒険者が引き受けていた。
今日は、午前七時から午後九時まで、コイルとザックが交代で出ていた。
二人は魔法道具職人の弟子であり冒険者だ。まだまだ収入が少ないので、休みに時間があれば案内人の仕事を受けている。
ザックは二十歳で、師匠は魔法鞄職人メリー・バッガーだ。
ザックは仕事中に、通りがかる冒険者や商人の魔法鞄を見たり、交代の時間にはデザインや機能向上を考えていた。
まだ初心者用の魔法鞄を師匠の手を借りながらしか作らせてもらえない。
鑑定士により、安全性の証明ができない限り、師匠を通さないとオリジナル作品はできないのだ。
それに鑑定士のユルが厳しい。普段は穏やかなのに、仕事になると瞳の圧が凄いし、言葉に遠慮がない。それが正しいので、何も言えない。年齢はザックより三歳上だが、すでにギルドのお抱えになっている。まだ若いのに、落ち着いた黒髪七三分けのインテリ眼鏡だ。かなりの美形なのだが、あまり笑わないので勿体ない。
彼にはいつか、『‥‥‥素晴らしい、完璧です』と言わせたいと思っている。
大扉の中に入ると広間になっている。長椅子が設置されていて、左右の壁に掲示板があり、右側に依頼が、左側にギルドからの知らせや注意事項など、初めて訪れた人にもわかりやすくなっていた。
正面の受付は、午前八時から午後八時までで、奥には事務室がある。
受付カウンターの右横に入口が二つ、扉がある方が応接室で、受付で許可をとれば利用でき、扉がない方が更衣室・シャワー室・トイレで、誰でも利用できる。
左横にも入口は二つ、厨房&カフェスペースの入口は開放的で、地下や二階に繋がる階段ヘの入口は、ギルド職員と許可された者しか入ることができない。
夕方、地下からの階段を上ると、カイは掲示板の前の女性に声をかけた。
「リリィ、ユルはいるか?」
新しく入った依頼を貼っていたリリィが振り向くと、カイの後ろにメリー、そしてロロがいた。
「事務室にいますよー」
「すぐ代表室に来るように言ってくれ。先に行ってる」
「はぁい」
カイたちはそのまま二階に上っていった。
リリィは受付カウンターに戻り、奥の事務室のユルに声をかけた。
「ユルさーん」
「‥‥‥はい。どうしましたか?」
「ギルマスが代表室に来てって。スグですよぅ」
「‥‥‥承知しました」
スラリとした長身の黒髪の鑑定士の男が席から立ち、灰色のジャケットを手に取った。
お茶を入れていた事務員の熟年女性に、自分の分はいらないことを伝え、ジャケットを着て四角いビジネスリュックを持った。
「‥‥‥代表の話によっては戻りが遅くなります」
「了解でーす。鑑定依頼が入ったら明日以降になると伝えますねぇ」
「‥‥‥宜しくお願いします」
ちょうど鑑定助手の募集の件を断りに行こうと思っていた。
急な依頼だろうか。
カウンターから出て階段に向かうところで、左側、視界の隅に厨房の三人を捉えて、数秒固まった。
なんだ、あのモミアゲは?
顔には出ないが眼鏡の奥の青碧の瞳は動揺していた。
またロロさんか?
ふぅっと小さく息を吐き、直ぐにまた歩きだして、ユルは二階で待つ代表の部屋へ向かった。
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