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林檎のロロさん  作者: Tada
57/151

57個目

ブクマ・評価・いいね、ありがとうございます。


※後半ディーノ視点です。



 


「戻りましたぁ‥‥‥ぁあ、疲れた」 


 マルコがギルドに帰ってきたのは、午後九時頃だった。ソファーにボスンと座る。カイはデスクで考え事をしていたところだった。


「お疲れさん、走って帰って来たんだな」

「歩いたら日にちが変わるでしょ。このところ運動不足だな。体も感覚も鈍ってる」


 ダンジョンから本気で走って二時間。さすがに街に入ってからは速歩きにした。行きはそこそこで三時間かけて行った。ダンジョン受付での挨拶や、ゲイトに会った後も、先輩冒険者など知り合いに会ってしまったらどうしても無下には出来ないので、帰るまでに時間がかかってしまった。

 それにしても、あれほどのベテラン冒険者たちが集まって協力しているとは思わなかった。


「あのダンジョンなら、ロロちゃんも行きたがるよ」

「つまり、屋台の数が凄いんだな」

「ダンジョン受付周辺もそうだけど、一階は魔除けもしてあるから安全で、まるでキャンプ場のようだったよ」

「へぇ、そこまでか」


 カイが引き出し(マジックボックス)からアイスティーのグラスを二つ出し、テーブルに置いて向かいのソファーに座った。


「ロロからだ」

「いただきます!」


 少し甘さがあるアイスティーを半分ほど飲んだ。


「はあぁ、この気遣いが心に沁みるわ」

「本当に疲れてるな」

「‥‥‥今日は、行って正解だった」

「聞こうか」


 防音テントでの誤解の件は省いて、ゲイトとの話を伝えた。


「シューター、シューターか。本名か、登録名か?」

「兄の可能性が高いけど、家族は他にはいないらしいから、ロロちゃんにとっては、もう彼だけだ」

「だが、記憶がないのか。ディーノと同じように忘れられて、自分の記憶まで十年分ないなんて、堪らないな」


 よく冒険者として一人で生きていくことを選んだと思った。その強さは、兄だとしたらロロと似ていると感じた。


「ロロには、隠さないと決めたんだ。全て話そう」

「了解」

「ところで防音テントなんて、ゲイトさんはどこで手に入れたんだろうな」

「‥‥‥」


 話が戻ってしまい、マルコが渋い顔をした。


「ゲイトさんが持っていると‥‥‥なんかエロいな」

「やっぱり?変な誤解を招くところだったんだよ」

「ははっ、なるほど」


 男にも人気があるゲイトだからこそだった。


「まあ、アレがあったおかげで、移動せずに話は早く済んだけどね」


 アイスティーの残りを飲み干した。このグラスは厨房の物だなと気がつき、洗って明日にでも返すことにした。


「あぁ、お前の部屋の事だがな」


 今度はカイが今日の事を話した。ロロに相談したら大会議室を使ったらと言われたこと、偶然にも家具職人のランスがカフェに来たことを。


「そうか、仮眠室はそのまま‥‥‥。大会議室いいの?」

「俺は、いいと思う。カフェの静音効果を上げるなりすれば、そこで事足りるだろう。明後日、ランスと相談して決めてくれ」


 まさか食堂をカフェにリフォームしたのが家具職人だとは思わなかったマルコが、ランスとはどんな人物か聞いた。


「個性的な話し方の、男?だな。それから、よく周りを見ているな」


 男?ってなんだろうとマルコが首を傾げていると、会えばわかると笑った。それから、ギルド内の雰囲気に敏感な様子があったと言った。


「ロロにも興味を持っていたが、ギルドの空気に驚いてたな。二階へ上る時の皆の僅かな緊張、ロロのギルド内での存在や影響力」

「そこまで?敵に回したくないタイプだなぁ。会ってみるけど、場合によってはこちらへ引き込みたいな」

「自由とエールを愛する男だからな。難しいぞ?」

「うへぇ」


 それにしても、ロロは年上キラーだなと、二人は苦笑いした。

 

 カイが自宅へ帰ると、マルコはロロから貰ったチーズパンを食べた。もう一つはゲイトに渡してきた。

 自分で入れた香草茶を飲み、静音効果の魔法道具であるリースの魔石部分に魔力を補充した。寝る支度を整えると、防音室に入った。


「こんばんは、ディーノ様。あぁ、そうだ。シロ様から王子として扱わなくていいと言われてるから、ディーノくんって呼んじゃうね」


 ソファーに座り、変わらず眠る金髪の美青年を見る。


「ディーノくんも忘れてしまったかもしれない、シューターっていう青年が冒険者でいるそうだよ。あの【記憶失くしの森】にいたかもしれないんだ。ロロちゃんと同じ枯茶色の髪の青年だって。顔と胸の右側に切り傷があるそうだよ」


 ゲイトと無事に会えるだろうか。ロロに興味を持って会いに来てくれるだろうか。拒否されたら‥‥‥。


「彼もね、皆に忘れられているかもしれないんだって。それでも、一人で冒険者として生きているんだよ。ディーノくんは、どう思う?」


 これを聞いて一緒にするなと怒り狂っているとしたら、まだまだダメだ。

 どうか、視野を広げてほしい。


「おやすみ」


 マルコは寝る前の挨拶をして、防音室を出た。




 * * * * * * * * * * *




「お帰り‥‥‥どうした?」 

「ただいま」


 ギュッと抱きしめてくるカイの背中に、メイナも手を回した。


「ロロの、家族かもしれない青年がいるって」

「‥‥‥」

「会えるかわからないけど、その青年も記憶が‥‥‥」

「‥‥‥そうか」

「会えたとして、もしロロが、青年と一緒について行ったら」

「カイ、あの子はいつか嫁にも行くぞ?」

「‥‥‥」

「‥‥‥‥‥‥いや、行けるかな?」 

「おいおい」


 妻の言葉に思わずカイは笑ってしまった。


「あいつ結構モテるんだよ。特に年上に」

「子供の頃からそうだったじゃないか」

「‥‥‥そうだな、変わらないな」

「ああ、変わらない」


 ポンポン、と背中を叩いた。

 

 二階へナナシーの寝顔を見に行くと言ったカイが、なかなか下りて来ないので、メイナが様子を見に行くと、ナナシーのベッドに顔を伏せるように寝てしまっていた。

 仕方がないなと溜息を吐き、ブランケットをかけた。全く起きない。しばらくそのままにしておくかと、メイナは一階へ下りた。明日は首が痛くなるかもしれないが、先日カイが褒めていたロロの魔法が何とかしてくれるだろう。


 ソファーに座り、カイの言葉を思い返した。


「あの子に、家族が」


 カイの気持ちはとてもよくわかる。喜ばしいはずが、本心では嬉しくないのだ。取られてしまうと、思ってしまうのだ。


「勝手だな」


 あの子は、自分たちのモノではないのに。


「兄さん」 


 兄のマルコは、どう思っているのだろう。




 * * * * * * * * * * *




 眠らされてから、意識があるような、ないような、身体がどこにあるのかもわからないような、ずっと変な感じだ。


『おはよう、ディーノ様』


 うるさい、誰だ。


『おはよう』


 誰だ。男が二人。‥‥‥副代表と、代表か。


 しばらくまた静かになる。

 苦しさは少しずつだがなくなってきた。だが、まだ何かモヤモヤとした気持ち悪さがあった。


 また誰か来た。二人。女?子供?

 少女と代表の声だ。


 【記憶失くしの森】の話。

 少女の話。俺の話。


 モヤモヤオバケ?

 ワケあり王子?

 キノコ少年‥‥‥シロのことか?


 自らの記憶がなくなった人間の存在を知った。

 ロロ、少女の名前。 



『おやすみ』


 勝手に寝ろ。

 ああ、やっと静かになった。




『おはよう、今日はいい天気だよ』

『おはよう、ディーノ』


 ギルマスに呼び捨てにされた。

 


『ディーノさん、おはよう。聞いてよ、あの二人、女の子の髪型笑うんだよ。失礼だよね。あの双子の弟ルッツさんもダメ。女心がわからないタイプだね。兄のリッツさんは優しいのに。あ、双子はね、冒険者でね、リッツさんは左目の下にホクロがあって、ルッツさんはお尻にあるんだよ』


 それがどうした。


 


 怖い女たちが来た。気配でわかる。恐ろしい威圧を向けられた、あの時の女と、頭が悪そうな振りした女。何をしに来たんだ?

 もう一人は、誰だ?知らない男だ。穏やかな落ち着いた声だ。



『おやすみ、ディーノ』


 ギルマスに、頭を撫でられた。





『おはよう、ディーノ』

『おはよう』

『おはようございますぅ』


 なんか増えた。



『おはよう、ディーノさん』


 ロロだ。今日は機嫌が良いらしい。



『あぁ、暇になってしまったでござる。こんにちは、ディーノさん。ねぇ、仮眠室もリフォームしたら使ってくれる?お城みたいに広くないけど、狭いのってなんか落ち着くと思うんだよね』


 仮眠室?‥‥‥何の話だ?

 私は、その狭い部屋に行くのか?


 ‥‥‥ござるって何だ?



『こんばんは、ディーノ様。あぁ、そうだ。シロ様から王子として扱わなくていいと言われてるから、ディーノくんって呼んじゃうね』


 は?


『おやすみ』




 もうひとりの、忘れられた青年。

 誰だ。シューター?‥‥‥知らない。

 枯茶色の髪。枯茶色の‥‥‥。


 思い出すのは、白い砂地。

 近くで誰がが頭から血を流して倒れていた。

 死んでいるかもしれないと怖くなった。


 枯茶色の髪。

 あの時の。


 死んで、いなかったのか。

 

読んでいただきありがとうございます。

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