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林檎のロロさん  作者: Tada
54/151

54個目

ブクマ・評価・いいね、ありがとうございます。



 ロロは厨房で珈琲豆を挽いていた。

 はっきり言って専門職じゃないから困っている。アイスコーヒーの場合は、細かく挽いたほうがいいような感じだった‥‥‥気がする。麻フィルターが用意されていてホッとした。少しの湯で蒸らしてから『の』の字に注ぎ通常通りに入れたら、確かに中挽きより濃くなった。そこに氷を入れて一気に冷やした。アイスティー用のシロップとミルクならある。

 

「好みでシロップとミルクを入れたりするんだけど」


 三人の料理人が少しずつ飲んだ。料理長のドットは何も入れないのが好みで、テンはシロップ入り、ジンはシロップとミルク入りが好みのようだった。


 なぜガルネルには、コーヒーやアイスコーヒーがなかったのだろう?王都もまだ流行り始めたばかりなのだろうか。


 異世界は謎ばかりだ。これがあるの?と驚いたり、え!ないの?とショックを受けることもある。

 この珈琲豆はコイルからもらった物なので、入荷できれば始めるらしい。


 あとはテイクアウトだが。


「時間帯を決めて、通り側の窓が受け渡し口になればいいのかな。魔法袋(マジックバッグ)に用意したケーキを渡すだけにして。‥‥‥あれ?お弁当も出来るんじゃない?」

「ロロはいろいろと思いつくッスね。おべんとう?」


 いつの間にか声に出ていたようで、テンが聞いてきた。


「料理が一つの箱にギュッと詰まったやつ」

「なるほど、それなら冒険者用に作れそうッス」

「そうだね、慣れるまで冒険者用のメニューにしてもいいかもしれない。でも、やっぱり人が足りないよね。せめてもう一人、リリィさんたちも受付に専念できるように、会計込みでウェイターかウェイトレスがいたら」 

「すぐには無理だが、いずれ考えようと思っている」


 ドットが考えていた今後のカフェの相談の中には、人員の補充もあるらしい。

 

「まずは、ケーキからやってみない?パーティー用とかホールのままで売るのもいいね」

「切らずに丸ごとか。それはこっちも楽だし、少し安くできるかもな」


 持ち帰りやすいように箱に入れられたらいいけど、この世界に大量の紙の箱などないし。木箱はどうだろう?一度買ってもらって、次の予約の時に持ってきてもらう。箱代を引けばいい。エコバッグみたいなエコボックス。冒険者は魔法鞄があるが、一般人は持ってくるほうが大変か?持ち手付きで畳めればいいのに‥‥‥。


 ぶつぶつと呟いているロロの側で、ジンが興奮して喜んでいる。もっとケーキをたくさんの人に食べてもらいたいのだろう。ドットがロロに声をかけた。


「ロロ、ありがとう。とにかく、いろいろと考えてみるよ」 

「どういたしまして。少しでも役に立てるなら嬉しい」

「相談料だ、ロロ」


 ジンが、チーズケーキを丸ごと、T・J・Dマークの食品専用魔法袋に入れてロロに渡してきた。


「ギルマスたちと揃ったときにでも食べたらいい。袋は後で返してくれるか?」

「わぁ、ありがとう!わかった!」

 

 食品専用魔法袋は丸めてでもロロのワンショルダーリュックに入る。不思議だが、この三人が作った料理しか入らない謎な袋だ。


 しっかり蜂蜜レモン水までごちそうになり、どうやら客も来たようなのでカフェを出ることにした。


「ドット!サンドイッチとエールちょーだい!」


 客は料理長の知り合いのようだ。四十代くらいの榛色(はしばみいろ)の長い髪と瞳の男性だ。七分袖の白シャツに深緑色のワークパンツ姿で、中背で筋肉がしっかりついた、オネエ言葉が印象に残る人だと思った。


「ロロ、ちょっと待ってくれ」


 料理長に呼び止められた。何だろうと思うと、その男性のところに連れて行かれた。


「アラ、可愛い女の子」

「お目が高い」

「あははは!面白い子!」

「ロロ、こいつはランス。このカフェをリフォームした家具職人だ。知り合っておくといいかと思った」


 なんと!


「カイさんがリフォーム頼んだ人?」

「ん?ギルマスの知り合い?」 

「そんな感じの、ロロです」

「ランスよ、宜しくネ!一応、元冒険者よ」


 長い指の、意外にも柔らかい手と握手をした。腕の筋肉が凄い。冒険者時代もこの筋肉だったのだろうか。


「ドットさん、たぶんカイさんがランスさんに会いたいと思ってる」

「そうか、こいつはエール馬鹿だから、しばらくここで飲んでる。すぐ行ってくるといい」

「ちょっと、まさかまた無理な注文じゃないわよネ」


 ランスが苦笑いをしている。家具職人にリフォームを頼むのだから、確かに無理な注文だ。

 ロロがにやりとした。


「やだ、この子笑い方がギルマスに似てるわ」

「失礼な」

「あははは!面白ーい!」


 楽しそうなランスはエールがくると豪快に飲んだ。そこは男らしいなと思いながら、急いでカイの所へ行った。


 高速で扉を連打(ノック)すると「何だ何だ!」とカイが出てきた。


「どうした!何かあったか?」

「あのね、ランスさんて家具職人がカフェに来てる」

「うお!本当か!ちょうど良かった!ロロ、悪いがここに居てくれるか?」

「はぁい」


 ディーノがいるので、ここを空けるわけにいかなかった。お留守番を任せてくれるのは、嬉しい。

 カイは、ロロの頭を撫でて、カフェに向かった。

 ロロはソファーに座った。


「暇になってしまったでござる‥‥‥あ、そうだ!」 


 ザックに頼んだお財布に付ける装飾を考えることにした。

 


 


「ランス!頼みたいことがある!」 

「やだ、本当に来たわ!」 


 サンドイッチを食べながら三杯目のエールを飲もうとしたところに、カイが来たことで手が止まった。


「ドットからも注文あったのよ。たまたま飲みに来ただけなのに!」

「食品用の木箱を試作でいくつか注文した。こちらは急がないから、ギルマスの後でいい」

「悪いな、先輩」


 ドットは厨房へ戻って行った。


「ねぇ、あの面白い子は何?今まで会わなかったわよネ?」

「そうだったか?ロロはよく来てるぞ?」


 料理人たちが会わせないようにしてたのではないだろうか。クセが強いから‥‥‥。


「二階に部屋を作って欲しい。今日じゃなくてもいいから、見積もってくれるか?」

「ふぅん、今は暇だからいいわよ。あら?あれはトム?」

「ん?」


 地下から出てきた魔法道具職人がフラフラ歩いて、奥の誰でも利用できる更衣室・シャワー室・トイレがある方へ行った。徹夜でもして、シャワーを使うのだろう。


「相変わらずくたびれてるわネ」

「あの人はなんだかんだ言っても、頼まれたら断れない人なんだよ。たぶん、ロロが頼み事したからあんなになったのかもしれない」


 カイが苦笑いをした。確か昨日『良い注文ができました』と言ってた気がする。


「へぇ」

「いつ来れるか?」 

「今ちょっと見てもいいかしら?」

「‥‥‥あぁ、じゃあ来てくれ」


 カイがドットに、ちょっと上に行くからと、ランスの席をそのままにしておくように頼んだ。

 受付のリリィにも、ランスを上に連れて行くと言った。榛色の瞳は、ドットたち料理人やリリィの少しの変化を見つけていた。


「マルコがここに住みたいと言ってるんだが、使っていない大会議室を見てくれ」

「はいはい」


 階段を上りながら説明をした。トイレの隣で代表室の向かいの大会議室に案内する。


「本当は、仮眠室二つをリフォームしようと考えたんだがな。ロロは仮眠室はそのままにした方がいいって言うんだ。使っていない大会議室はどうだ?」

「ねぇ、あの子の影響力にアタシは驚いてるんだけど。それがここでは普通なの?」

「‥‥‥普通だな」

「あらまぁ」


 上に行くと言った途端の僅かな緊張を、ここにいる者たちから感じとっていた。それは、ロロに関しての事か、また別の何かなのか。


「随分広いのに使わないんじゃ確かに勿体ないわネ。あら、ちょっと!この長テーブルも長椅子も年代物(ヴィンテージ)じゃない!」

「そうか」


 五人くらい座れるほどの長テーブルと長椅子が十セットだけ、窓にカーテンすらない部屋だ。

 リフォームは、キッチンが必要ならトイレ側にするとして、水回りを少なくすれば、時短で安くなんとかなりそうだ。


「使えるものは使うわ。マルコってのは今日はいないの?」

「いない」

「明後日なら来れるわ」

「なら明後日マルコと会って、どうリフォームするか決めてくれ」

「あの子もいる?もっと話をしてみたいわ」


 ランスはロロに興味があった。


「さあ、あいつ次第だな」


 にやりと笑うと、エールを奢ると言って、またカフェに戻ることになった。


 ロロは装飾を考えているうちにソファーで眠ってしまい、戻ってきたカイに「危機感がない」と呆れられた。

読んでいただきありがとうございます。

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