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林檎のロロさん  作者: Tada
51/151

51個目

ブクマ・評価・いいね、ありがとうございます。



「テネッタ牛の串焼きはいいの?」 


 悪魔が囁く‥‥‥。


「鶏挽き肉餡入り蒸し饅頭は?」

「‥‥‥揚げ饅頭もありますね」


 二人の悪魔が。


「え、あの」


 ガルネル中央区の夜の街を、冒険者ギルド【紅玉(ルビー)】の副代表と鑑定士に挟まれて歩く、転生者で冒険者のロロは、新しい魔法鞄(マジックバッグ)に入れる食べ物を自分で決められずにいた。


「あ、塩もあるんですね?では、タレと塩の串焼き三十本ずつください」

「‥‥‥蒸し饅頭と揚げ饅頭、二十個ずつください。お手数おかけしますが、バッグに入れるので小分けに‥‥‥」


 もうダメだ‥‥‥とロロは諦めて、出来上がりを待つ悪魔たちに従った。

 

「はい、ロロちゃん、新しい魔法鞄のお祝い。俺たちからね」

「あ、ありがとう。これで好きな時に食べられるね」


 夜の店頭でしか買えないものを、プレゼントしてくれた。さっそく灰赤のワンショルダーリュックに入れた。


「‥‥‥ロロさんは、どれだけ食べても太らない体質ですか?」


 何となく、周りから食べてるイメージしかないことがわかった。

 この世界には各家庭に体重計などないので、あまり気にしないで過ごしてきたが、確かに体型に変化はないように思う。だが、全く運動していないわけではない。

 

「確かに太らないけど、それなりに運動してます。最近は依頼を受けてなかったから、運動不足だけど」


 一般的に馬車しか乗り物がない世界。ロロは依頼先まで走って行ったり、採取する薬草によっては山奥に行く。カイが心配するから何処まで行ってるか詳しく言っていないが。


「そうだよね。ロロちゃん、冒険者だったね」

「うぐっ‥‥‥」


 そもそも、始まりは魔法鞄が欲しいからだった。冒険者ランクを上げずに、最低限の生活費稼ぎしかしていない。この先どうするのか、考えなくてはいけないと思っている。


 ダンジョンかぁ‥‥‥。


 ゲイトから、いつか行ってみないかと言われたことを思い出す。‥‥‥あれも、屋台に釣られた会話だった。


 あれ?本当に食べ物のことしか考えてないと思われても仕方なくない?


「‥‥‥それでは、私はここで」


 この角を曲がるとユルの祖父の家だ。


「ケルンさんに宜しくね」

「え?ケルンさん?」


 ロロが久々に聞いた魔法道具職人の名前に驚くと、ユルもマルコも目を丸くした。


「ロロちゃん、ユルくんのお祖父様がケルンさんだって知らなかったの?」

「‥‥‥言ってませんでしたか?」

「シリマセンデシタ」


 なんてことだ。小さい頃に地下工房にいたケルンさんが、ユルさんのお祖父様だったとは!あ、確かに七三分けが同じだ。


 魔法道具職人なのに、何となく見た目が執事に見える人だった。


「今日は遅いから、今度お会いしに行こうか?」


 ロロが会いたそうなのがわかったマルコが、そう提案した。そうさせてもらう事にして、ここでユルと別れた。


「おやすみなさい、ユルさん。お饅頭ありがとうございました」

「‥‥‥どういたしまして。今日は、良かったですね」

「また、明日。王都の件はよく相談して決めるようにね」

「‥‥‥はい、明日代表室に伺います。では、おやすみなさい」


 マルコと一緒にユルの後ろ姿が消えるまで見送ると、「行こうか」と今度はロロの集合住宅に向かった。


「マルコさん、遠回りになってごめんね」

「ロロちゃん、足元危ないから手を繋いでいい?」

「え、なぜ?」


 お婆ちゃんだったからって、今は違うんですけど?


 何か勘違いしているロロに、マルコは苦笑いで「昔はよく手を繋いでくれてたのに」と言った。

 確かに、近くに買い物に行く時はよく手を繋いでもらってたな、と思い出す。

 

「はい、お手」

「犬か!」


 仕方なくお手をすると、そのまま繋いで歩いた。


「マルコさんも集合住宅に住んでるの?」

「いや、俺は防具屋の二階の貸部屋だよ。ギルドからだと南地区の手前くらい」

「あ、バインバイン通りの近く?」

「え」


 マルコが目を丸くしてこちらを見て固まっている。


「バインバイン‥‥‥通り?」

「うん。お胸がバイーンなお姉さんたちがいっぱいいる」

「ちょっと!え?ロロちゃん行ったことあるの?」

「うん、三年前くらいかな?カイさんと一緒にメイナさんにプレゼントする下着を買いに」

「あのヤロ‥‥‥」


 マルコがブツブツ言い始めた。


「因みにその名前は、ロロちゃんが?」

「バインバイン通り?うん。カイさんも、わかりやすいって言ってた」

「あ、そう‥‥‥」

「あ、でも、私を連れてったから、メイナさんに後で殴られてたな」

「だろうね」


 はぁぁ、と溜息をついて右手で額を押さえている。


「あのね、ロロちゃん。俺は、その、バインバイン通りが近いから住んでいるのではなくてね」

「‥‥‥」

「‥‥‥」

「マルコさん、独身なんだから、別にバイーンなお姉さんの所に行ったって怒られないよ?」

「‥‥‥ソウデスネ」


 とりあえず、手汗が凄いよ、マルコさん。

 あ、五・七・五、出来た。‥‥‥ん? 五・八・五?


 集合住宅に着いて、疲れた顔のマルコに、今日のお礼と「おやすみなさい」を言った。部屋の窓から顔を出すと、マルコが見上げていたので手を振ると、手を振り返してくれた。


 今日は皆に話ができた。

 全て信じてもらえてなくても、自分が好きな人たちに自分のことを知ってもらえて良かった。

 テンのオシャレなパーティーメニューにも驚いたが、美味しかったし、嬉しかった。


 シャワーを浴びて、慎重に温風で髪を乾かした。無理はしないことにした。いつもの今日もお疲れさ魔法(マッサージ)をして、ベッドに座る。


 明日はパン屋さんに寄ろう。白パンも注文しなくちゃ‥‥‥。あれ?結局、誰がゲイトさんのところに行くんだっけ?


 確認に、ちょっと早めにギルドに行くことにした。もし自分が行かない場合は、掲示板を見てみよう。


 手元灯を消して、横になった。


「よし、明日も頑張ろう」


 目を閉じて、魔法鞄に入ってるたくさんの串焼きとお饅頭を思い出して、可笑しくなった。それから‥‥‥。


 あれ? 私、イケメンと手を繋いで歩いたよね?


 今頃思い出して、ベッドの上で真っ赤になって悶え転がって、座るように床に落ちた。臀部の痛みで冷静になり、起き上がって、乱れたベッドのシーツとブランケットを整えて、眠りについた。

読んでいただきありがとうございます。

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