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林檎のロロさん  作者: Tada
5/151

5個目

ブクマ・評価・いいね、ありがとうございます。


※料理長ドット視点です。




 俺の名はドット。五十五歳。元冒険者で料理長だ。


 最近頭のてっぺんが寂しくなってきたが、それもまたいい味を出している、と思うようにしている。


 副菜担当のテン、スイーツ担当のジンとは、一緒にパーティーを組んでいた。付き合いはもう三十年になるだろうか。

 採取が難しい珍しい食材探しの依頼ををメインにしてたのと、美味いものを作るのも食うのも好きだったことから、冒険者引退の話をギルマスにしたら料理人にスカウトされた。


 年始めのある日、若い冒険者のマルコとメイナの兄妹が、小さな子供を連れて来た。短い髪の青い色の瞳をした、少年のようにも見えたが、少女だった。

 王国の第五騎士団から取り急ぎ協力を求められて【記憶失くしの森】に行った際に保護したらしい。

 ちょうど焼きたてのアップルパイがあったので温かい紅茶と一緒に少女に出してやると、緊張していた顔に表情が出て、へにゃっとした笑みで美味しそうに食べた。

 俺もテンもアップルパイを作ったジンも、少女のあまりの可愛さにノックアウトだ。

 少女はしばらく、身元と捜索依頼がないかを調べる為に第五騎士団とギルドのどちらかで預かることになったが、メイナに懐いていたのとアップルパイの効果で、ギルドを選んだ。厳つい第五騎士団の団長がガッカリする姿は、滅多に見られるものではない。


 少女はロロと言った。本当の名前かどうかわからない。生まれてからの記憶がなかった。

 

 魔法が使えるようになる年齢はだいたい八歳頃からなので、年齢はそのくらいだろうということになった。すでに器用に魔法を使っていたのでもう少し上かもしれなかったが、見た目が五歳か六歳くらいと小さかった。

 誕生日は、森で見つかった日になった。


 ロロは、メイナが仕事の時は、保護責任者となったギルマスのカイ・ルビィと一緒に代表室にいるか、俺たちと厨房にいた。

 皿の洗浄魔法が完璧だったので、手伝いや味見係をしてもらった。斜め上を行く面白い提案もしてくるし、良い意味で女らしくなく話しやすくて、俺たちも楽しかった。冒険者時代の話をすると、魔法鞄(マジックバッグ)に興味をもった。

 夜は、メイナが借りている集合住宅に連れて帰っていた。


 ロロの身元確認ができないまま、月日は流れ、いつの間にか付き合いだしたカイとメイナが結婚し、ロロを新婚のルビィ家に引き取った。

 日中ギルドにいる生活は変わらなかったが、帰りにカイとメイナに挟まれて手を繋いで帰る姿は、微笑ましかった。



 メイナが妊娠した。


 ロロが自分の存在を気にする様子があったので、これからの家族関係がどうなるか周りも心配だったが、出産した後も実子と分け隔てなく接するルビィ夫妻に、安堵した。

 メイナは冒険者をやめて、ギルドの仕事を時々手伝うことになり、ロロも積極的に娘のナナシーの世話をするようになった。ギルドに来ることが少なくなったが、メイナが仕事の日はカフェの隅でナナシーと過ごしていた。厨房と受付からよく見える場所だ。ロロは本当の妹のようにナナシーを可愛がり、ナナシーもロロが大好きで、そんな二人は俺たちの癒やしになっていた。



 ロロが十三歳になった。冒険者登録ができる年齢だ。


 確実に、ギルドカードと魔法鞄(マジックバッグ)欲しさなのが見え見えだったが、とうとう冒険者になった。


 俺たちが生まれる前とは違い、人を襲う魔物も減り、隣国との協定で戦争もなく、今はわりと平和だった。

 農業・商業が栄え、店が増え、家が建ち、安定した職に就くものが多くなると、冒険者は少しずつ減っていった。

 ダンジョンはあるが、攻略したいというより、欲しい素材やドロップアイテムを求める雇い主のために行く者が殆どで、危険を冒してまで冒険者になる必要のない時代だった。

 

 ロロが冒険者になることはギルマスも反対しなかったわけじゃないが、ロロの目的はわかっていたし無理もしないだろうと、許した。休みの日に、多少の組み手と短剣の使い方は訓えたようだが、包丁の使い方のほうが吸収が早かった。厨房での日々がここに出てしまった。

 

 ギルマスがお古の魔法鞄を譲ったらしい。初心者用でたくさんは入らないが、ロロには十分だった。

 嬉しくて楽しかったのか、最初はリュックに自分の物を出し入れして遊んでいた。まだまだ子供だなと思った。

 そのうち、小遣いで菓子を外で買ってきて、俺たちにくれた。皆が『ありがとう』と言えば、へにゃっと笑って喜んだ。

 次に、何か料理を作って欲しいと頼まれた。ハンバーグランチを作ると、皿のままリュックに入れた。他の料理も何度か頼まれたが、食べないままだったから皿がなかなか返ってこないので困っていたら、ギルマスにデコピンで怒られていた。チッと舌打ちしてた気がしたが、見なかったことにしておこう。



 ロロが十五歳になった。


 小さな依頼を積み重ねながら、駆け出し冒険者くらいにはなっていた。


 それから、ルビィの家を出た。


 ロロの中で、何かが変わってきているのだろう。

 ギルマスは、住む場所はこちらが決めた所ならばと、やってみるように言ったが、本心はショックだったに違いない。

 以前メイナが住んでいた集合住宅の部屋が空いていた。治安が良いのと、独身女性だけしかいない。しばらくはそこで住めるだろう。メイナも知った場所で安心だと言っていた。



 ロロが慌てて厨房に飛び込んできた。


 リュックが使えなくなったから、トロトロ黃鶏肉のハムを食品収納庫で預かってほしいと、容器ごと渡してきた。

 リュックって魔法鞄(マジックバッグ)じゃないか。

 一体どうしたのかと思ったが、了解して受け取った。

 後でギルマスに、この事は口外するなと言われたので、俺たちは何か想定外の事が起こったのだと感じた。

 

 ロロは大丈夫だろうか。



読んでいただきありがとうございます。



『古書店の猫は本を読むらしい。』も、スローペースで連載中です。こちらもどうぞよろしくお願い致します。


https://ncode.syosetu.com/n5529hp/

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