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林檎のロロさん  作者: Tada
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49個目

ブクマ・評価・いいね、ありがとうございます。



「嬢ちゃんは、俺を笑い死にさせる気かぁ?」


 ロロの髪型で存分に笑い終えた後に、疲れたようにメリーがソファーに座っている。もう、誰に笑われても気にしなくなったロロは、震える手で紅茶を運ぶザックに「ありがとう、無理せず笑っていいよ」と言った。

 魔法鞄(マジックバッグ)とギルドカードの登録が終わったと言うと、そりゃ良かったなぁと言った。

 ザックにさっそく、黄土色のワンショルダーリュックを渡した。


「急いでないし、作れる時でいいからね」

「わかった。預かるね」


 ザックは工房の収納庫(マジックボックス)にしまった。


「メリーさん、レッドドラゴンの革の端切れってある?」

「んん?あるぞ。端切れはいつもザックかコイルに渡してるが」

「ザックさんも使わないほどの端っことかでいいの」


 ザックは高級品すぎて使うのを躊躇っていたらしい。魔法鞄の型をとった周りの部分をもらうことにした。

 何に使うのか聞かれて、ヘアピンを作りたいと言うと、レッドドラゴンの革でヘアピンを?とザックが信じられないという顔をした。それから、トムやコイルなら何か作るかもと言われたので、端切れの中でも使えそうな良い部分はトムに渡すことにした。 


「トムさんにちょっと用があるから、私が渡してもいい?」

「うん、じゃあお願い」


 紅茶をごちそうになったお礼を言い、ロロはメリーの工房を出ると、すぐ近くのトム・メンデスの工房の扉をノックした。


「はい」


 中から、少し神経質そうな丸眼鏡の細身の男性が出てきた。ロロは子供の頃、トムは話しにくい人かと思っていたのだが、穏やかな人だと知った。


「ご無沙汰してます、トムさん」

「‥‥‥ん?あぁ、ロロくんか。なかなか斬新な髪型だね。どうぞ」


 顔色を変えずにロロを受け入れた。今日はコイルは居ないらしい。

 近くのテーブル席に座るよう言われて、飲み物を聞かれたので、メリーのところで飲んできたばかりなのでお構いなく、と言った。

 レッドドラゴンの革の端切れを出すと「おや」と反応した。


「キミのそのリュックと同じだね。凄いね、レッドドラゴンとは」


 忙しい魔法道具職人に、相談があると言った。


「ねぇトムさん、この端切れでヘアピン作れる?」

「キミは本当に、面白い子だね。レッドドラゴンのヘアピン‥‥‥。作れるよ、どんなのがいい?」


 トムは、表情はわかりにくいが、余程の忙しさでなければ断らない。


「一番必要なのは、実はレイラさん」

「レ、レイラさんっ!」


 レイラ本人だけが気がつかないようだが、トムがレイラを好きなのはギルドの皆にはバレバレだった。普段表情のないトムが、レイラの前だけ違うのだ。顔が真っ赤になってしまう。

 リリィから、レイラが自分の威圧で髪を纏めていたヘアピンを折ったと聞いていた。また折りそうだからと髪を下ろしたままだ。


「レッドドラゴンの革なら、レイラさんの魔力や威圧でも‥‥‥」

「お、折れないのを作ればいいのかいっ?」


 トムが食い付いたことに、ロロはにやりとした。


「この色、ギルドカラーにも合うし、レイラさんの素敵な濃紅の髪にも‥‥」

「!」


 レイラのピンは、髪をクルッと纏めて刺すタイプの長めの物だ。トムならよく見てるからわかるはずだと、ロロは確信していた。


「すぐに作る!」

「おおぅ」


 ロロは若干引いたが、「ついでに小さい髪留めがいくつか欲しいなぁ‥‥‥なんて」と小さく呟いてみる。情報提供者ロロは、トムの反応を待った。


「喜んで作ろう。完璧に仕上げて、耐久実験を重ね、明日の朝には出来るようにする。ありがとう、ロロくん」

「うん、ちゃんと寝てね」


 ガシッと二人は握手をした。



 ロロが地下通路をスキップで「私はアフロな情報屋〜」と歌っていた。

 

「アフロな情報屋って何だ」

「うわ、びっくりした」


 背後にいたカイに「良い注文ができました」と伝えた。


「爺に伝えたか?」

「うん、良かったなぁって言ってたよ」

「そうか」


 トムに、レッドドラゴンの革の端切れでレイラのヘアピンと髪留めをいくつか頼んだと言ったら、またお前に巻き込まれる人間が増えたんだなと、遠い目をされた。




 午後七時を過ぎて、昼までカフェだったダイニング・バーの、カイとロロが座る奥のテーブル席に、ユルが仕事を終えてやって来た。レイラとリリィは八時まで受付だ。マルコもまだ、二階で書類整理をしている。


「ギルマス」


 レイラが冒険者二人を連れてきた。若いD級冒険者たちだった。


「ギ、ギルマス!こんばんは!俺はジャックで、こいつが」

「ジョンです」

「彼らは今日、ダンジョンでゲイトさんに声をかけられたそうです」


 レイラが、緊張している二人の間に立った。


「そうか、お疲れさん。ダンジョンはどうだったか?」

「はい!あの、初めて行って、ベテランの方と交流できました」

「サポートしてもらって、十階まで行けました」


 カイはまず、若い冒険者のダンジョンデビューの話を聞いた。


「良かったな。ランク上げは焦らずな。先輩の中にゲイトさんがいたって?」 

「はい!スゲェカッコ良かった!あ、すいませ‥‥‥」


 ジャックのほうがジョンより興奮していた。ロロもユルも、ゲイトの格好良さはよく知っているので、うんうんと頷いていた。


「あの、ゲイトさんは、明日までダンジョンにいるそうです」

「そうか、ありがとうな」


 二人は、カイにエールを奢ってもらい、ギルマスと会話が出来たことにも喜んで、帰って行った。

 

 午後八時を過ぎると、今日の受付が終了したレイラとリリィが片付けを始めた。

 料理人たちが料理を運んできた。皆が食べやすいように、フライドポテト、オニオンリング、鶏肉の唐揚げ、野菜スティックなどが出てきた。ロロは居酒屋チェーン店のメニューのようだと思って懐かしくなった。早くエールが飲める年齢になりたい。この世界では十六歳からだ。

 皆が揃うまで、軽く食べ始めて待つことになった。


 カイは、ゲイトと連絡を取れることになったので、明日誰をダンジョンまで行かせるか悩んでいた。


 先日、代表室で会話した時には、ダンジョンには十日程と言っていた気がしたが、予定を変えたのだろうか。


「カイさん、私が行こうか?」

「待て待て、待て、待て」


 落ち着け、ギルマス。


「何もダンジョン入るって言ってないよ。受付口とかあるんだよね?そこで待ってれば会えるんじゃない?」 

「わかった、考えるから」

「あ!」

「今度は何だ?」


 皆がロロに注目すると、午後九時を過ぎて、髪型が元に戻った。


「「ああぁ‥‥‥」」


 仕事を終えたレイラとリリィが、ショックを受けていた。

読んでいただきありがとうございます。

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