44個目
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「あれ?ロロちゃんは?」
マルコが紅茶とチョコレートを運んで来ると、ソファーにはカイしかいなかった。
「不貞腐れて防音室」
「は?何で?」
「ディーノは笑わないから、だと」
マルコが困った顔で紅茶を配った。
ディーノにはあんまり近付きすぎないようにしてほしいのが本音だが、そうもいかない。彼にも、いろんな人間がいることを知ってもらういい機会だからだ。
マルコもカイも、今朝からディーノに話しかけるようにした。「おはよう」「今日はいい天気だよ」と挨拶から始めた。毎日続けてみることにした。
さて、ロロちゃんは青年にどんな話をしているのかな?俺たちに笑われたって、文句を言ってるかもしれないな。
「本当に、目が離せないというか、可愛いよね」
「‥‥‥」
マルコがカイの反応を待っていたら、ロロが戻ってきた。
「あー、スッキリした!」
「お前、防音室をトイレみたいに言うな」
「ロロちゃん、メル・ジュエルのチョコレートで許して」
「許します」
「ロロ、こっち来い」
ポフンとカイの横に座ると、紅茶とチョコレートを食べ始めた。カイがフワフワの頭を撫でる。もぐもぐしながら、露草色の瞳がカイを見上げた。
「うん、確かに可愛いな」
「でしょ?フワフワした妖精みたいだよ」
「お前、笑ってたよな?」
カイが何故この頭になったのかを聞いた。
昨夜、髪を温風で乾かそうとして、折角なら潤いと艶を出そうと上乗せしたらこうなった、と説明した。たぶん二十四時間で戻るはずだ、と。
それと、カイに言われた通りに鏡を見て今日もお疲れさ魔法をしてみたら、薄紫色コーティングのアフロが映っていたと言った。マルコがまた吹き出しそうになるのを我慢していた。
「青と赤と白の魔力が混ざって、身体を巡るとそうなるのかな?」
「器用なやつだな。それで、ギルドカードはどうした?」
「あ、更新したよ。時間がかかってたみたいだけど」
ギルドカードをカイに渡した。
「‥‥‥全属性とは出なかったか」
青・黃色の魔力、水・風・地・知、これは元々あったもの。赤・白の魔力、火・陽・治・浄、これが新しく追加か。黒・緑は、少なすぎて出なかったか?
「リリィとレイラは、なんて?」
「カードを見た時は少し固まってたけど、褒めてくれたよ」
「そうか」
カイは、マルコにもギルドカードを見せた。
「へぇ‥‥‥ユルくんの鑑定眼のほうが凄いことがわかったね。あぁ、全属性って出なかったのは本当に良かった」
「ユル先生、やっぱり凄い人なんだね」
「ははっ、先生か。鑑定の後にそう言ってたな」
「‥‥‥」
マルコは、ユルが前向きに考えると言った助手の件を思い出していた。落ち着いた性格のユルは、教えるのに向いているだろう。
あぁ、考えることが多すぎるな、と苦笑いした。
「ん?来たか?」
廊下から子供の笑い声が聞こえた。カイとマルコが止めたが、ロロは扉を開けに行った。
「ナナちゃん!メイナさん!」
「ロロちゃ‥‥‥ん?」
「‥‥‥ロロ?‥‥‥元気そう、だね?」
二人の視線で、ロロ・アフロは今の自分の姿を思い出した。
白いフリル付きワンピースと胡桃色の靴の娘の横に、デレデレの父親が並ぶ。
「じゃあ、俺とナナシーはカフェでデートするからな」
「とうさまとカヘでデートしてあげます」
カイさん、してあげますって言われちゃってるよ。
「ナナちゃん、カイさんをよろしくね!」
「ナナシー、父様を頼むね」
「ナナシーちゃん、お父さんをお願いね」
「‥‥‥」
「おまかせください!」
ロロとナナシーがビシッと敬礼している。一緒に住んでいた時によく二人でやっていたな、と思い出した。ロロが料理長たちのマネをして、ナナシーに教えていた。
カイは苦笑いで「じゃあ、行ってくる」と娘と手を繋いで出て行った。
ロロが、ナナちゃんとデートいいなぁと思っていたら、メイナが「カイがいない日が一日置きであるから、泊まりにおいで」と言った。ディーノがいるため、カイとマルコは、交代でギルドに泊まるからだ。
「メイナさん、カイさん家に居ないと寂しいよね」
「ギルマスと結婚したんだ。そのくらいは大丈夫だよ」
「私がギルドに泊ま」
「「ダメ」」
マルコが紅茶を入れて、ソファーにはメイナとロロが並んで、向かいにマルコが座った。三人だけで話すのは、いつ以来だろうか。
「さて、ロロ」
メイナの紺青の瞳が優しく、子供の頃のロロを見ているようだった。
「私たちの話をしよう」
* * * * * * * * * * *
「ロロちゃんは、かみがたをかえたの?」
「ん?」
奥のカフェスペースで横並びで座る親子は、ジン特製のアイスクリームを食べていた。飲み物はナナシーがホットココア、カイがアップルティーのストレートだ。
「ロロは、魔法の練習をしているんだよ。失敗を重ねて上手になるんだ」
「ロロちゃんスゴイ」
「うん、スゴイな」
それにしても、アイスクリームってこんなに美味しかったか?と、食べる機会が少ないカイは感動していた。
「そうだ、あの薄い生地で巻いた鶏肉のサラダ、美味しかったよ」
「ほんとう?おてつだいしたの!」
「ナナシーもスゴイな。また作ってくれるか?」
「はい!えへへ」
照れながら、両手でココアのカップを持って、足をパタパタさせている。
「ナナシー、俺はしばらく忙しくて家に帰れない日がある。マルコと交代でギルドで泊まりの仕事だ」
「はい」
「メイナを‥‥‥母様を頼むな」
「はい、とうさま」
聞き分けがいい娘で助かるはずが、我慢していることを考えると切なくなる。ごめんな、と言いかけたが、言葉を変えた。
「ナナシー、ありがとう」
胡桃色の真っ直ぐな髪を優しく撫でると、嬉しそうに微笑んだ。
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