40個目
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※リリィ&レイラ・料理長・マルコ視点です。
『リリィ、レイラ。明日の朝はロロのギルドカードの更新を頼みたい。それから、皆に話があるから、明日の夜は帰らずに残っていてほしい』
何故か置いていかれた金髪の青年を、ブランケットで隠した状態で背負って、ギルマスのカイがそう言った。
マルコは先に代表室へ行き、ユルはフラフラと事務室に入って魔力回復薬を飲んでいた。
何があったか知りたいが、今は話してもらえないようだ。二人は「了解です」と笑顔で答えた。
リリィとレイラは、シフト表の確認をしていた。
明日の案内人は、双子のリッツ&ルッツが引き受けてくれた。
このところ、ダンジョンブームが来始めているらしい。ベテラン冒険者の頑張りで若い冒険者を呼ぶ効果が出てきてるようで、良いことなのだが、案内人が捕まらなくなってきた。
これは、本格的に警備を雇わないといけないかもしれない。ギルマスと副代表に相談が必要だ。
「レイラさん、ギルマスたち、お疲れでしたねぇ?」
「それはきっと坊やが原因だわ。まさか預かることになるとは思わなかったわね」
「ちょ、ちょっと、レイラさぁん!また威圧ちょこっと漏れてますよぅ!香り袋!はい、ロロさんの香り袋ですよー」
「すーはーすーはー」
ロロの香り袋を出して、すーはーするレイラに、この人こんな感じだったっけ?とリリィは逆に冷静だった。
「ロロさんのギルドカード更新って、この香り袋の効果と関係ありますかね?」
「そうね」
レイラは、魔法鞄が使えなくなったあの時のことがきっかけかもしれないと思った。明日の話はそのことなのだろうか。
「明日は通常通りだけど、なるべく仕事が早く済むように動きましょう」
「了っ解」
* * * * * * * * * * *
『これからロロを迎えに行く』
厨房のカウンターでそう言ったギルマスは、不安そうな顔をしていた。
ロロはメリー氏のところで魔法鞄を作ってもらっているようだった。弟子のザックが、珈琲を美味しく入れて欲しいとか、ランチを三人分注文してきたので、ロロが好きな料理を作った。ジンは案内人をしていたので、作り置きしていたアイスクリームを渡した。
明日の夜は皆に残っていてほしい、と言われた。
『先輩、巻き込むぞ』
前にそう言っていたのを思い出した。
とうとう巻き込んでくれるのか。待ち遠しかったぞ。
皆で夕食を食べながら話したらどうだ?と言ったら、そうしてくれるなら用意を頼む、と笑っていた。随分と疲れた顔だ。そんな顔で迎えに行くのか?
トム・メンデス氏の弟子のコイルが、王都の土産にくれた珈琲を入れてやった。初めて飲むらしく、砂糖とミルクを少し入れた。香りは好みだが、味はまだ難しいようだ。だが、少し落ち着いたと礼を言って、地下に下りて行った。
厨房とカフェスペースの大掃除は大体済んだ。例の特別な客が帰ったので、夕方から閉店まで開けることにした。
「隊長、明日からコイルの冷グラス使うッスか?」
「そうだな。明日の夜に皆で使ってみよう。客に出すのは明後日からだ。それから」
「料理長、了解ッス」
明日の夜は話しながらの食事だから、手の凝ったものより簡単に食べられるものがいいだろう。アップルパイだけは確定だが。
よし、ジンが戻ったらメニューを決めるか。
* * * * * * * * * * *
マルコは、ロロの新しい魔法鞄を、これはまた凄い物を作ったもんだなと苦笑いして見ていた。
レッドドラゴンは今、存在しない。
三十年ほど前に、北の隣国ノストルドムで起きたスタンピード。それにより、レッドドラゴンは当時の高ランク冒険者たちによって討伐された。色の名を持ったドラゴンは特別で、突然卵が出現して誕生すると云われている。同じドラゴンは、同じ世に二つと存在しない。まだ卵が発見されたという情報はない。
魔法鞄職人メリー・バッガーが、どの商人から手に入れたかは知らないが、三十年前のレッドドラゴンの皮を鞣した革なのだろうか。それとも、もっと昔の‥‥‥。
「十五歳の女の子に使う素材じゃないでしょ」
まあ、でも、あの子にピッタリな色なんだよな。
今日のロロの服の色は自分で染めたらしいが、まさか偶然とはいえ魔法鞄と同じ色を着て来るとは。
防音室に、カイとロロがいる。第二王子殿下だった青年も。
二人は今、彼が聞こえている場所で、彼とロロの話をしている。皆に忘れられた青年と、自分を忘れた少女。二人が過ごした年月はあまりにも違いすぎた。
あの時、保護したのが彼だったなら。貴族に拾われたのがロロだったなら。
自分たちがそんな風に考えてしまったように、あの青年も思うのだろうか。
シロは、あの守り人は、自分たちに何を求めているのだろう。
防音室の扉が開いた。
出てきたカイは、眠ってしまったロロを抱き上げていたので、マルコが代わりに扉を閉めた。
ロロをソファーにそっと降ろして寝かせると、カイは向かいのソファーに座った。マルコがブランケットを持ってきて、ロロに掛けてやった。
「お疲れさん」
「ああ」
「ちゃんと話せた?」
「たぶん」
ふぅーっと、カイが深く息を吐いた。マルコはただ、彼の次の言葉を待った。
「ちゃんと、受け入れてくれたと、思う」
「そう‥‥‥」
今頃になって震えがきたのか、カイは自分の手のひらを見つめた。それから、震えを抑えるように指を組んで、祈るように額に付けた。
「マルコ、ロロが‥‥‥自分は幸せだ、って」
「うん」
「自分も皆を大切に想ってる、って」
「‥‥‥うん」
「愛してくれて、育ててくれた、皆に、感謝していたよ」
「‥‥‥そうか」
「俺を、お父さんって‥‥‥!」
カイの膝の上に、ポタリポタリと何かが落ちたが、マルコは見ないふりをした。
「お茶を入れてくるよ」
「‥‥‥ああ」
マルコは給湯室に行き、ゆっくりとブランデー入りの紅茶を入れた。
カイとロロの優しさが、あの青年に伝わっていてほしい。そう願った。
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『古書店の猫は本を読むらしい。』も、スローペースで連載中です。こちらもどうぞよろしくお願い致します。
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