4個目
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「‥‥‥そいつを見せてくれるか?」
魔法鞄職人メリー・バッガーが、こちらへ手を伸ばしてきたので、ロロは斜め掛けのリュックをはずし取り、渡した。まず外側から状態をみるメリーの言葉を黙って待った。
「開けるぞ?」
ロロが頷いたのを確認すると、リュックのマグネット式開封口を開いた。
「ポテトくせぇ」
「ごめんなさい、忘れてた」
フライドポテトの残りを入れていたのを、うっかり忘れていた。
「「‥‥‥」」
「あ、良かったらどうぞ」
食べ物をリュックに入れるクセがついてしまったのだから、仕方ないではないか。
メリーはリュックの中を覗くと、入っていたフライドポテトを取り出した。
「‥‥‥普通のリュックだな」
溜息を吐いた。
「付与した魔法が消えてんな。それと、このピンバッジも調べたほうがいいかもしれねぇぞ?」
「「ピンバッジも?!」」
カイとロロは、さすがにそこまで考えていなかった。
「ピンバッジの、ロロが入れた魔力も消えたってのか?」
「可能性だ。鑑定士の兄ちゃん呼べるか?」
「ちょっ、ちょっと待って!」
ロロは混乱した。もし、自分のせいだとしたら、不安材料がある。まだ誰にも話してないことが。
「嬢ちゃん、使えなくなった日のこと、詳しく話せるか?」
「く、詳しくって、どのくらい?」
ロロの様子に、カイとメリーが視線を交わす。
「何かあるのか?」
「ここでは、言えねぇことか?」
どうしよう。
頭が働かない。
甘いもの、甘いものが食べたい。でも、ない。
あああ‥‥‥。
「あ、フライドポテト食べてもいい?」
「「は?」」
もくもくもくもく、カサカサ、もくもくもくもく。
ひたすら真顔でフライドポテトを食べるロロを待つ間、カイは壁にもたれてメリーに知っていることだけ説明を始めた。
「三日前、ロロがギルドの受付でレイラと‥‥‥」
「セクシーなほうの姉さんか?」
「いや、そうかな?ん?どうかな?」
それセクハラだから。
食べながらロロは心の中でツッコんだ。
「とにかく、レイラと話していたらな、急にリュックが膨らんで重くなったそうだ」
「よく破れなかったなぁ」
「こいつが入れてんの想像つくだろ?菓子とかパンとか、そんなのばかりだ」
「ガハハハ!」
トロトロ黃鶏肉のハムも入ってたし!
「お前、そんな顔するなら自分で説明しろよ」
カイがムッとするロロに呆れながら、フライドポテトに手を伸ばし数本食べた。
「お、うまいな」
もくもくもく、カサ、カサカサ。あ、なくなった。
包み紙を小さく丸めた。
「ごちそうさまでした。メリーさん、お茶」
「小僧に似て図々しいなぁオイ。それで我慢しろ」
作業台のポットを指さしたので、ロロは近くにあったコップを手に取り、湯冷ましを入れて飲んだ。
「その、レイラって姉さんは‥‥‥」
メリーは『受付の姉さん』で覚えていて、誰がいつから働いているのか、気にしていなかった。カイもその辺はわかっているので説明をする。
「ロロがここに来る前からいた女性で、うちのメイナと仲がいい。俺にすぐに連絡してくれた。それと、リュックのことは厨房の先輩たちも知ってる」
「あぁ、テン・ジン・ドットの三人だったな。あいつらは問題ねぇなぁ」
いや問題あるから。私の鶏ハム食べちゃってるから!
コップを流しに持っていって洗いながら、また思い出してモヤモヤした。
「ね、メリーさん、このリュックは、もう?」
「無理だな、嬢ちゃん。もう一度魔法付与できる耐久性がもうねぇよ。新しいの作ってやりてぇが、まずは問題解決しねぇとよ?」
「‥‥‥作ってくれるの?」
「いい素材が手に入ったらな、それで作ってやる」
何が原因か解決しないと。また繰り返して、もし使えなくなってしまったら、なんにもならない。わかっているのだ。
カイは、黙って待ってくれている。
「あのね、カイさん」
「うん?」
「受付でレイラさんと話したあと、カイさんの所に行こうとしたの」
「うん」
「そしたらカウンターの角に足の小指をぶつけた」
「ああ、あそこな。大体みんなやってる」
「ふふっ」
変な子だと思わないだろうか?
頭のオカシイ娘だと。
「ロロ?」
気がついたら、震えていた。こんなに弱いのか、私は。
「すごく痛かったけど、ぶつけた痛みで思い出したのが、笑える」
「それは‥‥‥、失くした、記憶か?」
カイが、息を呑むのがわかった。
首を横に振った。違う、そうじゃない。
「何が怖い?ロロ」
怖いのは、
「ここに居られなくなることが、こわい」
たった十五歳の少女が震える理由。
カイは、メリーに頷いて、ロロの頭をクシャクシャと撫でると、見上げてきた露草色の瞳に告げた。
「場所を変えるぞ」
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