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林檎のロロさん  作者: Tada
4/151

4個目

ブクマ・評価・いいね、ありがとうございます。



「‥‥‥そいつを見せてくれるか?」


 魔法鞄職人メリー・バッガーが、こちらへ手を伸ばしてきたので、ロロは斜め掛けのリュックをはずし取り、渡した。まず外側から状態をみるメリーの言葉を黙って待った。


「開けるぞ?」


 ロロが頷いたのを確認すると、リュックのマグネット式開封口を開いた。


「ポテトくせぇ」

「ごめんなさい、忘れてた」


 フライドポテトの残りを入れていたのを、うっかり忘れていた。


「「‥‥‥」」

「あ、良かったらどうぞ」


 食べ物をリュックに入れるクセがついてしまったのだから、仕方ないではないか。

 メリーはリュックの中を覗くと、入っていたフライドポテトを取り出した。


「‥‥‥普通のリュックだな」


 溜息を吐いた。


「付与した魔法が消えてんな。それと、このピンバッジも調べたほうがいいかもしれねぇぞ?」

「「ピンバッジも?!」」


 カイとロロは、さすがにそこまで考えていなかった。


「ピンバッジの、ロロが入れた魔力も消えたってのか?」

「可能性だ。鑑定士の兄ちゃん呼べるか?」

「ちょっ、ちょっと待って!」


 ロロは混乱した。もし、自分のせいだとしたら、不安材料がある。まだ誰にも話してないことが。


「嬢ちゃん、使えなくなった日のこと、詳しく話せるか?」

「く、詳しくって、どのくらい?」


 ロロの様子に、カイとメリーが視線を交わす。


「何かあるのか?」

「ここでは、言えねぇことか?」


 どうしよう。


 頭が働かない。

 甘いもの、甘いものが食べたい。でも、ない。

 あああ‥‥‥。


「あ、フライドポテト食べてもいい?」

「「は?」」





 もくもくもくもく、カサカサ、もくもくもくもく。


 ひたすら真顔でフライドポテトを食べるロロを待つ間、カイは壁にもたれてメリーに知っていることだけ説明を始めた。


「三日前、ロロがギルドの受付でレイラと‥‥‥」

「セクシーなほうの姉さんか?」

「いや、そうかな?ん?どうかな?」


 それセクハラだから。


 食べながらロロは心の中でツッコんだ。


「とにかく、レイラと話していたらな、急にリュックが膨らんで重くなったそうだ」

「よく破れなかったなぁ」

「こいつが入れてんの想像つくだろ?菓子とかパンとか、そんなのばかりだ」

「ガハハハ!」


 トロトロ黃鶏肉のハムも入ってたし!


「お前、そんな顔するなら自分で説明しろよ」 

 

 カイがムッとするロロに呆れながら、フライドポテトに手を伸ばし数本食べた。


「お、うまいな」 


 もくもくもく、カサ、カサカサ。あ、なくなった。

 包み紙を小さく丸めた。


「ごちそうさまでした。メリーさん、お茶」

「小僧に似て図々しいなぁオイ。それで我慢しろ」


 作業台のポットを指さしたので、ロロは近くにあったコップを手に取り、湯冷ましを入れて飲んだ。


「その、レイラって姉さんは‥‥‥」


 メリーは『受付の姉さん』で覚えていて、誰がいつから働いているのか、気にしていなかった。カイもその辺はわかっているので説明をする。


「ロロがここに来る前からいた女性で、うちのメイナと仲がいい。俺にすぐに連絡してくれた。それと、リュックのことは厨房の先輩たちも知ってる」

「あぁ、テン・ジン・ドットの三人だったな。あいつらは問題ねぇなぁ」


 いや問題あるから。私の鶏ハム食べちゃってるから!


 コップを流しに持っていって洗いながら、また思い出してモヤモヤした。


「ね、メリーさん、このリュックは、もう?」

「無理だな、嬢ちゃん。もう一度魔法付与できる耐久性がもうねぇよ。新しいの作ってやりてぇが、まずは問題解決しねぇとよ?」

「‥‥‥作ってくれるの?」

「いい素材が手に入ったらな、それで作ってやる」


 何が原因か解決しないと。また繰り返して、もし使えなくなってしまったら、なんにもならない。わかっているのだ。

 カイは、黙って待ってくれている。


「あのね、カイさん」

「うん?」

「受付でレイラさんと話したあと、カイさんの所に行こうとしたの」 

「うん」

「そしたらカウンターの角に足の小指をぶつけた」

「ああ、あそこな。大体みんなやってる」

「ふふっ」


 変な子だと思わないだろうか?

 頭のオカシイ娘だと。


「ロロ?」


 気がついたら、震えていた。こんなに弱いのか、私は。


「すごく痛かったけど、ぶつけた痛みで思い出したのが、笑える」

「それは‥‥‥、失くした、記憶か?」


 カイが、息を呑むのがわかった。

 首を横に振った。違う、そうじゃない。


「何が怖い?ロロ」


 怖いのは、



「ここに居られなくなることが、こわい」



 たった十五歳の少女が震える理由。


 カイは、メリーに頷いて、ロロの頭をクシャクシャと撫でると、見上げてきた露草色の瞳に告げた。



「場所を変えるぞ」



 

読んでいただきありがとうございます。

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