39個目
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代表室に残るマルコに新しい魔法鞄を預け、カイとロロが防音室に入ると、右側のソファーに仰向けで眠っている人物がいた。
ゆっくり近付く。
金髪の美青年が、部屋の奥を頭にして横になっている。
キノコ少年でもなく、身内でもなさそうだった。
ん?金髪の美青年?
『ユルがちょっと客に絡まれてたな』
『金髪の美青年だったぞ?』
先日のゲイトの言葉を思い出した。
「もしかして、ユルさんに絡んだ人?」
「誰から聞いた?」
「ゲイトさん」
「ああ」
ゲイトはロロのことを少し試したな、とカイは思った。
「興味あるかって聞かれたから、あるっちゃありますね、って答えた」
「あるのか‥‥‥」
カイは、扉近くの椅子に座った。ロロも金髪青年が寝ているソファーの向かいの席に座る。
「で、誰?」
「お前が見たモヤモヤ‥‥‥オバケ?の正体だ」
「この人が?」
「ああ、どう思う?」
ロロはじっくり青年の姿を見た。
肩より少し長い緩やかな金髪、顔は白く睫毛も長い。白いシャツに濃紺のベスト。掛けられているブランケットの下もたぶん濃紺のスラックスだろう。どれも上質な感じだ。靴は脱がされていて床に揃えてある。
なんでわざわざ正体を隠したのだろう。こんなに美形なのに。美形だからか?
金髪といえば、王族。前世でスマホで読んでた小説に出てくるような王子様だ。
なんでガルネルにいるのかな?従者とか護衛騎士とか、そんな感じの人が大体いるよね?
あ、キノコ少年か!‥‥‥んん?でもあの子は森の守り人って言ってたよね。うーん。
とにかく、アレだな。
「ワケあり王子」
「お前スゴイな」
「ワケあり王子と絡まれた鑑定士」
「また本のタイトルみたいな‥‥‥。まあ、間違ってないか」
カイは、先日の話をした。
鑑定してい物があることで、鑑定士を呼べと手順を踏まずにギルドの大扉前で騒いだこと。ゲイトがユルを助けたこと。ここで、顔を顰めていたロロの瞳がキラキラしたが、カイはスルーした。
迎えに白い髪の少年が来たこと。
「白い髪の少年?」
「それがキノコ少年だ。彼は髪型はそのままで色を変えていたようだ」
なんと、しめじっぽいと思っていたが、正体は白しめじだったのか。‥‥‥違う、白い髪の少年だったわ。
また子供っぽい思考に引っ張られるところを、軌道修正した。
「若い姿での白い髪は、昔から【記憶失くしの森】の守り人だと言われている」
【記憶失くしの森】。
ここでロロとの接点が出来た。
「この人の記憶もないの?」
「いや、記憶はある」
それからカイは、今日のことを話し始めた。
二人でギルドに来て、彼が依頼した持ち物のカフスボタンを鑑定したこと。カフスボタンの持ち主が、過去にユルに酷いことをした貴族だったこと。その貴族が、金髪の青年ディーノが十三歳の時に、どうやってか攫っていって、【記憶失くしの森】に突き飛ばしたこと。ディーノがその際にカフスボタンを手に入れたこと。
「ひどい!」
「ユルとディーノの接点はそこだけだ。その貴族は、真珠と金細工のカフスボタンを好んで付けていて、複数持っていたようだな。それで、ユルの記憶とも重なったんだ」
ロロが小さい頃にユルが初めてギルドに来た時に、前髪を長くして美しい青碧の瞳が隠れていたのを思い出した。
あの時ユルは、まだ心に傷を負っていたのかもしれない。しかも、今回の鑑定したカフスボタンを見て、彼はどう思ったのだろう。
「ディーノさんは、その貴族を探しているの?」
「いや、もうその貴族は、事故で死んでる」
不穏になってきたな。え、殺してないよね?
「事故だ、とシロは言っていた」
「シロ?」
「白い髪の少年の名前だ」
「お、覚えやすい、ね」
そのシロに青年は眠らされたのだと言った。
シロによって、【記憶失くしの森】に無理矢理入れられた者と、自ら入った者の違いを教えられた。
「自分の記憶を失くした者は、自ら森に入ったそうだ」
「私は、自分で入ったの?」
どうしてだろう?
理由を知りたくても、記憶がない。
子供が一人で自ら入るなんて、普通じゃない。
「ロロ、今は話を進めるぞ?」
申し訳なさそうに、カイが言った。
「‥‥‥うん、わかった」
今は、忘れよう。考えてもわからないのだから。
「そこに眠っている彼は、森にその貴族に無理矢理入れられて、皆から存在を消されたんだよ」
「え」
存在を、消された?
「自分だけ覚えていて、周りから忘れられたんだ。ロロ、本当の彼はこの国の第二王子殿下、ディーノ・イーステニア様だ」
残酷だ。誰からも忘れられるなんて。
本来、辺境伯領に囲まれて王家の管理下にある森に、そんなことは滅多に起きないとのことだった。
「王族の誰かが関係してる‥‥‥?」
「それは、わからない。彼しか知らないことだ。魔力も封印されている。彼は十三歳から今まで、どんな思いを抱えて、生きてきたのだろうな」
二人は、金髪の美青年ディーノを見ていた。
この国の王子だと言っても、信じてもらえなかったのかもしれない。一人でここに居るということは、そういうことだ。
「シロが、彼を置いていった。二週間後に目を覚まし、一ヶ月後にシロがまた話をしに来る。ロロ、その時はお前にも居てもらいたい」
「はい」
「彼には、しばらくこのギルドで生活してもらう。シロは王子として扱わなくていいと言っている。よろしくな」
「うん」
カイが立ち上がり、ロロの横に座った。
「セクハラなんて言うなよ?」
苦笑いで、ロロの頭を撫でて肩を抱き寄せた。
ロロは大人しく、カイに体を寄せた。
「‥‥‥ねぇ、カイさん。私は幸せだよね。記憶を失くしても、ギルドのみんなに大事に育ててもらったよ」
「そうだな。そうだ。皆、お前を大切に想ってる」
「私も、みんなを大切に想ってるよ?」
「うん」
「ナナちゃんは、私の可愛い妹だし。カイさんメイナさんは、私のお父さんお母さん」
「ああ」
コツンと頭と頭をくっつけた。
「お前は、俺たちの娘だよ」
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