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林檎のロロさん  作者: Tada
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37個目

ブクマ・評価・いいね、ありがとうございます。  


※ディーノ視点です。




 シロに捨てられた。

 置いていくと言われた時に、思った感情だった。



 眠らされたことへの怒りは、直ぐに消えた。

 あの鑑定士は、私の依頼を引き受けた。断られると思っていたのに。


 ギルドの大扉前にいたあの鑑定士は、初めから自分を見る目に怯えがあったので、苛々した。説教臭い冒険者も、飄々としたギルド員も、態度が気に入らなかった。


 わかっている。


 でも、口から出る(ことば)が、止まらない。


 鑑定中の静かな時間、眠りにつくどころか、このギルドの空気が身体に堪えた。酷く疲れる。清浄な魔力なのだとシロは言っていたが、何故こんなに苦しいのか。


 ユルという男の鑑定は正確だった。あのカフスボタンは、死んだ子爵の物だ。




 十三歳の時、気が付いたら白い地の森の前に横たえられていた。

 誰かが近くで争っているようだった。「やめろ!」と叫ぶ声と呻き声がしたと思ったら、男に腕を掴まれた。抵抗したが、突き飛ばされた。白い地の中に座り込んでいた。

 周りは静かになっていた。

 近くで誰がが頭から血を流して倒れていた。死んでいるかもしれないと怖くなった。私は指から血が出ていて、カフスボタンを握っていた。突き飛ばされた時に掴んでいたようだった。

 呆けていた男はやがて私を見て、王族の血筋を手に入れたと笑っていた。何を言っている?

 どこかで悲鳴が聞こえた気がした。


 気持ち悪さと混乱と怒りで、どうにかなりそうだった。連れて行かれたのは子爵である男の屋敷で、暴れては何度も薬を使われ眠らされた。

 カフスボタンは、誕生日に姉からもらった裏側が魔法布の仕掛けがあるハンカチに包んで隠していた。開かない限りカフスボタンは出てこないので、母の形見だと言ってハンカチを手放さなかった。


 数日後に、王宮の父王と兄弟姉妹の前に連れて行かれた。子爵の考えが全くわからない。父王に、私が王族の血筋で自分が見つけました、と言っていた。



「お前など知らない」


 無表情で、父王が言った。


「だがその瞳は間違いないな」


 私の金の瞳を見て、兄のアーサーが言った。


「貴方など知らないけど、今までどうしていたの?」


 顔を顰めて、妹のエレノアが言った。


「何がしたいの?」


 私から視線を子爵に移して、姉のイザベラが言った。


「面倒なことになったなぁ」


 やれやれといった顔で、弟のライリーが言った。



 誰も、私を覚えていなかった。

 その上、秘されていた庶子だと思われていた。


 やっと帰れたと思ったのに。どうして。


「私が、何をしたっていうんだ!」


 絶望して叫ぶと、王の前で無礼だと下がらされた。

 今ではあまり使われることのない、罪を犯した王族のための塔に、幽閉された。


 父王たちは会いに来なかった。


 数日後、姉のイザベラが黒のローブを着て、深夜に隠れるように訪れた。私の事を知りたいと言った。どうせ信じないと思ったが、ハンカチを見せたり、本当は第二王子で、皆から存在を忘れられたと話したら、何か思うところがあったのか、「また来るわ」と言った。だが、姉が次に来る前に塔から目隠しをされ連れ出された。


「ここは、どこだ」 


 どこか厳かで清浄な場所だと肌で感じた。

 見えないまま、何人かに身体を押さえられ、「神官様」「封印魔法」と話し声が聞こえた後に、意識を失った。


 気がついた時には、再びあの塔の一室にいた。

 自分の魔力を感じなくなっていた。あの時、神官によって封印されたのか。


 もう、誰を、何を、信じたらいいのか、わからなくなっていた。




 側妃だった母は、私を産んで瞳の色を見ると、王位継承権の放棄を考えたいと、王に申し出ていた。兄とは一つしか歳が違わないのと、王妃とも関係が良好だったため、争いを避けたかった。私も、そんな母に兄を支えるよう育てられたので、文句はなかった。

 八歳で魔力過多による体調不良で、引き籠もることが多くなった。安定するまで、兄弟姉妹が見舞いにきて話し相手になってくれた。不安定な体調も理由に、正式に王位継承権を放棄した。

 母が急死した。病死か毒殺か、何も知らされないまま最期の別れも出来なかった。

 魔力が安定し、モヤモヤした気持ちのまま、十三歳になる年に、王立学園の中等部に入学した。魔力しかない自分は、いずれ魔術士団に入ることを考え始めていた。


 新しい年、学園の図書室で従者と居たところまで覚えている。気が付いたら、あの場所にいた。





 あの時なぜ、子爵がいた?

 誰が?王が?王妃が?兄が?姉が?他の側妃が?

 誰が私を?


 助けてほしい。

 殺してやりたい。

 殺してくれ。

 

 

 六年半が過ぎた。


 兄のアーサーが王太子になって、婚約者の侯爵家の娘と婚姻していた。

 妹のエレノアは隣国のノストルドムに嫁いで、王太子妃になっていた。

 弟のライリーは第三騎士団に入団していた。

 姉のイザベラは魔術士団に入り、副団長として国に残っていた。

 

 私だけが、何にもなれないまま、二十歳になろうとしていた。

 

 家族に対して、もう何も思わなくなった。



 ある日、王太子が来た。

 何の用かと聞いたら、平民になるなら開放する、と言った。

 もっと早く言えば直ぐに平民になってやったのに、と笑ってやったら、驚愕していた。馬鹿な王太子だ。決断が遅い。これが王になるなら、この国の先はないな。


 塔を出られる。やっと。

 だが、自由になっても、平民としての生き方を知らない。

 第一王女が来た。今更何だ?また来ると言ってから何年経ったと思ってる?そう言ったら悲しい顔をされた。苛々した。

 

 馬車に乗り、あの森に連れて行かれた。


 また記憶を消すのか?その時はお前の記憶も消してやる。そう考えていた。



「あなたですね?」



 真っ白な髪の少年が待っていた。


 第一王女は「宜しくお願い致します」と少年に言った。それから私に「元気で」と言い残し、馬車で帰って行った。

 

「これからは私が一緒にいます。私はシロです。宜しくお願いしますね。それから、よく頑張りましたね。ディーノ第二王子殿下」



 ディーノ第二王子殿下。



 久々に自分の名前を聞いて、涙が溢れた。

 

 

読んでいただきありがとうございます。

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